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新宿駅西口地区開発計画が口火を切る
“新宿・新時代”

目次

10~20年後を見据えた大規模再開発が行われようとしている新宿。2022年10月、プロジェクトのひとつである新宿駅西口地区開発計画がいよいよスタートしました。同計画によって、この街はどのように変わるのか? また、新宿がもつ可能性とは? 都市計画に造詣が深いフリーランスライターの小川裕夫氏に、新宿西口の開発の歴史も踏まえて伺いました。

「小田急百貨店 新宿店本館」が、店舗+オフィス+αの超高層ビルに

 2022年10月3日、小田急百貨店 新宿店本館が営業を終了し、まもなく解体されることになりました。店舗営業は新宿西口ハルクを改装したうえで継続されますが、1967年に全面開業して以来、55年にわたって新宿駅西口に存在し続けたランドマークがなくなります。同店舗は2020年の夏までエレベーターガールが常駐していたことでも知られ、一時代の終わりを感じさせます。

 そして、ここを拠点にいよいよ進行するのが新宿駅西口地区開発計画です。跡地には東京都庁を上回る高さ約260m、地上48階の超高層ビルが計画されています。竣工は2029年度の予定です。高層部にはハイグレードなオフィス機能を、中低層部には新たな顧客体験を提供する商業機能を備えるとしています。なお、オフィス機能と商業機能の中間フロアには、来街者と企業などの交流を促すビジネス創発機能を導入してイノベーションの創出を図るとしており、どこまで革新的な取り組みを実施できるのかが注目されます。IT化が進む今日においても役所での手続きはいまだ必須業務ですから、西口に都庁、東口に区役所がある新宿駅はビジネス拠点としても好立地です。新宿西口のビジネス街としては、都庁にほど近い新宿副都心の超高層ビル群に目が向けられていましたが、今後は駅西口に直結する同計画地区もビジネスエリアとしての価値が高まるかもしれません。

 なお、この計画は、駅周辺の機能が有機的に一体化した次世代のターミナルを目指す「新宿グランドターミナル」構想の一環と位置づけられています。少し先になりますが、2040年には、新宿駅東口のルミネエスト新宿が建つ場所にも超高層ビルが竣工する予定で、東西のツインタワーが完成することで新宿駅はいっそう人々が交流しやすい場所に生まれ変わります。

歩行者ネットワークの強化で人中心の街へ

 新宿駅西口地区開発計画の成否を分けるポイントは、「多くの人で自然と賑わう空間を生み出せるのか?」に尽きると私は考えています。

 新宿駅は1日約350万人が利用する世界に類を見ない大規模ターミナルですが、今後も何もせずに人が集まるわけではありません。少子高齢化が進み、郊外に続々と大規模小売店舗が建てられるようになっていますから、積極的に仕掛けなければ新宿といえども人は来てくれなくなるでしょう。

 2014年に東京23区で唯一「2040年における消滅可能性都市」とされた豊島区は、施策のひとつとして公園の整備を進め、ファミリー層を呼び込み定住率の増加を図りました。新宿区も同様に2010年前後から新宿中央公園の魅力向上を目指し、ホームレスの自立を支援したり木々を剪定して明るい雰囲気にしたりするなどして、オフィスばかりの西新宿のイメージを少しでも改善するよう努めてきました。その甲斐もあって今ではオフィスワーカーの少ない休日にもTikTokを楽しむ若者などが集まるようになり、人の流れが生まれてきています。

 新宿駅西口広場は、1960年代に反戦フォークゲリラ集会の開催地になったことから通路へと扱いを変更した歴史がありますが、「新宿グランドターミナル」構想において改めて人中心の広場に整備される予定で、西口地区計画でも連動して低層部の歩行者空間を確保します。そのほかにも、中層部に南北400mをつなぐ「スカイコリドー」と呼ぶ滞留空間や、一体的で整理された歩行者空間を作ることで、駅と人を結ぶ取り組みが実施される見込みです。また、駅の東西の回遊性も高まります。2020年には地下に東西自由通路が完成しましたが、隣接街区では「新宿セントラルプラザ」という線路上空で東西を結ぶデッキが構想されており、将来の接続を見据えて東西方向の歩行者ネットワーク強化が進みます。

 同計画は小田急電鉄と東京地下鉄が事業主体ですが、2022年2月に東急不動産の参画が新たに決定しました。渋谷で都市開発を主導した東急不動産のノウハウが、新宿西口でも生かされることが期待できそうです。

ハンデにもなりかねない「後発」「雑多さ」は新宿の強み

 この新宿駅西口地区開発計画の進展に関し、私は2つの点を注視しています。

 ひとつは、都内の再開発としては後発であるなかで、新しい新宿としての存在感を発揮できるか? という点です。緑化を推進して新しい都市群を表現した虎ノ門エリアや、TOKYO TOUCHというシンボリックな超高層ビルを含む日本橋・丸の内エリアなど、先発のエリアはそれぞれの哲学を感じさせる街づくりを実現させました。最新の建物を作り上げても、余所の真似ごとのように感じられてしまえば価値は損なわれます。独自の「イズム」を感じさせる再開発を進め、新宿ならではのよさが伝わることを願っています。

 もうひとつは、街としての一体性をどのレベルまでまとめられるのか? という点です。新宿の再開発が遅れたのは、街全体を取りまとめるデベロッパーの不在が大きな理由です。そのため渋谷や丸の内というよりも、西口・東口・南口・歌舞伎町など新宿の個々のエリア同士がライバル関係にありました。今回の新宿駅西口地区開発計画も、新宿グランドターミナル構想を担う重要な拠点ではあるものの、「グランドターミナル」の一体感を生み出し、広げられるかは未知数です。

 ただ、個人的にはやや懸念を覚えるものの、一体感を残しながらもある種の「雑多さ」を有することこそが、新宿の特徴であり魅力といえるかもしれません。同じエリア内のライバル同士が切磋琢磨し、競争力を高めていける部分も大きいでしょう。

 新宿駅西口地区開発計画は着工したばかりで、最終的にどのような形になるのか、わからない要素が多くありますが、街の姿を大きく変えるということは言えそうです。東口、南口など「新宿グランドターミナル」の他街区にも大きな刺激となるでしょう。今は、新しい新宿の誕生を心待ちにしたいと思います。

お話しいただいた方

小川裕夫 様
おがわ・ひろお
フリーランスライター

PROFILE
1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道施設などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

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