事業承継や事業継続、不動産事業、オフィス購入なら、
区分所有オフィスの【ボルテックス】

【馬渕磨理子氏連載コラム】
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように

目次

>馬渕氏の連載コラムの一覧はこちら

再開へと向かっている経済

 2022年が終わろうとしています。2月に始まったロシア・ウクライナ戦争、7月の安倍晋三元首相の銃撃事件、さらには折からの世界的なインフレなど、予期せぬ出来事に次々と見舞われた1年だと総括できるでしょう。では、お金に関してはどのような年だったといえるのか、まずは振り返ってみたいと思います。

 昨今の動きとして特筆すべきが、経済が再開に向かっている影響を受けて、今年の後半から個人消費が少しずつ盛り上がってきた点です。日本は需要と供給のあいだに大きなギャップがあって、依然として需要が不足しています。ですから今回、政府は約30兆円規模の補正予算を組んだわけで、これが景気浮揚へのきっかけの一つになることが期待されます。現場の企業としても、経済再開への流れを肌で実感するケースも増えてきたのではないでしょうか。

 もちろん、すべてがすぐにパンデミック以前に戻るわけではありません。とくに中国はまだゼロコロナ政策を続けており、世界経済に甚大な影響を及ぼしています。また、インバウンドに関してもすでに6~7割まで戻ってきていますが、これからどのような方向に向かうか、やはり注視し続ける必要があります。

 企業に目を転じると、10月の日銀短観で発表された内容では、設備投資に意欲的な姿勢が見受けられます。全規模全産業で前年度比16.4%増であり、景気が悪いと感じたり、出ていくお金を強く引き締めないと考えていたりすれば、このような結果にはなりません。経済界にとっては、大きなプラスとして捉えられるニュースです。

「ドル高円安」はすでに落ち着いている

 今秋以降の最大のトピックとしては、やはり円安があげられるでしょう。一時期は一ドル150円を超えて、まさしく「歴史的」な事態だとして大きなニュースとなりました。11月半ばに入るころからようやく落ち着きを見せてきましたが、私は11月に入ったころから、これからは円高が進みそうだと各所で語ってきました。

 なぜそう予測したかといえば、11月頭に、アメリカのターミナルレート(政策金利の最終到達点)のゴールが5%程度になりそうだという兆しがみえてきたからです。現在ですでに4%を超えていますから、この先はもう大幅な利上げはないはず――。皆がそう思い始めたことで、円安がさらに加速するとは考えにくいと判断したのです。いずれにしても、「ドル高円安」はひと段落とみていいでしょう。ただし、ターミナルレートが5%以上に引き上げられた場合は注意です。

 今年のアメリカ経済は、利上げの話とそれが何%になるかが話題の中心であり続けました。来年は話が少し進み、利下げをいつ始めるかが注目されるはずです。私の予測としては、5%の手前までは上がったのちに下がるのではないかとみています。11月10日にアメリカ労働省が発表した10月度のCPI(消費差物価指数)は、前年比伸び率が7.7%ですから9月の8.2%から数字がやや鈍化しました。さすがに来年に直ちに利下げするとは考えにくいですが、議論を始める年にはなるでしょう。

なお、円安についていえば、いわゆるJカーブ効果が出てくるのはまだ先の話です。Jカーブ効果とは、たとえば外国為替市場で自国通貨の価値が上昇(下落)したとき、短期的には貿易収支が改善(悪化)し、徐々に悪化(改善)が進むことをさします。円安とは初年度はマイナスの影響が少し大きく、その次の年ぐらいからプラスに働くものです。目先の「歴史的円安」などという言葉に慌てることなく、そうした視線をもつことは投資などの面でも重要になるでしょう。

クラッシュが起きるとすればヨーロッパ発

 来年の世界経済に関していえば、景況感だけをみれば日本に非常に大きな可能性があると少なくとも私は認識しています。日本はいま金融緩和中なので、景気拡大への道半ばと認識できます。アメリカは利上げしていますが、じつのところ、それは景気が悪くないからこそともいえます。というのも、現場のアンケートをみると、むしろ好景気を実感しているという答えが少なくないのです。過熱気味の景気をあえて抑えているという表現が正しいのかもしれません。

 一方で、厳しい状況に追い込まれているのがヨーロッパです。あらためて申し上げるまでもなく、ロシア・ウクライナ戦争の後遺症に悩まされるでしょうし、とくにエネルギーをロシアにかなり依存しているので、問題は容易には解決できない。彼らはコストが上がり続けているので利上げせざるを得ない状況であり、まさしく「泣きっ面に蜂」だといえます。私は、仮にクラッシュ(経済危機)が起きるとすれば、欧州発だとみています。

では、中国はどうでしょうか。やはり、ゼロコロナ政策を続けるかぎりは、本格的に経済が再開されることはありません。いまは利下げしているので下支えはできているのですが、いずれにせよ判断軸はコロナ政策の今後です。そう考えると、やはり中国よりもヨーロッパのほうが、はるかに厳しい状況に置かれていると考えるべきです。

 具体的な日本企業についてもみていくと、やはりドルで稼げる企業、たとえばユニクロを展開するファーストリテイリングは好調ですし、信越化学のような半導体系も純利益が前年比で10%以上増える見込みです。また、日本企業も徐々にコスト上昇分を値上げし始めていますが、そうした企業はもちろん売上が上がっています。そして何よりも興味深いのは、むしろ値上げをしないと発表している企業のほうが、株価が下落する傾向にあることでしょう。

 この先、値上げをしない企業は生き残れません。これはつまり、「オンリーワン的な企業」がより求められているという傾向が、9月中間決算で明らかになったことを意味します。半導体メーカーのようなBtoBの企業はもちろんのこと、小売業や飲食業などのBtoCの企業にもいえることです。飲食店のなかでは、とくに経済再開の恩恵をうけるチェーン系の喫茶店は注目するべきでしょう。たとえば、ドトールコーヒーのように都心部に店舗を構える企業はコロナ禍からの回復が遅れていましたが、ようやく業績が好転し始めています。

米中間選挙の株価の推移を注視せよ

 最後に触れておきたいのが、11月に行われたアメリカの中間選挙です。経済的な視点からよくいわれるのが、中間選挙の後の株価の推移を歴史的に観察するべきだということです。というのも、中間選挙から2年後の大統領選挙に向けて、ニューヨークダウは反発して上昇するケースがほとんどなのです。

 これは、現政権が信任を受けたか否か、という点とは関係ありません。今回でいえば、メディアが事前に予測したとおりには共和党の勢いは伸びませんでしたが、いずれにせよ、同じように大統領選に向かってニューヨークダウは上昇していくでしょう。なぜこのような動きが起きるかといえば、今回はあくまでも「中間選挙」であり、本番はあくまでも2年後だからです。現政権は当然、選挙で勝つために株価を上げようとさまざまな対策を講じるわけで、すでに足元ではそうした動きがみてとれます。

 以上をふまえると、コツコツとでも投資するべき局面に入ったと認識するべきです。冒頭で申し上げたとおり、アメリカの金利の見通しとしてターミナルレートが5%くらいになりそうだとわかってきたので、大統領選挙を前に利下げせざるを得なくなります。そんなシナリオがすでにみえてきているわけで、来年はこの点を念頭においた投資が求められるでしょう。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

ライフスタイルの一覧に戻る
  • 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

関連記事

Recommend