事業承継や事業継続、不動産事業、オフィス購入なら、
区分所有オフィスの【ボルテックス】

【馬渕磨理子氏連載コラム】
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る

目次

>馬渕氏の連載コラムの一覧はこちら

焦点となる日銀総裁の後任

2022年は、まさしく「激動」と呼ぶに相応しい一年でした。年が明けてまもない2月24日にはロシア軍がウクライナに侵攻し、戦争は依然として続いています。日本では7月に安倍晋三元首相の暗殺事件が起こりましたし、経済に目を向ければ、円安が一時は「歴史的」「記録的」などと報道され、世界的なインフレも話題になりました。

それでは、2023年、とくに日本経済にとって、もっとも注視すべきリスクは何でしょうか。ひとつは、すでに多くの報道が出始めていますが、4月に控えている日銀総裁の交代でしょう。黒田東彦現総裁の任期が切れますが、後任の総裁がいきなりドラスティックに政策を変えるとは考えにくいでしょう。それでも、国内でこれだけ利上げなどの議論がでている以上は、金融を引き締める路線の人物が後任に就く可能性は否定できません。日銀は12月20日に、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げましたが、これはイールドカーブコントロールの幅を広げただけであり、利上げではないでしょう。「事実上の利上げ」という報道はかなりインパクトのある切り口ですが、短期金利のマイナス金利を動かしていない以上、政策金利は動いていません。では、狙い、本音は何かと考えると、行き過ぎた円安に対する、単なる為替対策の可能性があります。

大規模な金融政策の転換と受け止めれば、さらなる引き締め政策が出てくる可能性が高く、市場はこの点が不透明であり混乱しています。例えば、どんな政策が出てくるかといえば、さらに上限金利を引き上げる・国債の買い入れ額を縮小する・マイナス金利を解除する・短期金利を引き上げるなど、政策に奥行きが出てきます。しかし、単なる為替対策だとすれば政策は単発であり、連続性はないことになります。

政策の修正を行ったことで、為替が7円以上動いた事実を日銀はどう受け止めているのか。思ったよりも影響が少なかった、あるいは影響が大きかったと受け止めているのか。まずは、23年1月に発表される日銀の「展望レポート」で物価の見通しに変更がなければ追加の引き締め政策はなさそうです。ただ、物価の見通しを引き上げてきた場合は23年の前半でさらなる引き締め政策が出てくる可能性があります。そうすると、以下の日銀の金融政策決定会合のスケジュールはこれまで以上に注目度が集まることになります。

3月9日~10日

4月27日~28日

そして、今後の金融政策決定会合で真の意味での「利上げ」をしてしまったら、社会はより混乱に陥ると危惧しています。賃金上昇が伴わないなかで、景気が冷え込むしかありません。折からの円安に関してお話しすると、往々にしてネガティブな要素ばかりが語られてきました。しかし、円安はJカーブ効果といってポジティブな経済効果は2年目以降に出てきます。日本では企業業績はよいものの、皆さんも実感しているとおり従業員の賃金は上がっていないので、そこで利上げをすれば高い確率で経済は冷え込みます。そこにもしも増税なども話も合わされば、市況がかなりのダメージを受けるのは明白です。

ここで問い直してほしいのが、かつて日本でなぜバブルが弾けたのか、ということです。当時の日本も利上げをきっかけにして、最終的に経済が崩壊しました。翻って現在に目を向けると、ようやく収まりつつありますが、一時期は「円安=悪」という声が聞こえるばかりでした。もちろん、円安で生じる問題点は看過すべきではありません。とはいえ過剰反応して安易な利上げを招いてしまえば、さらに恐ろしい未来が待っているかもしれません。

「指値オペ」をどう見直すべきか

これまでに述べてきた理由から、2023年は不動産を巡る環境も予断を許さないでしょう。現在、日銀は事前に指定した利回りで国債を無制限に買い取る「指値オペレーション」を実施しています。10年債を強引に0.25%以下に抑制していましたが、これを0.5%に引き上げました。

これまでは長期の10年債が0.25%という低い水準でピン留めされていたため、日米で金利差が生まれて、ドルと円のバランスが崩れて円安へと向かったわけです。日本側は為替介入などで対応しましたが、その効果は一時期にすぎません。であるならば0.25%へのピン留めの上限を引き上げたことで、ナチュラルに円高に戻っていきました。

