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第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは

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乱高下する株価をどうみるべきか

 去る9月13日のニューヨーク市場で、ダウ平均株価が1200ドル以上も急落しました。アメリカの8月の消費者物価指数の上昇率が市場の予想を上回ったことで、大幅な利上げが続くという懸念が広がったためです。さらに時を遡り、8月26日の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、FRBのパウエル議長が「インフレ抑制が完了するまで金融引き締めを継続しなければならない」と発言し、高水準の政策金利を長期にわたって維持する方針を示唆しました。

 それ以前、マーケットでは高まる景気後退懸念を背景に、FRBが2023年にも利下げに転換する可能性を予測していました。それに対し、早期の利下げ観測を牽制したパウエル議長の言葉は、明確に米国株の下押し要因となりました。おそらく、マーケットに対して先走らないようにというメッセージを込めたのでしょう。

 とはいえ、金利がこの調子で上がり続けるかといえば、それはありえないとみるべきです。10年債では3.4%台ですが(9月15日時点)、この先1年間、上がったとしても4%程度までだと私はみています。ダウは今回、過剰ともいえる反応をしましたが、次第にそうした予測を織り込んだ動きへと収斂していくでしょう。

 一方で、日本のマーケットはアメリカほどには悲壮感が漂っていません。円安が続いていますが、これは日本株の支えになります。株価は乱高下しているものの、第一四半期の企業業績が好調だった点など、実体経済は堅調です。株の見方は業績と需給が一番で、最後にマクロ的な要因が出てきます。パウエル議長の発言を受けて日本株も下落しましたが、むしろベースの業績が悪くない点に注目するべきです。

「次の成長分野」を見極められているか

 マーケットで日本企業が評価されている点を申し上げるならば、まずサービス業など非製造業は、経済の再開を受けて前期と比べて回復してきています。一方の製造業は明らかに為替の下駄を履いていて、一部の投資家はこれを臨時的なものだから評価できないと語っていますが、私はおそらく円安は2~3年続くとみています。また、なかにはコロナ禍でコストカットに着手したことで、結果的に収益性が高まっているケースもありますから、そうした企業を評価して然るべきです。

 他方で、設備投資を増やして他社にはない強みをつくり、投資家に魅力ある企業をめざしている経営者も少なくありません。いま、「掛け算の経営」でもっとも成功しているケースは、やはりソニーでしょう。エレキと半導体、ゲーム、音楽、映画、そして金融など、じつにバランスよくポートフォリオを組んでいますが、これは奇跡に近いような事例であり、どの企業も真似できるかといえば難しいように思えます。

 いま、日本企業にとって試されているのは、もともとは電子機器メーカーであるオリンパスが内視鏡など医療製品にも注力したり、富士フイルムが医療機器のみならず化粧品の分野に進出したりと、祖業でなくとも自社の強みを活かして「次の成長分野」につなげることでしょう。

 それでは、投資家目線では、どのような企業がそうした柔軟かつ大胆な事業転換ができるとみているのでしょうか。往々にして想像されるのは、カリスマ的なリーダーがトップダウンで決断するケースかもしれません。しかし、日本電産が依然として後継者問題で揺れているように、持続性や再現性という観点からみると疑問です。あるいは一時期もてはやされたのが「プロ経営者」で、外資系から日系の大企業に乗り込んできた方も少なくありませんでしたが、地に足をつけて変革できた事例は多くないように思えます。

 結局のところ、自分の会社の強みと弱み、置かれている状況、そして業界の流れを堅実にわかっている経営者でなければ、大企業を立て直すことは難しいように思います。そのうえで、時には周囲から反対を受けても決断を下せる人物が求められるわけで、そう考えていくとかなりハードルが高いかもしれません。そこで、私がカギを握っていると考えているのが、マネージャークラスの人材をしっかりと引き立てられる会社であるかどうか、という点です。

