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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ

目次

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アメリカは景気後退していくのか

 参院選も終わり、加えて新型コロナウイルスがまたもや感染拡大し始めていることで、日本経済の今後に思いを巡らせている方は多いでしょう。これだけ不規則な時代であれば、とくに中小企業の経営者にとっては、投資リテラシーを軌道修正しなければいけない局面ともいえます。

 昨今の市場の見方としては、「アメリカの利上げのピッチが早まって景気後退するのではないか」「日本経済や日本株もその煽りを受けて、大きなダメージを受けるのではないか」――。そんな懸念を抱いている方が多いように思います。しかし私は、日本経済はそう簡単に腰折れしないとみています。

 その理由としては、本連載でもすでに申し上げたように円安のメリットが理由の一つにあげられます。さらに歴史的なデータを紹介しますと、今年2022年はアメリカで大統領選の中間選挙が行なわれる年です。じつは過去に民主党政権が「中間選挙イヤー」を迎えたときのアメリカ株をみると、やはり今年と同じように年初から6月までは軟調ですが、そこから反発する値動きになっていることがわかります。

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 オバマ政権時代の2014年はとりわけ顕著であり、たとえば10年物米国債利回りをみると、上半期はやや落ち込んだものの次第に回復して、最終的には3%を超えました。今年も3%を下回って7月を迎えたので、やはりアメリカの景気はこのまま後退するとも囁かれましたが、いままでのメカニズムに鑑みればこれから反発するのではないかと私は予測しています。その意味において、世界経済に大きな危機が訪れるとは考えていません。

日本に備わっている「三拍子」

 そんな世界市場で、にわかに注目を集めているのが日本株です。上記のようにアメリカの景気後退を心配する声が上がっていますから、同国の株式市場からはお金が逃げている状況です。では、次にどこに投資をするかと考えたときに、有力な候補として考えられているのが日本なのです。かくいう私も、もしもアメリカ市場がこのまま軟調だったとしても、日本の平均株価は今年中に3万円台を回復するとみています。

 たとえば今年5月には、サウジアラビアの政府系ファンド(SWF)であるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が、任天堂株5.01%を29億8000万ドルで取得しました。こうした具体的な動きを海外の投資家が見逃すはずがありません。また、昨今の米中対立あるいはウクライナ情勢などをふまえて、中国が避けられ始めているという点も大きいでしょう。中国は政治リスクが高く、さらに現在は不動産市況が悪いので、手を出しにくくなっているのです。その点、日本は低金利だから不動産投資も選択肢に入れられるというわけです。

 日本市場の安定感は、現在のような危機の時代こそ際立ちます。マーケットの大きさと流動性、円安、そして民主主義国家。じつはこの「三拍子」を揃えている国は限られており、だからこそ大きな流れとして日本に目が向き始めているのです。たしかにGDPなどの数字をみれば経済成長を遂げているわけではありませんが、それでも世界から見れば投資の世界で重要な「安心感」があるのでしょう。

ウクライナ危機以降に注目されている業界

 もちろん、今後の市場の流れを考えるうえでは、ウクライナ情勢が依然として大きな影響を及ぼします。当初から予測されていたように戦争は長期化していますが、冬に入ればロシアに有利な状況ですから、さらなる泥沼化が見込まれます。現在のような状況で、金融の世界では何が注目されているのでしょうか。

 私は断じて陰謀論者ではありませんが、アメリカの軍需産業の株価が好調なのは明白ですし、後述するようにエネルギー関連企業も同様です。有り体にいえば「ダメージがあるところに張る人が急速に増える」のが市場の特徴です。もちろん、これはアメリカにかぎった話ではなく、日本市場にも当てはまります。

 ウクライナ危機以降、日本で株価が暴騰したのが農業関連です。なぜならば、食糧安全保障の観点から、自給自足の重要性が再認識されているからです。いまはやや落ち着きをみせていますが、農業の機器や肥料、農薬関連の企業が好調で、まさしく戦争に関連した動きといえます。

 世界で深刻化しているのがエネルギーの問題で、日本でも7月14日に岸田文雄首相は原子力発電所に関して「この冬でいえば、最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する」と記者会見で発言しました。たとえば、5月の消費者物価は2.1%の上昇で、これは世界的には低水準ですが、電気代に限っていえば18.6%の上昇です。原発の稼働に関しては議論が分かれるところでしょうが、いずれにせよエネルギー産業に今後も注目が集まるでしょう。

ターニングポイントは2023年春?

 7月の参院選は事前の予測どおり、自民党が大勝しました。岸田政権がこれからどう日本経済を舵取りするかが注目されますが、もしも財務省寄りの立場に立って緊縮を進めるならば、経済界・金融界は厳しい局面を迎えます。もちろん、消費増税などといった極端な政策は現実的ではないでしょうが、金融所得課税の強化などの議論が息を吹き返す可能性がある点は念頭に置くべきです。

 また、次第に後任に関する報道も目にするようになりましたが、日銀の黒田東彦総裁の任期が来年2023年4月で切れます。そこで、もしも金融を引き締める人物が次期総裁になれば、どうなるか。やはり、流れが大きく変わるでしょう。私はいずれにせよしばらく円安基調が続くとみており、ドラスティックに局面が変わるとは考えていませんが、それでも来年春のタイミングには注意が必要です。

 もう一つ、多くの読者が気になっているのが物価高騰でしょう。私の見立てをお話しすると、今後、上昇率が5%に達する可能性は低いでしょうが、3%くらいまでは上がる可能性があります。これでも海外と比べれば低水準ですが、各所から悲鳴の声があがることが予測されます。

「餃子の王将」はなぜ乗り越えたのか

 企業からすれば商品の価格を改定するべきか否か、難しい決断に迫られる場面だと思いますが、今回は最後に、値上げで成功した企業の具体例を紹介したいと思います。私がもっとも注目しているのが飲食チェーン店「餃子の王将」を展開する王将フードサービスで、同社は値上げをしたことで2022年6月に発表した5月の単月売上高が過去最高を記録しました。もちろん株価も上がっており、この成功はほかの企業にとっても大きな示唆になるでしょう。

「餃子の王将」好調の要因としては、同時期にゴールデンタイムの有名テレビ番組で紹介されたこともありますが、私は同社が徹底してきた「本当に美味しい餃子をお店で食べてもらう」という理念が大きいと思います。まず大前提として、サービスの質さえ高ければ、多少の値上げであれば消費者は不満を抱きません。加えて、「餃子の王将」はこの冷凍食品全盛の時代でも、店舗に足を運んでもらって餃子を食べてもらうことを大切にしてきました。従業員の教育にも熱心で、餃子のつくり方の動画が社内で共有されると、瞬く間に3万回も再生されたといいます。

「本当に美味しい餃子をお店で食べてもらう」というポリシーを追求することで、「餃子の王将」はこれまでに多くのファンを獲得してきました。そして、そのファンがいたからこそ、値上げは成功して業績は下がるところか上向いて、株価も好調をキープしているのです。奇をてらった手法ではありませんが、着実な事業がいかに重要であるかを気付かされる事例です。

値上げの話になると、経営目線に立てばどうしても不安が頭をよぎります。しかし、王将フードサービスの事例は日本の中小企業にとって大変希望がもてる話ではないでしょうか。顧客が納得する値上げであれば、むしろ業績は向上する。経営者にとっては、慎重であれども大胆な判断が求められる時代かもしれません。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話しいただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)様
◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』など。

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