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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの

目次

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日米の金融政策の違い

日本銀行は1月18日、現在の大規模な金融緩和策の修正を見送り、「現状維持」を決めました。何とも歯切れの悪い発表ではありましたが、物価も上昇はしているもののダイナミックな動きではないので、日本ではまだ大きな政策をとる必要はないとう判断だったのでしょう。これがアメリカであれば、物価が上がって雇用状況がよければ、どんどん金利を引き上げて引き締めるスタンスとなります。

とはいえ、マーケットはまだ慎重な姿勢を崩していません。さらに深掘りした金融引き締めの可能性を懸念しており、直後には日経平均は600円高になり、為替も一瞬は円安になりましたが、結局は元に戻りました。この先、日経平均が上がる可能性は低いとみるべきでしょう。為替についても、もし金融を引き締めれば110円台がみえてきたでしょうが、そうした政策は現段階ではとられていません。

アメリカの政策について説明すると、コロナ禍以降に落ち込んでいた需要は次第に回復したものの、昨年2月に始まったウクライナ戦争で供給が制約されたことで、インフレ率が上がりました。なおかつ、GDPはそんなに伸びていない。こうした状況下でふたたび供給を戻そうとしているのが現在のアメリカです。そのために、移民の受け入れを活性化させたり、コロナ禍で家庭にとどまりがちだった女性を労働市場に戻したりしようとしているのです。

アメリカは日本とは異なり、強引にでもインフレを抑え込む手法をとっています。ある意味では、GDPの成長率が鈍化したり、企業が成長できなかったりするのは仕方がないという判断です。それを承知のうえで金融政策をとっているわけですが、日本の場合はアメリカと比べればインフレ率ははるかに低いですから、まずは需要曲線を回復させることが先決とされました。私は現時点では、この判断は間違っていないと評価しています。

焦点となるインフレ目標2%

そもそも、日本ではなぜインフレ率が低いのでしょうか。理由はいくつか考えられますが、一つは企業が商品の値段を上げることを敬遠しており、同時に従業員の賃金も上がっていません。アメリカは景気自体がいいこともあり、前年と比べれば鈍化はしているものの、賃金は上昇しています。翻って日本は、インフレがそもそも起きない状況にありますから、アメリカと政策が異なるのは必然です。

日銀の黒田東彦総裁が頭のなかでいま考えているのは、おそらく失業率と賃金上昇の関係でしょう。インフレ目標2%までいけば失業率も限界まで下がり、そのあとに賃金も上昇すると考えられます。しかし、いまはまだインフレ率が抑えられていますから、この段階ではまだ金融緩和や財政出動が必要であり、利上げや増税に踏みきるべきではありません。逆にいえば、インフレ目標2%を超えてきたら、利上げや増税も選択肢に入る水準になります。

いま議論されているのが、このインフレ目標2%をすでに達成したとみなすか否か、という点です。ここで注目すべきが、4月に交代する次の日銀総裁と政府の判断で、いまの状況で継続的に達成しているとみなしたならば利上げができるという根拠になるので、その点は注視するべきでしょう。

ここで中小企業の経営者の立場にたつと、短期金利が上がっているので借り入れコストが増えており、あるシンクタンクの試算によれば、全体で4,300億円くらい負担が増えるとの見通しが出ています。当たり前の話ではありますが、金利が上がれば借り入れがしづらくなるでしょうから、中小企業にとっては気を抜けない局面が続くことになります。

とはいえ、借り入れしないと経営できない会社もあります。政府は現状、中小企業の経営者にダメージが出てくる政策を採っていますが、場合によっては補助金を手厚くする必要が生じるでしょう。なお、政府の政策について30兆円の補正予算を組んだときには規模が大きすぎるという議論もありましたが、私は問題ないと考える立場です。

政府の政策に乗れる企業とは

政府は「新しい資本主義」の加速を補正予算にも組み込んでいて、グリーン・イノベーションやリスキリングなどに力を入れていくでしょう。私は物価対策やインバウンドの回復などにも力を入れるべきと考えてしまいますが、それはともかく、企業にとってはそうした政府の政策に乗れるか否かが死活問題となります。

どのような企業が「政策に乗れる」かといえば、企業からすれば「骨太の方針」に沿うのがもっともわかりやすい対策でしょう。デジタル化にしてもグリーン・イノベーションにしても推し進めれば補助金が出ますから、経営者はその仕組みを上手に活かすことを考えて然るべきですし、そうした企業にこそ注目するべきです。

また、子育て関連の企業は以前から株価が大きく動いています。「異次元の少子化対策」が叫ばれているいま、その流れは加速するでしょう。実際に、自社は子育て関連の事業にとりくんでいるとアピールする企業が増えていて、たとえば託児所や保育所を運営していたり、虐待を感知するようなシステムをもっていたりする会社が存在感を示しています。

とくに6月に発表される「骨太の方針」では、少子化対策とグリーン・イノベーションが大きな柱になるでしょうし、投資家はすでに半年先を見据えていまから動いている。中小企業は、デジタル・トランスフォーメーションのとき、社会で叫ばれ始めてから企業が取り組むまで2年後くらいのタイムラグがありましたが、投資家はすでに先回りして動いています。

率直にいって、少子化に対して「異次元の対策」が政府から出てくるとは考えにくいというのが私の見立てです。いずれにせよ、政策が正しいか否かはすぐに結果がでる領域の話でもありません。ただし、現在の課題として日本株が割安だとよくいわれるのは、世界の投資家からみたとき、日本は人口が伸びない国でイノベーションを生み出せないとみられていることが大きな要因の一つです。ですから、岸田政権が危機感を抱いて何がしかの対策を講じるのは、正しい方向だと評価すべきでしょう。

住宅ローンの固定金利をどう見通すか

住宅ローンも依然として注目を集めています。今後、変動金利も多少の変化が生じるでしょうが、それ以上に問題になっているのが固定金利です。たとえば3500万円で35年ローンをくんだとき、黒田総裁が1.65%で固定していたときには総返済額は4,600万円ですが、金利が1.75%まで上がると4,684万円。すなわち、74万円の差が生まれます。

これが、今後はもしかしたら2%くらいまで上がる可能性があるわけで、その際には260万円も総返済額が増えることになります。1年あたりでは7万4,000円の増加ですから、家庭は少なくない影響を受けるでしょう。これから固定金利での契約を考えている方は注意が必要になります。

現在、金融機関ごとに住宅ローンの金利は異なりますが、もしもリスクを抑えたいという方がいれば、変動金利と固定金利の二つを組み合わせて契約することをお勧めします。あとは、金融機関にシミュレーションを出してもらいながら、みずからの価値観や環境に合わせて考えていくほかありません。

なお、金利については、2月10日あたりに政府から総裁の人事が出てくるとされますが、黒田総裁が最後に何かの方向性を示す可能性がゼロではありません。しかし、金融業界ではとくに大きな動きはないと考えられていますし、3月の金融政策決定会合にしても今回と同じような決着になるとみられています。いずれにせよ、大きな動きもなく4月の新体制発足を迎えることでしょう。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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