成長する企業の人事とは

 会社のことを本当にわかっているのは、現場で物事を動かすときの意志決定をして、事業を牽引しているマネージャークラスです。私は、これまでの日本企業はそうした人たちの経験や能力を十分に発揮させられてこなかった、とみています。いわゆる中間管理職はもっとも苦しい立場に置かれているといわれますが、むしろ彼ら彼女らの人脈の積み重ねやノウハウを掘り起こすことが、会社を前進させるうえではもっとも早いように思うのです。

 ビジネスにおいては、やはり現場の声に勝るものはありません。マネージャークラスはマーケットの声を聞いているし、従業員との距離も近い。しかし、そうした人間が叩き上げでリーダーになれないのが、現在の日本企業ではないでしょうか。これだけ変化が激しい時代、市場の動きを肌感覚で知る人物でなければ判断はできないし、会社を牽引するという意味では、もはやMBAなどの資格に頼るような時代でもないでしょう。

 優秀なマネージャークラスがなぜトップになれないかといえば、現在のリーダーがそうした人物を「自分を脅かす存在」と認識しているからかもしれません。もしも自分よりも優秀な人物を引き立てれば、これまでの経営を否定されてしまうと危惧するのでしょうが、本当に大事なことは会社をしっかりと残すことです。その観点に立つならば、現場を知る優秀な人材を後継に指名せず、中途半端に自分の意見を聞く人物を連れてくるようでは、その会社は本当に衰退してしまいます。

 私がウォッチしているある中小企業の社長は、ガバナンスが効いているので、あえて自分よりも年配で、耳が痛いことを言う人物を会長に連れてきたケースもあります。その社長に、なぜわざわざそんな采配をしたのか話を聞くと、「それはね、成長したいからです」という答えが返ってきました。自分の考えや経験、視野だけでは限界があるし、企業が成長するにつれて自分に対してモノをいう人も少なくなった。だから本来であれば会長職など必要ないし、他の役員からは反対にあったけれども、迎え入れる決断を下したのです。私は話を聞きながら、そうした企業は成長するだろうなと実感したものです。

 投資家の目線から見た場合、そうした人事まで精査している人は少ないと思います。普通の人であれば、PL(プライマリーバランス)やBS(バランスシート)だけで判断しているケースがほとんどでしょう。他方で、機関投資家までいくと、人事情報はIRなどで発表されているので、「なぜこの人を役員に抜擢したのだろう」と考えています。それと話題になるのは社外取締役で、その企業が多様性をどれだけ重視しているかという目安になります。

ブランド力と新しい付加価値の二本柱

 日本経済では円安が続いていますが、依然として値上げをせずに我慢しようとしている企業が少なくありません。収益率の低さは、かねてより日本企業の問題点として指摘されてきました。そろそろそうした発想からは脱却するべきだし、むしろ上手く値上げをした企業のほうが、注目されたり高い評価を受けたりするケースもあるのです。

 たとえば、日清ホールディングスは一部商品を値上げしましたが、株価はなお好調です。これまでの日本の市場には珍しい傾向で、いい変化が起きている兆しと受け止めるべきでしょう。投資家が日清ホールディングスのどこに注目したかといえば、「カップヌードル」が世界的なブランドであることが評価の大前提にあります。加えて、いまでは従来の身体に悪い食べ物というイメージを覆し、むしろ一食で多くの栄養が採れるという世界観を立ち上げていることで、新しい付加価値を示しました。ブランド力と付加価値の二本柱が明確だからこそ、投資家も信頼を寄せているのです。

 企業は製品をとにかく安価で顧客に届けることが使命だと考えがちで、それも必ずしも間違っているとはいえないのですが、他方で正当な評価を受けるべきという側面もある。とくに日本企業は安く買いたたかれているように思えてなりませんし、それではかえって投資家から評価を得られません。いま一度、正当な評価を求めていくべき時代になっているのではないでしょうか。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか

お話しいただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)様
◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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