【馬渕磨理子氏コラム】
不安定化する世界と大阪・関西万博への期待 連載第26回

目次
トランプ2.0の余波
2025年もすでに2カ月が過ぎました。1月にはドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任し、同日のうちにいくつもの大統領令にサインしたことで大きな話題を集めました。最近では、大統領選挙中から予告していたように中国に対して追加関税を課したことで、「米中貿易戦争」の行方が世界的に注目を集めています。
具体的には、アメリカは2月4日、すべての中国製品に10%の追加関税を課しました。すると、その直後、中国が報復関税の計画を発表して、10日には一部のアメリカ製品に対する報復関税を発動しました。アメリカの石炭と液化天然ガス(LNG)製品の輸入に対する15%の国境税を含んでいるほか、原油、農業機械、大型エンジン車にも10%の関税をかけたのです。
中国はアメリカの関税は「差別的で保護主義的」であり、貿易のルールに違反しているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴しています。もちろん、トランプ大統領のアメリカが簡単に妥協することはありません。今後、世界の二大経済大国の競争は激化していくでしょうが、他方でトランプ氏は、いつ、誰と、どのような「ディール」を行なうか予測が難しい人物であることも認識していくべきです。
また、トランプ大統領は、バイデン政権時代とは真逆の環境政策を行なうことが予期されます。パリ協定から離脱する大統領令にも署名していますが、国産化石燃料の増産を重視し、前政権の紙ストロー使用推奨を取りやめて「プラスチックに戻ろう」と強調しています。こうした政策も世界的に大きな影響を及ぼすでしょう。
大阪・関西万博の好影響
このように、2025年はトランプ大統領の言動に、世界中が振り回されることは間違いありません。それでは、2025年の日本で成長が見込める業界は何でしょうか。まず、安定して成長が見込める領域は、4月13日から半年間にわたって開催される大阪・関西万博関連です。いうまでもなく、トランプ大統領の動きには関係のない分野です。
たとえば、警備関連の企業には大きな注目が集まるでしょう。昨年末、日本政府は、海外の要人の来場が当初の想定よりも多く見込まれるとして、およそ55億円増額させることを決定しました。実際に開催期間中は、警備のリソースは足りない状況になると見込まれています。また機運醸成のためのPR費を29億円増額する方針も同時に明らかにしており、関連企業は少なくとも短期的には成長する領域だと考えられます。
また、大阪・関西万博では、ドローンなどの技術を応用し、ヒトやモノを乗せて電動で飛行できる「空飛ぶクルマ」や、水素由来のエネルギーを動力源とし、二酸化炭素(CO2)を排出しない未来の船である「水素船」が目玉のパビリオンとして注目を集めるでしょう。これらの領域も、成長分野として認識するべきでしょう。
さらにいえば、大阪・関西万博が関西経済に対しても好影響を及ぼすことは間違いありません。経済効果に関しては、日本経済および地元の地域経済の活性化やビジネス機会が拡大することで中小企業の経営などが強化され、約2兆円の経済波及効果が見込まれています。関西といえば現在でもインバウンドが盛んですが、万博を契機にさらに強化されるはずです。
不安定化する世界の政治
万博以外に目を向ければ、もちろん従来の流れどおり、半導体や量子コンピュータなどの先端産業が今年も注目されるのは確実です。また、アメリカに引っ張られるかたちで、防衛産業なども成長領域となります。世界経済では、大きな論点となるのが中国市場でしょう。日本でも最近では中国市場のシュリンクが議論されています。
私の見立てをお話しすると、中国経済はいま底を打った状況ではないでしょうか。中国政府は昨年の秋、不動産不況の長期化で景気の先行きに不透明感が広がる中にあって、財政出動をともなう景気刺激策に踏み切る方針を示しました。これからは、底打ちした状態からいかに盛り上げていくかという議論になるでしょうが、かつての日本が辿ったような横ばいの時期を迎えるかもしれません。
ただ、世界経済のリスクは中国や冒頭で述べた「米中貿易戦争」だけではありません。まず、トランプ大統領や習近平国家主席のような権威主義的で強烈な個性をもつリーダーが大国を統べることは、予測不可能性が増すという意味で大きな問題ですが、今後は同じような指導者が増えていく可能性があります。それはそのまま、地政学的リスクへと結びつきます。
また、いま世界中で政治が不安定です。日本も含まれますが、少数与党の国が増えており、とくに大きな混乱が生じたのが韓国です。昨年12月、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を出して同国は大混乱に陥ると、今年1月には尹大統領は汚職事件捜査当局に拘束されました。現在に至るまで韓国の政治を巡る混乱は収まっていません。その背景には、革新系の最大野党が過半数の議席を維持していることで政治が停滞していたことがあげられます。
石破政権の地方創生の行方
政権交代が予期される国も少なくなく、ドイツやフランスも総選挙が控えており政治の今後は不透明です。いま、このように世界的に政治が混乱しているのは、一部では極右勢力の伸長として捉える向きもありますが、韓国やイギリスでは左派が力を増していますから、それだけでは説明がつきません。むしろ、生活が苦しい国民が既存勢力に対する不満を溜めていることが、各地での選挙に結果として表れているのだと思います。
世界各地で加速しているのが「分断」であり、もっとも極端なケースがアメリカであることはいうまでもありません。これだけ分断が進むと、左右いずれも自分たちにとって心地よいニュースしか聞きませんから、その間を繋ぐことは容易ではありません。日本では、他国ほどの緊迫感はないように思えますが、それでも少なくない国民が不満を溜めているのはたしかでしょう。今後は分断が加速しても不思議ではありません。
石破政権の支持率は発足から4カ月が経ちましたが、依然として低迷し続けています。どちらかといえば、景況に関係なく淡々と波瀾を起こさないように政権運営しているように見えますが、このまま夏の参院選を迎えるのかは予断を許しません。ただひとつ、石破政権の政策について注目すべき点があるとすれば、やはり地方創生でしょう。石破総理からすれば「一丁目一番地」のテーマであり、地方創生交付金の倍増も報じられていますが、はたしてどのような使われ方をするのかがポイントになります。
《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き
第14回 なぜ日本の商社に学ぶべきなのか
第15回 日本が自覚できていない「強み」とは
第16回 2024年問題のインパクトに備えよ
第17回 「稼ぐインフラ」が求められる時代
第18回 「中東紛争&台湾有事」と「インバウンド」のゆくえ
第19回 加速していくGXと生き残る企業
第20回 2024年も価値が上がる東京
第21回 2024年の資産運用のキーワードは「王道」
第22回 歴史的円安が招く時期尚早の利上げ
第23回 中小企業の賃上げをいかに実現するか
第24回 総選挙と大統領選後の日米経済
第25回 重要な議論は「103万円の壁」だけではない
お話いただいた方
馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/大阪公立大学客員准教授◎
PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリストを経て現職。イー・ギャランティ社外取締役。楽待社外取締役。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』『収入10倍アップ超速仕事術』など。

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