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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第16回 2024年問題のインパクトに備えよ

目次

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不当に棄損されてきた物流業界の価値

本連載をお読みいただいている方で、一度は「2024年問題」という言葉を聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。企業としてどう対応していくのか、すでに議論が行われている企業も珍しくないでしょう。今回はこの「2024年問題」について見ていきたいと思います。

まず「2024年問題」の中身についてご説明すると、「働き方改革関連法」によって2024年4月1日以降、 自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されるのですが、これに附随して起きる問題の総称が「2024年問題」です。いまの時代、物流とまったく無縁で活動する企業のほうが少ないですから、多くの企業にインパクトが及ぶことが予測されます。

より簡単にいえば、トラックなどを運転するドライバーの労働時間に上限が設けられて、これまでどおりの稼働時間が確保されないようになります。つまり、今日頼んでいたものが明日には届くという世界観が、たとえば3日後や1週間後に届くようになるかもしれない。いずれにしても、来年からは物流をめぐる混乱が生じるので、企業としてはあらかじめ対策を立てる必要があります。

私はこれまで、物流業界は不必要に締めつけられてきたと考えてきました。「送料無料」という言葉が象徴しているように、モノを運ぶことの価値が軽視されて、とにかく金額を抑えるように圧迫されてきたのが物流業界です。とくにインターネットが普及して、eコマースなどの業界が送料を無料にして消費者の耳目を引こうとしたことで、そうした風潮が広がりました。その流れが、結果的に物流業界の仕事の価値を棄損してきたのですが、来年からはそうはいきません。

ただし、誤解なきように付言しておくと、eコマース業界に悪気があったわけでもありません。彼らも熾烈なレッドオーシャンの世界を生き残るうえで、自社を選んでもらう工夫として生み出したのが「送料無料」という概念でした。しかし、時には意図せずにひとつの言葉が間接的に他者のブランドを損ねることもある。「2024年問題」に関係なく、今後は物流業界のプレゼンスが正しく評価されることを望みます。

物流業界に求められる改革

現在の日本社会では、トラックなどを運転するドライバーがモノを運んでくれるからこそ、さまざまなサービスが成り立っています。そうして便利な世の中が到来しているわけですが、その皺寄せとして物流業界の現場の負担が増してきました。今回、政府が苛酷な労働環境にメスを入れたのは、その意味では必然のことでした。

物流業界からすれば、さまざまな対応に追われるなど、一時的には厳しい状況が訪れるでしょう。一人のドライバーに過度に仕事を任せられない以上、人不足が加速するかもしれません。しかし長い目で見れば、今後はその分のコストが送料に上乗せされていくことでしょう。

そもそも「送料無料」などの過剰なサービスは、日本人のデフレマインドの象徴だといえます。あるサービスに対して適正にお金を支払わなければ、とくに中小企業は値上げや賃上げに踏み切れません。その意味では、今回の「2024年問題」は日本人がデフレマインドを見直すきっかけとなるかもしれません。

もちろん、物流業界側もただ値上げすればいいわけではなく、自分たちを改革する機会にしなければいけません。その最たる例が生産性の向上で、いまいちど仕事の仕組みや流れを見直す必要性があるでしょう。物流業界に対してまずあげられる課題としては、やはりDXの遅れが指摘できます。

たとえば、物流業界ではすでに、ある荷物を運ぶうえで、どれくらいの時間がかかるのかを事前に予測して、どの経路で運ぶのがもっとも効率的なのかを判別できるように改善していくべきという流れが生まれています。人不足の問題が深刻化していく以上は、DXやAIの活用は待ったなしで、それに成功するのが生き残れる企業になるでしょう。

物流業界に発注する企業側からすれば、そうした取り組みを注視したうえで、自社の仕事の仕組みや戦略を見直さなければいけません。送料が上がるのであれば、その分のコストを自社製品の値上げというかたちで反映させるのか。あるいは、この機に別の部分を見直して生産性を上げるのか。少なくとも、まったく影響が及ばない業界のほうが珍しいと思われます。

なお、物流業界と同じように「2024年問題」が生じるのが、建築・建設業界だといわれています。やはり現場の職人が労働時間をオーバーしてでも作業に当たってきたことと、依然として思うように生産性を高められていない点が共通しています。実際に建築・建設業界の方に取材すると、やはりDXを進めていかなければいけないという危機感を口にしていました。

投資対象としての物流業界

一方で、実際に物流業界の現場で働く人びとからすれば、「2024年問題」で残業が制約され、いままでのように稼げないと心配する人たちもいるでしょう。たとえば、トヨタは部品などの送料を値上げしたり、運転手の勤務時間が制限されてもアドオンして給料が変わらないようにしたりするなど、物流企業を支えるような取り組みを発表しています。

物流業界が立ちいかなくなれば、最終的に困るのは仕事を任せている企業です。物流の現場を保護するという意識は、仕事を依頼する側ももって然るべきですし、その態度を率先して示しているのがトヨタです。中小企業の経営者にも求められる態度で、これからは自社を含むサプライチェーン全体がどう回っているのかを認識する必要があります。

今回、もうひとつ紹介したいのが、プレミアムウォーターという上場企業のケースです。同社は全国展開して水を販売しているのですが、あえて大手の物流会社とは取引していません。その代わりに、地域ごとの物流会社と直接取引することで、物流コストを抑えています。

原価が一定の水ビジネスにとっては、どれだけの利益を得られるかは物流コスト次第です。大手に依頼をすれば、そこから二次請け・三次請けの物流会社に仕事が任されるケースがありますが、いうなればプレミアムウォーターは直接、三次請けに仕事を依頼しているのです。とくに何千万本という大規模の水を売っているので、ひとつひとつの送料の違いが最終的には大きな差になります。

以上の事例は中小企業も参考にできるのではないでしょうか。地域密着の小さな物流会社のほうが少しだけ送料を安く抑えられるケースは珍しくありません。もちろんそうした三次請けの業者からしても安定的な仕事が舞い込んでくるのはありがたい話で、互いにメリットが大きい。そうして長いつき合いを重ねていけば、送料の相談などもフレキシブルに行えるでしょう。

最後に、投資対象としての日本の物流業界について考えたいと思います。今後、DXなどによって生産性が高まると予測される業界ですが、じつのところ、コロナ禍のときにブームとなり、買われ尽くされた感があります。とはいえ、ニーズが減ることはありませんから、投資対象としては底堅い業界であることは間違いありません。

たとえば、コロナ禍前より物流施設の稼働率は100%を超えていて、入居を希望する企業が絶えません。やはり、投資対象としては引き続き魅力的だといえるでしょう。また、東京や関西では人口や企業数に応じて倉庫の数が足りているようですが、名古屋では足りていないといいます。その情報をふまえれば、物流業界では今後は名古屋が成長マーケットであると予測できます。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き
第14回 なぜ日本の商社に学ぶべきなのか
第15回 日本が自覚できていない「強み」とは

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。イー・ギャランティ社外取締役。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』『収入10倍アップ超速仕事術』など。

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