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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか

目次

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赤字でも将来性のある会社

コロナ禍明けで懸念されているのが、長期間にわたって業績不振の中小企業です。松下幸之助は「赤字は罪悪」という言葉を残していますが、日本社会には慢性的な赤字に苦しめられている企業が少なくありません。他方で、赤字経営を脱却して黒字に転換できている企業もあります。両者の差は、はたして何でしょうか。この4月には日本銀行の総裁が10年ぶりに代わるなど、日本経済にとってターニング・ポイントを迎えるいま、あらためて考えてみたいと思います。

まず大前提として、赤字そのものを問題視していない/すべきでない企業が存在することを念頭に置かなければいけません。たとえば、先行投資型のビジネスを展開しているのならば、赤字は当初から織り込み済みです。近年では、メルカリやマネーフォワードに代表されるスタートアップ系の企業も、そうして後に会社を大きく成長させました。あるいは、創薬系のベンチャーであれば、研究開発には莫大なお金を使わなければいけませんが、商品が成功すればたしかな利益を生み出せます。

このように先行投資に勤しんだ会社は、次第にストック型ビジネス(仕組みやインフラをつくり、定額サービスまたは従量課金のサービスを提供するようなビジネス)に移行して、どこかでのタイミングで黒字化する意志とビジョンをもっています。そうであれば赤字というだけで企業の価値や将来を判断するべきではないでしょう。

中長期的な戦略が生む好循環

投資家の目線に立てば、そのように投資をしている会社がいつ社内の環境を整えて、いわゆる転換点を迎えて回収のフェーズに入るかを見極めることが重要になります。その兆候を早くから感じ取るためには、じつに地道ではありますが、まずはその会社の業績を確認することが鉄則です。

また、さまざまな経営者の方とお会いして話を聞いて感じるのは、現状が赤字でもしっかりと投資をしている企業であれば、その経営者は「黒転します」と明言します。そして彼らが口にするのが、「KPIなどの経営指標を達成できているので業績も必ず上向く」ということです。裏を返せば、各種の経営指標の達成率を確認すれば、その企業の業績が浮上するか否かはつかめるということです。

黒字転換する企業の特徴としては、短期ではなく中長期の視点でビジネスを展開している点があげられます。彼らは少なくとも、3年から5年先は見据えています。赤字の状態を脱却して黒字が見えてきたということは、かなりしっかりと地固めができた段階ということもあり、自分たちがオーガニック(自然な流れ)でどれくらいまで成長できるかも計算できています。

そのような企業であれば、中長期の計画を立てられているはずです。これが重要で、とくに地方の中小企業の場合、地元の金融機関とつながる場合には、必ず過去3年間の実績と中長期の未来のビジョンが求められます。新しいチャレンジに対して資金をサポートしてもらうよりは、既存のビジネスモデルのなかでいかに利益を出せるかという観点が好まれる世界ともいえるでしょう。この好循環を生み出せれば、赤字脱却どころか慢性的な黒字の体質に生まれ変わります。

求められる人材投資の「メリハリ」

黒字転換をめざすうえでは、人材への投資のメリハリも重要です。たとえば、採用について考えると、営業やコンサルタントに関しては業績に直結する分野なので積極的に採っていいでしょう。その逆に課題となるのが経理部門など利益を生み出さない部門で、とくに地方の中小企業にとってはここをIT化できれば大きなチャンスとなります。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)についてはかねてから叫ばれ続けてきましたが、いまだに進んでいない企業も散見されます。もちろん、IT化への投資もコストがかかりますから、とくに中小企業のなかには時期尚早と判断している会社もあるのでしょう。ですがDXでたとえば経理の担当者の労働が半分くらいになるならば、迷わずに導入するべきです。もしもいまだに迷っている企業があれば、DXでどれくらいの労働を削減できるのかを計算して、導入コストと天秤にかけるべきです。

日本企業のクラシカルな考え方として、企業の使命のひとつは雇用を伸ばすことだと認識されがちです。もちろん、業績を向上して多くの人を雇い、そしてその分さらに業績を上げることができれば理想的な展開です。ただし、営業利益をしっかりと出す経営のかたちとしては、DXを進めて然るべき人数でビジネスを展開できれば、生産性を向上させられます。とくに赤字から黒字に転換させようとするならば、この点をまず見直したり意識すべきでしょう。

そもそも、よく「うちの会社はいま人が足りなくて」という声を聞くのですが、とくに中小企業のケースでは、人が足りたり余ったりする状況はまず生まれないと私は思っています。仕事はある意味でキリがありませんから、人はどこまでいっても足りません。それよりも向き合うべきは、適所に適切な人材を投入できていないという課題でしょう。

さきほど経理部門は利益を生まないのでIT化を進めるべきとお話ししましたが、それはもちろん、浮いた人材を解雇するという話ではありません。その人を教育して、コンサル人材にしたりホームページを制作してもらったりすればいいのです。つまりは、社内で人材をどんどん流動化させるべきでしょう。

「人が足りない」というのは会社にとって永遠の命題であり、とくに社内のどの部署も充分な体制を整えられることなど非現実的です。ならば、会社にとっていまはどのビジネスに注力して、少なくともその部門に適切な人材を投入し、それ以外の部門はIT化を進めて人不足に対処する。少なくとも、慢性的な赤字経営に陥っている企業にとっては、こうしたメリハリが必要になるはずです。

会社全体でITリテラシーを高めるべき

この文脈で黒字転換する会社の特徴をもうひとつ紹介すると、やはり人がしっかりと育っている印象を受けます。政府が提唱しているIT人材もさることながら、繰り返すようですが営業やコンサルなど利益を直接的に生み出せる分野の人材に勢いがあると感じます。とくに営業人材については、業界に関係なくM&Aや買収を活用して優秀な人間を獲得しているケースも散見されます。高い給料やインセンティブを用意するのは、もはや当たり前の時代です。

IT人材の不足についてかねてから指摘されていますが、なぜこのような状況が起きたかといえば、テクノロジーの進化の速さにビジネス界が追いつかなかったからでしょう。同様に教育制度の整備も遅れており、これはつまりIT進化が早すぎたのです。だからこそ、依然としてDXを「使いこなせる」人材が足りないままなのです。

ただ、IT人材も必要なのですが、これからの時代は営業やコンサルにもITの知識がなければ生き残れません。企業にとっては、もちろん優秀なIT人材を確保することが重要になりますが、それだけでなく会社全体としてITリテラシーを高めないといけません。つまりは時代の流れに置いていかれないような心構えが必要なわけで、この点も慢性的な赤字経営の企業に欠けている姿勢かもしれません。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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