事業承継や事業継続、不動産事業、オフィス購入なら、
区分所有オフィスの【ボルテックス】

【馬渕磨理子氏連載コラム】
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか

目次

>馬渕氏の連載コラムの一覧はこちら

英語やプログラミングのように「金融」も

 現在、日本社会には数多くの課題が存在します。そのなかで、海外と比べたときに大きく遅れていると感じるのが、金融に対するリテラシーの低さです。「金融教育」の重要性が叫ばれて久しく、たしかに徐々に進んではいるものの、依然として十分とはいえないでしょう。

 たとえば、アメリカの富裕層のポートフォリオをみると、現金よりも株や不動産が占める割合がはるかに大きい。このようなバランスは日本ではまだ珍しいでしょうし、そもそも「お金」について語ることが憚れるような文化が残っているようにも見受けられます。今回は、日本でも進めるべき金融教育のかたちについて考えてみたいと思います。

 大前提として、どのようなジャンルにおいても教育とは時間がかかるものです。その意味では、高校の授業で「金融」が教えられるようになったのは、歓迎されるべきことでしょう。社会人になってから、いきなりお金について学べといわれてもどうしても難しい。その意味では高校生といわず、幼いころからお金を馴染みがある存在にするように教育環境を整えるべきだと私は考えます。

 昨今では、英語やプログラミングが小学生のころから教えられています。この光景にしても、昔では考えられなかったでしょう。そこに「金融」もこれからの時代に不可欠なリテラシーとして取り入れればいいし、そうすればごく自然に誰もが投資する社会が訪れるはずです。少なくとも、お金が汚らわしいという発想や、儲けることは浅ましいと思われることはなくなるはずです。

投資を「クローズド」から「開いた」世界へ

 金融にかぎらず、何ごとにおいてもリテラシーを高めるには経験を積むほかありません。私も、自分自身の手で資金を運用するようになってから、理解が深まったと実感しています。当時の私にとってとても印象的だったのは、「お金があるところには、お金が生まれる」という世界があることを知ったことでした。

 投資をするうえでの定石は、リスクが低くて筋のよい商品にお金を預けてリターンを得ることです。しかし、このケースでは元手が大きくなければ、それほどの恩恵を得ることはできません。逆にいえば、元手さえ大きければ安全かつしっかりと稼ぐことができる。そうした仕組みを初めて知ったとき、そもそもこの世の中ではどのようにお金が回り、生まれているかを知らなければならないと痛感しました。余談ではありますが、そうして私はいまの仕事をめざすことになるのです。

 さらにいえば、投資における重要な要素は、元手の多寡だけではありません。たとえば、給料の高い会社に勤めていれば先輩や後輩の社員で投資をしている確率は高くなり、日常会話のなかでどの銘柄がいいという話が出るかもしれません。すなわち、投資とは情報が生命線の世界であり、そうであるならば、どのようなコミュニティに属しているかという所属性が大きな要素になるのです。

 ですが私は、そうしたクローズドの世界にしてしまうからこそ、日本全体の金融リテラシーが向上しないと感じています。インターネットの発達ですでにオープンな時代に変わりつつありますが、企業側もできるだけ情報を公開して、誰でも貪欲にアクセスできるようにするべきではないでしょうか。それが、社会全体でお金を回す流れにもつながっていくはずです。

株式と不動産の違い

 金融リテラシーのテーマで、私がぜひ強調したいのが、ひと口に投資といっても株式と不動産では大きな違いがある、ということです。株式とは簡単にいえば、自分が頑張って稼いだ貯金のなかで、そこにレバレッジをかけるという発想です。裏を返せば、借金をしてまで投資をするのは本末転倒でしょう。

 一方で不動産は、勤めている会社をはじめ自分という資産を最大限に利用して、銀行に借入ができます。これもレバレッジであり、自分の身一つではなく、そのバックにあるものすべてを最大限活用するべきなのが不動産です。そうでなければ、個人が銀行から数千万円を借りることはできません。もちろん、入居者が入らずに部屋が空いたままの場合など、不動産投資にリスクがないわけではありませんが、とくに都心などではそうしたケースは稀でしょう。

 株式の投資にも抵抗がある人にとっては、いきなり不動産に投資するのはハードルが高いかもしれません。だからこそ、小さいころから金融リテラシーを高めるべきという話に戻るのですが、いずれにせよ、自分という存在に社会的価値があり、それをテコに借入するというシステムは、とくに大企業などに勤めているビジネスパーソンは意識したほうがいいと思います。

経営にも求められる金融リテラシー

 金融リテラシーという観点からお話しすると、経営においても必要不可欠な要素でもあります。本連載では以前、中小企業はとくにCFO(最高財務責任者)を置くべきと指摘しました。たとえば、資金をどう調達するかをしっかりと考えられる人材は必ず会社に必要ですし、負債をどう借入して資産に結び付けるかという意味では、企業も個人も変わりありません。

 もちろん、経営者自身に金融リテラシーがあるに越したことはありません。企業を立ち上げた場合、その時点で多少なりとも「お金を稼ごう」という意図があったはずですから、まったく無頓着な中小企業の経営者は少ないでしょう。ただし、会社が次第に大きくなるにつれて、キャッシュフローをしっかりみて、お金を適切に配分できるようにギアチェンジする必要があります。

 経営者であれば、まずBS(バランス・シート)やPL(損益計算書)が読めることが大前提でしょう。それらに目を通しながら、自分でもどう資金を調達して資産に反映させるかという感覚がなければ、その企業の先行きは大いに不安です。もしもそうしたお金の話を敬遠して、アイデアだけを考えたいのであれば、やはりCFOを置いてリスクヘッジするほかありません。

これからの投資に求められる技術

 では、逆に投資家はどのように企業や経営者をみているのでしょうか。率直に申し上げれば、個人投資家も機関投資家も、基本的にPLには注目していても、BSはみていません。なぜこのタイミングで自己資本比率を高めているのか、どうしてこの時期に借り入れをしているのか、という点はPLではわかりません。あるいはその企業がM&Aの可能性を模索している場合でも予測しきれない。他方で、BSをみればそうした企業の機微がわかります。いまの時代には、企業とは赤字か黒字かだけをみられているわけではないのです。

 また、投資家の目線に立ったとき、集めるべき情報は数字だけでもいけません。たとえば、人事情報。昨今、人的資本という言葉が盛んに用いられていますが、BSを読めることを前提に、そのようなデータではない情報の重要性を認識して、しっかりと収拾すること。これらが、これからの投資家に求められる必要最低限のリテラシーであり技術ではないでしょうか。

 裏を返せば、BSを整えられる会社とは必然的に注目を集めるということでもあります。その企業はどこに投資して、どのような資産があって、自己資本比率はどうなのか。そうした流れや数字は、その企業の歴史として残ります。M&Aが成功したか失敗したかなどはその典型例でしょう。経営者としても、その点は強く意識して然るべきではないでしょうか。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

不動産情報の一覧に戻る
  • 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

関連記事

Recommend