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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

目次

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ゴールなのか、通過点なのか

本連載の前回では、業績不振から黒字転換できる企業とできない企業の違いについて考えてみました。今回見ていきたいのは、黒字転換して新規上場したあとに、伸び続ける企業と失速する企業の差です。上場後も勢いを落とさずに、ひとつの目安として時価総額1,000億円くらいまで成長するのが理想ですが、すべての企業がそうした順調な道を歩めていないのが現実です。

まず申し上げたいのは、上場を「ゴール」と捉えている企業と、あくまでも「通過点」として認識している企業では、その後の歩みに大きな隔たりが生じるということです。もしもゴールだと考えていた場合、そこがある意味ではイグジット(出口)になるので、ベンチャーキャピタルをはじめ、これまで自分たちを応援してくれた株主にリターンを出せますし、自分たちにキャッシュも手に入るので満足度は高いでしょう。

他方で、自分たちのサービスや商品をもっと普及させることに社会的意義を感じたり、後世に残したいと本気で思ったりしている企業は、時価総額1,000億円や2,000億円などより高みをめざしていくはずです。ただし、そんな会社は東証マザーズ市場を見渡しても数%にすぎません。

また、経営者のなかに対マーケット戦略が存在しなければ、業績が伸びても、あまり注目されていないケースもあります。株価に関していえば、IR(インベスター・リレーションズ:企業が投資家に向けて経営状況や財務状況、業績動向に関する情報を発信する活動)に対しての視点が薄い企業は、どうしても注目されにくいでしょう。

日本にはより注目されるべき企業がある

日本にはより成長できるポテンシャルを秘めている「もったいない」企業は少なくありません。たとえば、ウォーターサーバーを販売しているプレミアムウォーターは堅調に事業を拡大していて、緻密な戦略を立てて業績も成長し続けています。世の中のニーズに鑑みれば、今後もその成長が鈍化することはないでしょうが、一般的にはもっと知られて然るべき素晴らしい企業だと私は思っています。

もうひとつ、私が注目している企業を紹介すると、クラウド型介護ソフト・介護システムを無料で提供しているカナミックネットワークです。これからの時代、在宅医療の件数が増えていくのは確実ですが、現在はドクター、看護師、ヘルパーが患者の情報を紙で共有しているところを、オンライン上で可視化する仕組みをつくっている企業です。

このように、日本でも着実に、新しいビジネスモデルが生まれてきています。しかし、もしもそうした企業の時価総額が100億円以下であれば、そもそもプールしている資金が少ないので、大きな戦略をとれません。だからこそ、私が時価総額1,000億円などの数字をあげているわけで、そこまでいかずとも500億円程度まで成長すれば、M&Aなど打てる手の選択肢が拡がります。

IRを疎かにしてはいけない

上場するだけで満足した場合、もしも単体のビジネスモデルでも2桁成長できるような企業であれば、それでいいでしょう。しかし、多くの会社はやがて成長が鈍化していくのが自明です。すなわち、規模を大きくしたり新しい分野に挑戦したりしなければ、持続性を担保できないのです。時価総額が小さいままで打てる手が限られていれば、企業はどうしても尻すぼみになり、銀行もやがてお金を貸してくれなくなります。残念ながら、そうしたケースは日本企業に少なくありません。

経営者は目線を高くもたなければ、最終的には自分たちの首を絞めることになります。成長戦略をつねに描かなければ、気づいたときには打つ手がなく身動きがとれなくなるでしょう。だからこそIRも重要になるわけで、具体的には、機関投資家や個人投資家に対して、細かな年間計画を作成して1on1などのミーティングやセミナーを設けて説明するべきです。

地道な作業と思われるかもしれませんが、それを積み重ねることで、実際に株価は上がりやすいです。私もアナリストとして機関投資家と同じような立場で、企業を訪問して現在の業績や戦略を事細かに聞きますが、ニュースでは見えてこない企業の現在と未来がわかります。

すなわち、IRとは一種の営業活動でもありますが、この活動を疎かにしている企業が意外に多いのです。上場している企業であれば、こうした活動を重ねていけば1年間で200億から300億円くらい時価総額が上がっても不思議はありません。企業は然るべき人間に情報をインプットさせることの重要性を再認識するべきでしょう。

依然として「割安」な日本企業

本連載でも繰り返し強調してきましたが、日本企業に対する投資環境はとてもよく、依然として割安感が強いです。たとえば、企業価値の割安感を表す数字としてPBR(株価純資産倍率)がありますが、日本では1倍を割れている企業がとても多いのが特徴で、上場企業を見ると半分の1,800社ほどにのぼります。

PBRの低さについては東証も問題視していて、これまでは低い数字も放置されてきましたが、いまでは是正が要求されています。その結果、企業によっては自社株買いなどの短期的な対応をとっていますが、そうした動きを受けて株価が上がりやすくなるというロジックのもと、数字が改善されると予測して投資するという流れが生まれています。

ただし、企業からすれば防衛も考えないといけない局面で、割安だけれども魅力的な日本企業は、アクティビストや「物言う株主」に狙われやすく、すでに多くの株を保有された老舗企業も存在します。株価は一時的に上がるので、一般の個人投資家もそうした流れに乗っかるわけで、PBRを1倍以下で放置していると、こうしたリスクもはらんでいるわけです。しかし、そうしたリテラシーや危機感をどれだけの日本企業がもっているかと考えると不安になります。

SNSに踊らされず、冷静に情勢を見極める

最後に、3月以降に世界で懸念された金融不安についても触れたいと思います。3月10日、アメリカのシリコンバレー銀行が経営破綻したとのニュースが世界を駆け巡り、その後、ヨーロッパではクレディ・スイスがスイスの銀行UBSグループに救済合併されました。じつのところ、深刻度は後者のほうが非常に高く、シリコンバレー銀行についてはビジネス相手が主にテックベンチャー企業で、再建に投資していたところ、金利が急上昇してバランスシートが崩れてしまいました。ただ、クレディ・スイスはそもそも資本自体が棄損していたので、随分前から経営危機は懸念されていました。

いずれにしても、世界的に金利が引き上げられている最中に、今回のようなかたちで信用不安が拡がったのは、非常に厄介な状況だと思います。アメリカでは基本的にシリコンバレー銀行の経営破綻は特異な現象として語られていますが、リーマン・ショックのときと比べてもSNSが普及しているので、ネガティブな見立てが世界中に伝播しやすいのが現代の特徴でしょう。ですから、リテラシーが備わっていない人間がネット上の過剰な書き込みを見ると、下手をすれば取りつけ騒ぎにも発展しかねません。

日本の場合、じつは地銀とシリコンバレー銀行の純資産に対する債券の投資比率が似通っていて、このデータだけを参照するともっと大騒ぎになってもおかしくありませんでした。コロナ禍ではマスクやトイレットペーパーの欠品が話題になりましたが、集団心理はときに理論を越えてしまうことがあります。消費財の場合は在庫調整というかたちで何とか乗り切れますが、銀行の場合は預金がなくなれば破綻するしかありません。今後も世界の金融は不安定なままかもしれませんが、疑心暗鬼にならずに冷静に情報を見極める必要性は増しているのです。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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