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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか

目次

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「賃上げ」がもたらす影響

中小企業にとって、大きな課題であり続けているのが人材難ではないでしょうか。ちょうど来年度の採用も始まった時分ですが、それに先立って大きな話題となったのが「賃上げ」です。世界的なアパレルブランド「ユニクロ」や「GU」などの運営を手掛けるファーストリテイリングは今年1月11日、3月から最大約40%の賃上げを行うと発表しました。

ファーストリテイリングほどではないにしても、日本でも全国的に賃上げの雰囲気が生まれ始めています。賃上げは、優秀な人材を獲得する意志を示すうえでは、非常に有効なメッセージとなります。実際にアパレル業界では、ファーストリテイリングにこれだけ給料を上げられたら業界内の人材獲得合戦で勝つのはきわめて難しいので、他業種からの人材獲得を検討しなければいけない企業が多いでしょう。

このような流れに際しては、非常に苦しい話ではありますが、中小企業でも先んじて賃上げを行い、その分、サービスを充実させて商品などの値段を上げることも一つの戦略だと思います。理想論ではありますが、いずれにせよ先んじて仕掛ける姿勢をみせなければ優秀な人材を大企業にとられるばかりであり、その結果として良質な商品を顧客に提供することができないという悪循環に陥るばかりです。

「グローバル・ニッチ・トップ企業」の可能性

少し目線を変えて、もし私がいま大学生だと仮定してお話しするならば、就職活動では大企業は選びません。実際に10年以上前に就職活動したときには大企業ばかりを受けましたが、現在であれば、おそらくはスタートアップか「エッジ」が効いている中小企業に入りたいと思ったでしょう。この場合の「エッジ」とは、製造業であればニッチな領域でも世界で戦えている企業のことです。

あまり語られる機会が少ないですが、じつは日本にはいわゆる「グローバル・ニッチ・トップ企業」が少なくありません。たとえば、眼球の手術のときに使われる針などを製造するマニーは世界でトップクラスのシェアを誇っています。また、半導体の製造過程で使われるバルブを扱うオーケーエムや、海底ケーブルの関連部品を製造する湖北工業のような会社は、いま就職活動するならば興味を抱かされたでしょう。

斜陽と呼ばれている業界にも希望はあって、たとえば出版社やメディア産業は大いに可能性があると私は見ています。広告をはじめとするマネタイズの仕組みさえ構築できれば十分に立て直せるはずで、むしろこれだけSNSが流行っていても、いまだにメディアの影響力が強い点に目を向けるべきです。依然として言論が世の中を動かしたり方向性を決めたりしているわけで、何物にも代えがたい社会的価値を備えているという意味で将来性があります。

他方でスタートアップも候補に入れたのは、やはり資金を調達して上場するような企業のダイナミズムは、アメリカはともかく日本の大企業などで働いていても感じにくいのが正直なところです。裏を返せば、中小企業の立場に立てば、自分の会社が成長していく大きな物語を学生にみせることができれば、優秀な人材が集まる可能性は高まります。

中長期的な成長に必要な「新しい声」

ただし、大前提の話として、経営者が周囲の意見に耳を傾けないような企業は、とくにいまの時代の学生には受け入れられません。ともすれば当たり前の話ではありますが、私自身、日々の仕事で多くの経営者に接していると、リーダーに求められるもっとも基本的な資質として「人の話を聞く」ことが大切だと実感するばかりです。

もちろん、50代以上の経営者が、いまの若い世代の感覚をすべて知ることは、どうしても難しいでしょう。しかし、「若者には自分たちには網羅できない感覚がある」という現実は認識しておかなければいけません。自分の会社を中長期的に成長させたいならば、20代の社員の話を聞き、現在の社会の潮流やトレンドを追いかけながら、自分の会社をどう守ったり成長させたりするのかを考えなければいけません。

何も若者の話をすべて取り入れたり、ともすれば迎合したりするべきと申し上げたいわけではありません。新しい事実にもしっかりと耳を傾けながら、自分が腹落ちした話やアイデアに関しては受け入れればいいのです。優れた経営者は、すべからく何ごとに対してもアンテナを張っているものです。

ところが、社員のところまで下りていかず、上層部とばかりコミュニケーションを重ねる経営者が珍しくないのも事実です。とくに昔ながらの企業であれば、役職が上にあがるほどに現場の社員との距離感が広がり、面と向かってコミュニケーションするのが億劫になるという年配者は少なくありません。これでは若手社員の声が届くはずもないし、リクルートにおいてもそうした企業はどうしても敬遠されます。

若者に「選ばれる企業」とは

いまの学生たちについては、しばしば「安定志向」と評されます。たしかに、たとえば福利厚生が充実する企業に就職したいと考える若者は、以前と比べれば増えているでしょう。その一方で、自分の力でチャレンジをしてみたいからスタートアップに入りたいと願う学生だって少なくありません。つまりは、人気ある企業も二極化しているのがいまの時代ではないでしょうか。

もちろん、この風潮は良し悪しで評価すべきものではありません。むしろ、学生にとっていろいろな選択肢が用意され、自分で働き方や生き方を選びやすくなっているという意味では、豊かな社会になっているともいえましょう。その意味では、企業側が選ばれる存在になれるように努力しなければいけないともいえます。

近年、上手に若者を採用している会社としては、USEN-NEXやサイバーエージェントなどが典型例としてあげられます。サイバーエージェントのオフィスには私も訪問したことがありますが、働きやすそうなオフィスで皆がラフな服装で仕事をしていて、スーツでお邪魔した私がむしろ恥ずかしくなるくらいでした(笑)。あの自由な会社あるいは職場の雰囲気は、いまの若者にとってはじつに魅力的に映るでしょう。

また、企業にとっては新卒一括大量採用を見直すべき局面ではないでしょうか。現在の一括採用は、ある程度の新入社員が2~3年後には辞めることを見越して大量の人を雇っている側面があります。これを繰り返すことは、やはり生産的な採用の仕方とはいえないでしょう。なお、現在の日本では、学生が最初に入った会社で基本的な社会教育を受けるという点において、新卒一括大量採用は人材の社会インフラの意味合いがあるようにも感じます。

会社とは「成長の場」でもある

人材の流動性という意味では、やはりアメリカは非常にダイナミックです。ただし、ならば日本でも同じようにリストラを常態化させればいいかといえば、社会が瞬く間に混乱に陥るでしょう。というのも、日本企業はリストラせずに会社で、一人ひとりに少しでもベースの能力を上げてもらう考え方です。もちろん、この手法にもデメリットはありますが、私は日本の企業や社会のよさでもあると思います。

むしろ重要になるのは、リカレント教育を充実させて、「使える人材」を一人でも増やすことであり、そのための仕組みを整えないと会社は回りません。一時期は会社の生産性を上げるためにはDX化が最善にして唯一の道のように語られてきました。それも間違いではありませんが、現場単位で物事を能動的に解決できる人材が増えなければ、いかにテクノロジーを活用しても頭打ちになるでしょう。

岸田政権もリスキリングの充実を唱えていますが、リカレント教育はこれからの日本企業にとってきわめて重要です。会社はいまや成長の場でもあり、若者に対しても「わが社ではこんな能力を伸ばすことができる」と明示できる企業が選ばれるでしょう。実際に社員一人ひとりの能力のベースを上げることができれば、企業としての付加価値を高めることができる。その意味では、私は日本企業にはまだ引き出すべき潜在能力が眠っていると考えています。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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