内部留保とは?使い道・運用やメリットを分かりやすく解説

目次
内部留保とは、企業が生み出した利益のうち社内に蓄積される資金のことで、経営を安定させるうえで重要な蓄えです。一方で、過度に積み上げると、従業員や株主への還元がおこなわれず、経済全体の停滞にもつながりかねません。
本記事では、内部留保の概要やメリット・デメリットを整理し、経営戦略としてどのように活用できるかを解説します。企業の安定した収益基盤の構築や資産形成に、ぜひお役立てください。
1. 内部留保とは?貸借対照表との関係をわかりやすく解説

はじめに、内部留保の定義や貸借対照表との関係を把握しておきましょう。
1-1. 内部留保とは、言い換えると「利益剰余金」
内部留保とは、税引き後の利益から配当などを差し引いたあとに、企業に残る資金のことです。会計上は「利益剰余金」として扱われます。
一般的な株式会社では、利益が出た場合、その一部は税金の支払いや株主への配当に充てられます。最終的な利益は、企業と株主で分け合う仕組みです。
株主の承認なしに、内部留保を自由に積み立てることはできません。 内部留保の決定には、株主の賛成が前提となることを押さえておく必要があります。
1-2. 「内部留保=現金のプール」ではない
「内部留保」と聞くと、企業が現金をため込んでいるイメージを持つ方もいるでしょう。しかし、これは正確ではありません。内部留保とは現金のプールではなく、利益のうち配当などに回されなかった金額を指します。
ここでは、内部留保の正しい理解のために、資金調達と会計の仕組みを見ていきましょう。企業は、主に以下の3つの方法で資金調達をおこないます。
資金調達の方法 | 具体例 |
売り上げによる収益 | 商品やサービスの販売で代金を得る |
借り入れによる資金 | 銀行などの融資・ローンで資金を借りる |
株式の発行 | 株主からの出資で資金を集める |
上記の方法で集めたお金を使い、経営をおこないます。資金調達や運用の結果は損益計算書(PL)や 貸借対照表(BS)で公開されます。下図はそのイメージです。

貸借対照表では、右側に「どのように資金を調達したか(負債・純資産)」、左側に「その資金がどのように使われているか(資産)」が表示されます。
内部留保は、このうち純資産に分類され、貸借対照表の右下に表示されます。 一方、企業の「現金預金」は資産として左側に記載されます。内部留保と現金預金は、まったく別の項目です。
では、なぜ「内部留保がある=現金がたくさんある」という勘違いが生じるのでしょうか。その理由は「資産(現金など)」と「純資産(内部留保など)」を混同しているためです。
内部留保の一部が現金のケースもありますが、すべてがすぐに使える現金とは限りません。 実際に現金で保有されているかどうかは、貸借対照表だけでは判断できないのです。
2. 内部留保が多いメリット

企業が利益を出した際に内部留保として残すことは、健全な経営判断のひとつです。内部留保が多い企業は、主に以下のようなメリットを享受できます。
- 金融機関から信用が得やすい
- 経営の安定に貢献する
- 新規事業や設備へ投資しやすい
2-1. 金融機関から信用が得やすい
金融機関が融資の可否を判断する際には、企業の財務基盤の安定性を重視します。このとき内部留保が多いと、信用力の高い企業として評価される傾向があります。内部留保が多いことで、不測の事態に対応できるほか、返済能力にも余裕があるとみなされるためです。
内部留保を確保しておくことは、融資を受けるうえで有利に働くポイントのひとつといえます。
2-2. 経営の安定に貢献する
内部留保は、経営の安定に大きく貢献します。潤沢な内部留保は、不測の事態が発生した場合の備えとなるからです。たとえば、経済状況の悪化や自然災害といった予期せぬ事態に直面した際にも、内部留保があれば、事業継続のための資金を確保できます。
また、資金繰りが悪化した場合も、内部留保を取り崩すことで当面の運転資金を賄うことが可能です。このように、内部留保は企業の経営リスクを軽減し、安定経営を支える要素となります。
2-3. 新規事業や設備へ投資しやすい
内部留保が豊富にあると、新規事業や設備投資に資金を投入しやすくなります。新たな事業展開や設備投資には多額の資金が必要ですが、内部留保があれば外部からの資金調達に頼らずに意思決定ができます。そのため、迅速な事業展開が可能となるでしょう。
※新規事業や設備投資にはリスクが伴い、期待通りの成果が得られない場合もありますので、十分な検討が必要です。
3. 内部留保を増やすデメリットや注意点