ただし、10年債の利回りが上がれば、25~30年債など長期の住宅金利にも影響が出ます。もちろん、短期のマイナス金利も同様の話です。ですから私個人の意見としては、長期と短期の利回りは上げないように10年債の利回りだけを修正できれば理想的ですが、すでに他の金利にも影響が波及しています。

長期とはつまり住宅金利ですが、もしも個人の消費者が住宅を買わなくなれば、消費が落ち込んで不動産業界が大ダメージを受けます。また、短期はとくに中小企業の経営者が借入しているので、その金利が上がれば経営者のマインドが低下するし、設備投資も落ち込むのは目に見えています。このような事態は、言うまでもなく避けなければなりません。日米金利差に関係する10年債の利回りを触ったことで、うまく円高に誘導はできました。よって、国民のインフレやエネルギー価格の高騰に対する不安を和らげることにもつながっているでしょう。そして、120~130円台の円水準であれば、十分に円安であり、インバウンドの恩恵も引き続き期待できます。

財政はそう簡単に破綻はしない

もうひとつ、今回強調したいのが、日本経済についてはしばしば財政破綻の可能性がまことしやかに囁かれます。しかし、私は無闇にネガティブな言説を流して不安を煽るべきではないと思いますし、そもそも破綻はしないと考える立場です。

たしかに、政府の負債はもの凄い勢いで増えています。国民1人あたりに換算すれば1千万円を超えるほどです。他方で、政府は外貨をはじめ資産をもっていますし、そもそも政府の負債は家計や企業など民間の資産に変化しているといえます。この循環が正常に働いているかぎり、私は問題ないと認識しています。

もしも日本の財政が破綻するならば、貿易収支ではなく経常収支が赤字に転落したときであり、その際には円安も加速するでしょうし、かなり危うい状況になります。いずれにせよ、日本の企業体力の話であり、海外に対しての稼ぐ力が大事ですし、また日本は投資で儲けている側面もあり、韓国などと比べても構造が異なるので、そう簡単に屋台骨は揺らぎません。10年債の金利の上限を引き上げたことにより、円高に触れたことを考えれば今後、貿易収支は改善する可能性があります。

とくに地方で講演などを行なっていると、経営者の多くは現状を悲観しています。そこに「財政が破綻するとは考えにくいし、日本企業はまだ十分に戦える体力がありますよ」と数字を交えてお話しすると、皆さん一様に安堵した表情をされます。印象だけの悲観論で右往左往せず、正しい情報に接する経営者が増えれば、設備投資や採用にも好影響が生まれるはずです。

リスクを可視化して大企業と取引せよ

最後に、中小企業経営者にとって2023年は何がテーマになるのか、投資家目線で考えてみたいと思います。コロナ禍でどのような企業が競争力を加速させているかをみていくと、国がかねてからBCP(事業継続計画)の重要性を指摘してきたように、私はリスクを可視化している会社だとみています。

たとえば、熊本に進出した台湾の世界的半導体メーカーTSMCから、どう受注をとるかと考えたとき、地方の企業からすればハードルが高い話でしょう。そのとき、たとえばA4用紙4枚程度で簡易版BCPを作成して、リスクを可視化できた企業がTSMCの取引先に選ばれたという事例も出てきています。これは熊本で輸送業を営むヒサノという会社の話で、同社はBCPを作成したところ、倉庫に水害リスクがあることが判明し、対策を講じたことで、大企業からも信頼を得ました。

とはいえ、どうしても腰が重い経営者あるいは企業があるのも事実です。その場合には、たとえば複数社で連携したり、所属している協会単位で国にBCPを提出したりできる仕組みもあります。国から認定を受けられれば、税制を優遇されたり、補助金も優先的に採択されたりするメリットもありますが、それに加えてこれまで見えていなかった競争力につながるはずです。

大企業と取引をすることは、もちろん短期的な打上げのメリットになりますが、同時に企業の継続性に鑑みた際にも、非常に重要な要素のひとつとなります。コロナ禍、そしてロシア・ウクライナ戦争を前にして、突然の危機にも対応できるように足腰を鍛えることが必要であると、多くの方が気づいたはずです。そのとき、中小企業にとっては、資金力に長ける大企業と信頼に基づいた取引をすることは、ときには命綱ともなるでしょう。もちろん、多くの中小企業の経営者はそんなことは百も承知でしょうが、とはいえ言うは易く行なうは難し。だからこそ、あくまでBCPは一例にすぎませんが、メリットがある制度は貪欲に活用すべきなのです。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

事業継続の一覧に戻る
  • 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

関連記事

Recommend