【馬渕磨理子氏コラム】
2024年の資産運用のキーワードは「王道」 連載第21回
目次
台湾総統選の影響は
2024年、年が明けて早々に日本経済が注目を集めています。本連載でも「これからは日本のお金が集まる時代」と繰り返し指摘してきましたが、日経平均株価が一時期3万6,000円を超えるなど、バブル期以降の最高値を更新しました。この流れは今後も続いていくものと思われ、またいよいよ新NISAも開始したこともあり、個人の資産をいかに形成するべきか、検討している人も多いのではないでしょうか。
まずは前提条件として、2024年に日本および日本企業を取り巻く環境について整理しておきたいと思います。今年は「選挙イヤー」ともいわれるように、多くの国で選挙が行なわれます。日本においても「裏金問題」をはじめ政局が極めて混沌としていますが、たとえ解散総選挙が行なわれなくとも、9月には自民党総裁選があります。
去る1月13日に投開票されたのが、世界を注目した台湾総統選でした。民進党副総統を務める頼清徳候補が勝利を収めたものの、得票率は前回総統選における蔡英文総統の数字と比べると大幅に落ちており、また同日の立法委員選(国会議員選)では民進党は過半数を割り込み、国民党に敗北を喫しました。日本にとって気になるのが東アジア情勢および米中対立への影響ですが、頼新総統は蔡英文路線の踏襲を明言していますから、大きな変化はないでしょう。
中国は今後も、米国から規制を受けている半導体などの領域でダメージを受け続けるでしょう。もちろん、今秋に控える米国大統領選の結果も影響するでしょうが、それでも米国がさまざまな規制をいきなり解除するとは考えにくく、また、中国経済は不動産バブルの崩壊が指摘されていますから、失速が懸念されています。とはいえ、半導体の製造装置を輸入できないなら自分たちでつくってしまうなど、自走できる可能性があるのが中国という国でもあります。
米国の金融経済と為替への影響
現在の日本にとっては中国市場を抜きに経済を回すことは、やはり現実的とはいえません。米国の規制が続く以上、半導体などのセンシティブな領域では分断が生じるでしょうが、インバウンドなどソフトの分野であれば安全保障リスクもなく、交流は続いていくのではないでしょうか。また、単純に中国への輸出に力を入れているような企業も、大きな影響は受けないものと思われます。
それに対して、米国経済はどうでしょうか。足元の数字を見ると、消費者物価指数が落ち着いてきたので、利上げについてはピークアウトの様相を呈してきています。利下げの議論が増えてくるのは歓迎すべき傾向で、温度感ある経済が米国に戻ってくるはずです。いずれにせよ、あまりにも長いあいだ、高金利を続けることは米国にとっても難しいということでしょう。
また、米国では各地で工場誘致の動きなどもありますし、また2024年は大統領選挙の年ですから、選挙対策を含めて民主党政権がいろいろな政策を打ってくる可能性がある。その意味では、今年も「投資対象」としての米国は依然として有力であり、わかりやすくいえばS&P500などで米国の全体に投資していくのは、一般的には合理的な選択になると思います。
日本への影響でいえば為替の問題です。私は1ドル130円台前半まで円高が進む可能性もあると見ています。米国が5.5%の金利を4%前半などに下げれば、もちろんそれに準じて為替は円高になります。また、国内では今年、いずれかのタイミングで日本がマイナス金利を解除するともいわれています。日米金利差が縮まれば、現在のドル買いの流れは弱まりますから、今年の大きな軸としては円高トレンドであると考えられます。
新NISA開始の影響をどう見るか
続いて国内の株式市場を見ると、今年も堅調と見込まれるのが大型株です。これはやはり、新NISAが1月にスタートして、これまで投資してこなかった人たちがマーケットに入ってくることが大きな要素となります。もちろん、米国のS&P500などを買う方も多いとは思うのですが、いわゆる「初心者」が日本の会社の株を買うと考えたとき、やはりトヨタやNTT、ソニー、任天堂や日清食品ホールディングスなど誰もが知っていて、安定している大企業が選ばれるのは自然なことでしょう。
また、私が注目しているのが銀行株で、メガバンクと地銀のいずれもかなり動いています。大手のメガバンクについてはドルで稼いでいますし、売上の半分は日本以外のところで立てている状況です。一方の地銀については、いま統廃合が進んでスリム化しており、人材を適材適所に投入するなど、数年かけて構造改革を行なってきた企業もある点が特筆されます。
たとえば、山陰合同銀行は窓口で受付業務を担当していた女性社員に対して、法人営業ができるように再教育しました。銀行の窓口業務が縮小していくなかで、担当していた社員を企業の経営者とマクロな会話をするなどコミュニケーションできるように育てたのです。かねてより人的資本への投資の重要性が叫ばれていて、それは往々にしてDXやITなどの文脈で語られますが、自社の事業を整理していくうえで、人材にどのように活躍してもらうかという基本に立ち返る。そうして山陰合同銀行は業績を向上させたのであり、いまでは地域に密着しながら、広島や岡山に留まらず関西にまで進出しています。
業界に関係なく、これからは伸びる企業と縮む企業の差が明らかになり、市場から厳しく選別されていきます。これから金利が上昇していくと、不都合な業界もあるでしょう。それでも、経済の体温感が上がっているという意味合いでは、しっかりと構造改革に着手している企業は正当な値上げをできるはずで、それは賃上げにもつながっていきます。日本企業が進む道は、決して暗くはないでしょう。
新規投資で求められる視点は「王道」
いずれにしても、新NISAが日本経済にとって起爆剤になることは間違いありません。日本の個人金融資産は2,000兆円で、これは国家予算の20倍です。新NISAをきっかけに莫大なマネーが新たに市場に入ってくれば、日本経済が盛り上がることは間違いありません。現に日本株がこれだけ上昇しているわけです。年明け早々に平均株価が3万6,000円を超えたことが大きく報道されましたが、おそらく3万8,000円~4万円までは上がるでしょう。
資産運用の観点から申し上げると、私は今年に関してはとくに王道でいいと思っています。繰り返すようですが、新しく運用し始めた方は手堅い企業に流れるはずで、あえて重箱の隅を突くような銘柄を選ぶ必要はありません。金融業化にとってマネーが流れてきて、株式投資がより当たり前の時代が訪れるわけですから、何も奇をてらう必要はないというのが私の考えです。
そのなかでは、もちろん不動産など現物をもつことも当たり前になってくるでしょう。いずれにしても、新規投資という意味では細かく運用する必要がなく放っておける投資対象がいいと思います。
《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き
第14回 なぜ日本の商社に学ぶべきなのか
第15回 日本が自覚できていない「強み」とは
第16回 2024年問題のインパクトに備えよ
第17回 「稼ぐインフラ」が求められる時代
第18回 「中東紛争&台湾有事」と「インバウンド」のゆくえ
第19回 加速していくGXと生き残る企業
第20回 2024年も価値が上がる東京
お話いただいた方
馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎
PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。イー・ギャランティ社外取締役。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』『収入10倍アップ超速仕事術』など。