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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き

目次

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なぜ米国の雇用統計が重要なのか

注目を集め続けている米国の経済ですが、5月に発表された4月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月から25万3,000人増加し、失業率が半世紀ぶりの水準となる3.4%となったことが明らかになりました。なぜ雇用統計が重要かというと、物価などとともに米国の金利政策の今後を左右する根拠となるからです。

日本の中央銀行にあたる日本銀行は、雇用に対しては責務を負っておらず、あくまでも物価の安定に力を注いでいます。この点が米国との違いであり、FRB(米連邦準備制度)は雇用を安定あるいは成長させながら、物価を安定させることが使命です。それゆえに雇用統計の善し悪しで金融政策が大きく変わるので、その数字は毎月「お祭り騒ぎ」のように注目されます。それはつまり、簡単にいえば雇用の状況が悪ければ金融緩和しなければいけないし、現在のように物価が上がり過ぎたならば引き締めようとなるわけです。

もちろん、米国の金利政策の変化は日本にも波及します。米国の金利が上昇し続ければ為替が円安になるので、中小企業にも大きな影響が生じます。ですから中小企業の経営者は為替がどう動くかについてはつねに敏感であるべきですし、それ以上に、いま申し上げたようなロジックや仕組みを知っていれば、自分の頭で素早く判断することができます。

なお、私が雇用統計を見るとき、まず確認しているのが、製造業も含む非農業部門の数字ですが、現在の筋を見ると崩れていません。つまり、米国が不景気だと叫ばれ続けていますが、生のデータを見ると、さほど深刻に捉える必要はないのです。ちなみに、米国の雇用統計は予測と実際の値が乖離しがちですが、それはレイオフが激しいなど動きがダイナックなので読み切れない部分があります。雇用統計については、そうした前提となる条件も頭に入れておく必要があります。

ある種の「政治的演出」である債務上限問題

米国に関しては、中国との経済対立がかねてより懸念されています。世界という単位で見たときに、ドルを基軸通貨としたグローバル経済の基盤は揺るがないでしょう。しかし米国からすれば、中国あるいはインドなどの経済成長は、脅威に感じているはずです。とくに現在のように与野党が対立している債務上限問題などが出てくると、そうした懸念が深まるのは明白です。

債務上限問題に関しては、米国国債がデフォルトすると語る人も少なくありませんが、結局のところ政局として見るべきでしょう。とくに米国は来年2024年秋に大統領選を控えていますから、民主党と共和党はそれを見越して、互いにパフォーマンスをしている状況です。日本の政治でもそうした「演出」はあるわけで、米国ではお馴染みの光景といえるでしょう。

日本でも心配している人が少なくありませんが、米国の過去を振り返れば、いつも債務が引き上げられる結末を迎えていることがわかります。いまや債務は30兆ドルを超え、第2次世界大戦以降に100回以上も上限をあげている国です。その歴史が、結局のところ負債が膨らんでも資産も同時に増えれば問題ないことを証明しています。

もちろん、負債の肥大化そのものは問題ですが、負債問題は、国民にとってわかりやすく、政治的に対立しやすいテーマともいえます。上限を上げて「大きな政府」として国民にサポートするという議論と、財政規律を守ろうという意見に分かれており、前者が共和党、後者が民主党の主張です。ただし、当然ながらいずれも米国の破綻を望んでいるはずもなく、本当に対立を続けていては、いつか中国に間隙を衝かれるので、下手に長引かせないように妥結点は見つけるはずです。

これからの企業に求められる「リスク分散」のマインド

昔から「米国が風邪を引けば、日本も風邪を引く」と言われてきましたが、この言葉はもちろん現在にも当てはまります。いうまでもなく、米国市場がシュリンクすれば、日本からすれば巨大なマーケットを失うでしょう。ただし現在はそれだけではなく、米国で商品を売っている企業以外に対しても、末端にまで景気悪化マインドを招くという意味で悪影響が及びます。

たとえば、トヨタのように米国と大きなビジネスをしている大企業が、米国経済の動向に影響を受けたら、どうなるでしょうか。直接は米国で商売をしていない国内の下請け企業だって、間違いなく無傷ではいられないはずです。リーマン・ショックなどはその典型例で、だからこそ日本でもあれだけの大不況が訪れたのです。

サプライチェーンが複雑に張り巡らされた時代、経営者には米国以外にもリスクを分散させるマインドが求められます。ただし、その「分散」も簡単な話ではありません。中国はもはや政治リスクが大きいですし、インドは商慣習が大きく異なり、すでに撤退している日本企業も少なくない。そう考えていくと、やはり東南アジアがホットな地域になるのではないでしょうか。

ただし、インドに限らず、グローバルに事業を展開するとは、文化や歴史が異なる国や地域に自分たちの価値を知ってもらうことですから、口でいうほど簡単なことではありません。その意味では、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングは非常に難易度の高いミッションをクリアしているといえるでしょう。いずれにせよ、日本の人口減少を止めることが難しい以上、ドメスティックな展開だけでは無理があります。

自動車の「一本足打法」から脱却せよ

海外に向けたビジネスといえば、日本では昔より真っ先に自動車産業が思い浮かびますが、これからますます重要になるのは、連日のように報道されている半導体産業でしょう。半導体はもはや「石油以上の戦略物資」とも呼ばれており、かつての「産業のコメ」という言葉が現実のものになったといえるでしょう。

その意味では、国も支援している次世代半導体の開発をめざすRapidus(ラピダス)の設立や、台湾のTSMCを台湾に誘致したり、韓国のサムスン電子が横浜に拠点を置くとの報道が流れたりと、徐々に新しい動きが出始めています。この点に関しては、遅まきながらも日本もかなり手を打っていると感じますし、評価されるべきでしょう。

半導体産業が復活を遂げることができれば、今後、AI産業やEV(電気自動車)など重要な領域で付加価値を載せていくことができます。裏を返せば、半導体産業の復活がなければ、そうした先端産業でも後れをとるということです。その意味では、半導体とはまさしく国の経済や古来の強みである製造業の根幹を成す産業であり、日本の現在のよい流れが加速することを願うばかりです。

とはいえ、私は日本の基幹産業は分散させていくべきと考えています。いまでいえば、エンタテインメント業界は大きな強みのひとつでしょう。かつて「クール・ジャパン」と叫ばれていた時代とは異なり、いまでは民間企業がそれぞれ頑張っていて、たとえば最近のアニメでは「THE FIRST SLAM DUNK」や「すずめの戸締まり」などが国内外で大ヒットしているわけです。

また、観光業や農水産物の輸出も基幹産業として力を入れていくべきです。とくに観光業に関してはようやくパンデミックも落ち着いてきて、外国人観光客に日本にお金を落としてもらう環境が復活してきました。日本はこれまで自動車の「一本足打法」を強いられる時代もありましたが、そうした業界にもしもゲームチェンジが起こったとき、ほかに頼りうる柱として観光業や農水産業、さらにはエンタメを育てていかなければいけません。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』など。

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