事業承継や事業継続、不動産事業、オフィス購入なら、
区分所有オフィスの【ボルテックス】

【馬渕磨理子氏連載コラム】
第14回 なぜ日本の商社に学ぶべきなのか

目次

>馬渕氏の連載コラムの一覧はこちら

「投資の神様」はどこに着眼したのか

昨今、にわかに注目を集めているのが、日本の商社です。商社大手各社が発表した連結業績によれば、2023年も高利益が見込まれています。資源高に加え、円安によって「海外事業」が収益を押し上げたかたちです。今年に入り資源高・円安は落ち着き始めていますが、非資源事業強化の動きも見えるように、業界全体の今後が注目されます。

日本の商社は、なぜ経営体質が強いのでしょうか。あるいは、中小企業の経営者が商社に学ぶべきことがあるとすれば、それは何でしょうか。商社は「カップラーメンから軍事まで」という言葉があるほど、さまざまな商材を取り扱っている業態です。ただし、株式市場ではその幅広さがかえってディスカウントの要素と目されてきた歴史があります。

そんな商社に光が当たったのは、「投資の神様」との異名をもつウォーレン・バフェット氏がその総合力に着眼したことがきっかけです。世界的に知られる投資家であるバフェット氏が注目したのは、商社もまた一種の投資業を営んでいることが理由にあげられるでしょう。

たとえば、あるコンビニがレジ横で販売するフライドチキンを開発・販売したいと考えたとき、商社はどんなチキンをつくるかというところまで管轄するために、仕入れ先の畜産業にまで資本を入れます。ある意味では、本気で投資先の企業価値を高めようとしているわけです。その考え方がバフェット氏と近かったのでしょう。実際にそうして人気を博し、ブランド化されたコンビニのフライドチキンがあることは、皆さんもご存じのとおりです。

こうお話しすると、商社とは銀行に近い存在であると連想する方もいるでしょう。ある面では正しい見方ですが、しかし実際には異なります。本業をもたない銀行は、実績ありきで投資先を判断します。一方で商社の場合は、相手の企業の価値をどう上げるかという点を考えてコミットする。そうして投資が成功すれば、自社の価値も上がるわけです。以上の点から、商社と銀行とは似て非なる存在だといえるでしょう。

不規則な時代こそ商社が強い

現在、サントリーホールディングスの社長で経済同友会代表幹事を務める新浪剛史氏のように、経済界のトップで活躍している人物のなかには、商社出身の方が少なくありません。その理由を考えるならば、商社は一人ひとりが事業主のようなビジネスを展開しており、責任を負ったり自分のカラーを出したりすることが自然と身についているのでしょう。つまり、彼ら彼女らは真の意味で自立しているわけで、そうした人物が企業のトップに立てば、当然の反応として市場もポジティブに評価します。

商社の強みとしては、ポートフォリオ(資産構成)をつくったり分散したりすることの感覚が研ぎ澄まされている点があげられるでしょう。たとえば、日本の商社の現在の好調を支えているのは資源高ですが、それが落ち着いたとしても、非資源の部分でどうカバーするかがすでに考えられています。

商社ほど手広くビジネスを展開していれば、全部の事業が絶好調ということはあり得ません。それは裏を返せば、彼らはつねにバランス感覚を意識しているということです。現在のように非常に不規則かつ予測が難しい時代において、その姿勢は他業種も見習う点が多いのではないでしょうか。

私がとくに注目している日本の商社が、伊藤忠商事です。同社は「ひとりの商人、無数の使命」というコーポレートメッセージを打ち出していますが、近江商人の「三方よし」に通じる思想をもち、さまざまな事業に取り組んでいます。さらに特筆すべきは非財閥系の商社であることで、財閥系のように資源を使えないにもかかわらず、そのコンプレックスをバネに日本を代表する商社に上り詰めたとは、岡藤正広CEOもインタビューなどで語っているところです。その企業姿勢とバイタリティには目を見張ります。

深まるオーバーツーリズムへの懸念

今回は、今年下半期の市場の動向を考えたいと思います。まず、その行方が注目されるのが製造業でしょう。昨年来、厳しい状況が続きましたが、ようやく挽回生産の兆候が見え始めています。とくに期待されるのが自動車関連であり、株価も急速に上がってきています。

また、私鉄や百貨店など移動をともなう業種が好調なのも、「ポスト・コロナ」の特徴ではないでしょうか。今後も個人消費が大幅に回復する傾向が続くでしょうから、インバウンドも本格的に復活するはずです。離れてしまった中国人だって戻ってくるでしょう。とはいえ、ここで懸念されるのがオーバーツーリズムです。コロナ前からラグジュアリー・インバウンドが議論されていましたが、国外からの旅行者・観光者向けの値段を上げるなどの工夫が求められるかもしれません。

また、現在はホテルなど宿泊業が人手不足であり、インバウンドの回復に対応できない可能性も指摘されています。この問題を解決するには、従業員の賃金を上げるほかありません。いまは5月に新型コロナウイルスが2類から5類に移行されて、多くの人が歓迎していますが、観光業界の人不足は加速するかもしれない。今後はそうした弊害が生じることを予期するべきです。

いずれにせよ、観光業は日本経済の起爆剤です。そして、日本はこれからいま以上にインバウンドで稼がなければなりません。そのとき、大きな課題になりうるのがオーバーツーリズムであり、その解決策については、今年後半に議論されるべき大きなテーマではないでしょうか。

好調の持続が見込まれる不動産業界

もうひとつ、今後の日本経済の起爆剤になりうるのが、2年後に控えた大阪・関西万博でしょう。万博は五輪・パラリンピックよりも開催期間が長く、その分、経済効果が大きいといわれています。それはつまり、2025年の開催国である日本、ひいては大阪・関西が世界にリーチできる期間が長いことを意味しています。日本経済へのインパクトは大きく、これをきっかけに日本に足を運ぶリピーターを増やさなければいけません。

具体的な影響としては、大阪の不動産価格の上昇が見込まれます。いま、大阪の不動産は東京と比べると割安感があります。ですが万博をひとつのフックに、大阪のマンション価格が高騰するという報道がこれから増えるでしょう。現に不動産会社の方々はいま積極的に営業しており、その効果は明確に出てくるはずです。

懸念をあげるとすれば、新体制の日銀が利上げする可能性がゼロではない点です。ただし私は、植田和男新総裁は慎重な姿勢を堅持すると見ています。植田新総裁の会見をすべてリアルタイムでチェックすると、黒田東彦前総裁と比べて、自身の発言が誤解を招かないように、とても言葉に気を付けている印象を受けました。

岸田政権は利上げを視野に入れているとも報道されていますが、植田新総裁は賃金上昇がともなう物価目標2%を達成するまでは絶対に利上げをしないと口にしています。なおかつその物価目標2%もそう簡単にはクリアできないと見通しています。非常に丁寧なコミュニケーションを心掛けているとともに、明確なリアリストの顔をもつわけで、だからこそ植田新総裁はそう簡単にはマイナス金利を解除しないはずです。

そうであれば、とくに大阪の不動産は万博に向けて上がっていくはずです。日本の不動産企業の株はそこまで市場の評価は高くありませんが、業績を見るとどこも非常に調子がいい。少なくとも現時点ではこの傾向は持続すると考えられますし、万博が開催される2年後に向けて注目するべき業界だと思います。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

ライフスタイルの一覧に戻る
  • 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

関連記事

Recommend