内部留保を増やすことには多くのメリットがある一方で、以下のデメリットや注意点も存在します。
- 労働分配率の低下や国全体の経済停滞につながる
- 株主や従業員の不満が高まる可能性がある
- 機会損失のリスクがある
3-1. 労働分配率の低下や国全体の経済停滞につながる
企業が内部留保を過度に重視すると、労働分配率の低下を招く可能性があります。労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち、人件費に充てられる割合のことです。
厚生労働省によると、将来見通しの不透明感が強いと感じる企業ほど内部留保を増加させる傾向があることが確認されています。長期的な見通しが立たない場合、業績や資金繰りの悪化に備えて、手元に資金を残す傾向があると考えられます。
しかし、従業員の所得が伸び悩むと、消費が低迷する可能性があります。ひいては経済の停滞につながる恐れがあり、国全体の課題となっています。
参考資料:
厚生労働省:「令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-:第2節 我が国において賃金が伸び悩んだ背景」
(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/23/dl/23-1-2-1_02.pdf)
3-2. 株主や従業員の不満が高まる可能性がある
内部留保を増やすことばかりに注力し、株主への配当や従業員への還元が不十分だと、不満が高まる可能性があります。企業が利益を上げた場合、株主は配当として還元されることを期待しています。また、従業員も業績向上に貢献した対価として、給与や賞与の増額を望んでいるでしょう。
そうした期待に応えられない場合は、株主や従業員のモチベーション低下につながりかねません。企業には、内部留保の蓄積と関係者への還元のバランスを適切に保つことが求められます。
3-3. 機会損失のリスクがある
内部留保を過剰に抱えると、機会損失のリスクを高める可能性があります。企業が利益を投資に回さなければ、新たな収益機会を逃してしまう可能性があるからです。たとえば、新しい技術の開発や新規事業などに投資することで、企業はさらなる成長の機会を得ることができます。
内部留保を重視するあまり、投資機会を見送ってしまうと、長期的には競争力を失うことになりかねません。内部留保は、成長のための投資の原資として活用することが重要です。
4. 内部留保を増やす方法

内部留保を効率的に増やすには、利益の拡大と支出の見直しをバランスよく進めることが重要です。
利益を伸ばすためには、自社の強みを活かした新たな事業への注力や、事業規模の拡大などが考えられます。一方、支出の削減においては、経費の見直しや仕入れ先の変更など、さまざまな方法があります。
また、業務効率を高めるシステムの導入や組織改革、人材への投資といった取り組みも、中長期的に収益力を高めます。結果として内部留保を増やすことにつながるでしょう。
5. 内部留保の使い道として不動産賃貸業という選択

先行きが不透明な時代に企業が内部留保を貯める傾向にあるのは、適切な投資先が見つかっていないことも原因のひとつです。内部留保の適切な投資先のひとつとして不動産賃貸業という選択肢があります。
ここでは、内部留保の使い道として不動産賃貸業がおすすめの理由を3つ説明します。
- 本業を支える収益基盤
- インフレ対策
- 将来的な資産形成
5-1. 本業を支える収益基盤
不動産賃貸業は主たる収益源が賃料収入のため、企業は本業以外の安定した収益源を確保できる可能性があります。本業の業績が一時的に落ち込んだ場合でも、賃料収入があれば経営の安定性を高めることができるでしょう。
余剰資金を活用して安定収益を得られる点は、不動産投資の大きな魅力のひとつです。また、不動産賃貸業で得た収益を本業に再投資すれば、事業全体の成長スピードを加速させることも可能です。
実際にボルテックスでは、本業を支える第二の柱として、早くから不動産賃貸業に取り組んできました。現在では、販管費の約半分を保有不動産からの賃料収入でカバーしており、不動産収益が本業を支える安定基盤となっています。
5-2. インフレ対策
不動産はインフレに強い資産として知られています。インフレ時には、現金の価値は低下する一方で、実物資産である不動産は価値が下落しにくい傾向にあります。
また、インフレで物価が上がると賃料も上昇する傾向があり、不動産賃貸業はインフレヘッジとしての効果的な可能性があります。内部留保を現金のまま保有せず不動産に変えることで、資産価値の目減りを回避することができるでしょう。
※経済状況や取得エリアによっては、インフレでも賃料が上昇しない場合があります。
5-3. 将来的な資産形成
企業が保有する不動産の価値が上昇した場合には、売却することで、まとまった資金を得ることが可能です。特に都心部の優良物件は価値が下がりにくい傾向があります。
さらに、資金調達の必要性が生じた際には、不動産を担保として活用することも可能です。こうした長期的な視点を踏まえれば、内部留保を不動産賃貸業に活用することは、単なる預金として蓄えておくよりも、企業の成長や資産形成に寄与する可能性があります。
下記に不動産賃貸業のひとつである貸しビル業(貸事務所業)について解説しています。ご覧いただけましたら幸いです。
※不動産投資には市場変動や物件選定などのリスクが伴います。投資を検討される際は、十分な調査を行ったうえで、自己責任にてご判断ください。

6.まとめ
内部留保は、企業が得た利益のなかから税金や配当金、給与などを差し引いて社内に蓄えておく資金を指します。財務の安定性を高めるうえで重要な役割を果たす反面、過度に増やすと企業としての機会損失や従業員・株主の不満につながる可能性があります。
そのため、内部留保をどのように活かすかが企業経営にとって重要なポイントです。一例として、不動産賃貸業への投資は安定収益の確保やインフレ対策など多くのメリットが期待できます。
今後の経営戦略のひとつとしてご参考になりましたら幸いです。


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