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【馬渕磨理子氏連載コラム】
第17回 「稼ぐインフラ」が求められる時代

目次

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新しい資本主義の根幹

「PPP/PFIは、民のノウハウを官に活かすことで、社会課題の解決と経済成長を同時に実現していくものであり、新しい資本主義の中核となる新たな官民連携の柱として、強力に推進していきます」

冒頭で紹介したのは、今年6月2日の岸田文雄首相の発言です。総理大臣官邸で第19回民間資金等活用事業推進会議が開催されて「PPP(官民連携事業)/PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)推進アクションプラン」が議論されたときのものですが、「PPP/PFI」については、近年になって耳にする機会が増えたという方も少なくないでしょう。

PPPとは主に「官民連携」という言葉が用いられるように、官と民が連携して公共サービスの提供を行うスキームのことです(PPPとはパブリック・プライベート・パートナーシップの略称)。そして、そのPPPの代表的な手法のひとつがPFIで、もともとは1992年にイギリスで生まれた行財政改革の手法として知られます。

岸田首相が「新しい資本主義の中核」と強調しているように、PPP/PFIは今後の日本を考えるうえで欠かせないキーワードです。たとえば、これからはインフラの運営を民に任せる発想が重要になることは間違いありません。なぜならば、国の予算は毎年のように規模が大きくなっていますが、国交省は予算を確保しにくいという現実があるからです。

高度経済成長期のように、国全体が上り調子であれば、道路にしても橋にしても積極的に建築してよかったのかもしれません。ですが、いまはそうしたフェーズではないことは明らかでしょう。その結果、国交省は予算の面でほかの省庁に劣後するケースが少なくないのです。

しかし、いうまでもなくインフラとはわれわれ国民が暮らしていくうえでの基盤であり、とくにかねてより老朽化が指摘されている道路や水道などの維持や修繕、管理には莫大な費用がかかります。もはやメンテナンスを国がすべて賄う仕組みには限界があり、だからこそPPP/PFIの発想に至るのです。

「稼ぐインフラ」の時代

とくにいま、税金の使われ方が大きな議論となっています。防衛費倍増の財源の問題が取り沙汰されていますが、社会保障や子育て政策も喫緊の課題であり、政治家としてもそうした身の回りの問題に着手したほうが有権者からの評価が上がりやすい。既存のインフラの修繕は、暮らしの改善というよりは現状維持なので、目に見える成果として語られにくいのです。

そこで民間の力が必要になってくるわけで、PPP/PFIとはつまり「稼ぐインフラ」という世界観です。インフラで「稼ぐ」という表現を用いると、意外に思われる方も多いかもしれません。たとえば、愛知県の前田建設(インフロニア・ホールディングス傘下)は、自社が代表企業とするコンソーシアムが「愛知道路コンセッション(ARC)」を設立して、2016年より民間事業者として初めて有料道路の維持管理や運営を担っています。

ARCが運営を担う対象路線は、知多半島道路や南知多道路など愛知県内の8路線で全長は72.5kmに及びます。目指しているのは、道路の利用者や地域、道路管理者である愛知県道路公社、そして民間事業者であるARCの三者それぞれに利点がある「三方よし」の実現であり、民間事業者ならではのさまざまなアイデアを導入することで、コロナ禍前にはかなりの利益を出して行政にも還元しています。 具体的にどう「稼いでいるか」といえば、通行料に関しては日によって値段を変動させるダイナミック・プライシングを取り入れたり、インターチェンジを運営しているので魅力的な店舗を増やしたりするなどの施策を行いました。そうした柔軟な現場の運営については、やはり国よりも民間のほうが高い生産性を発揮できる部分が多いでしょう。

地域の建設会社の重要性

以上は道路のケースですが、前田建設工業がやはり自社が代表企業であるグループが共同出資して設立した「みおつくし工業用水コンセッション」は、大阪市と公共施設等運営権実施契約を締結しており、2022年4月から同市の工業用水道を運営し始めています。

水道管路の老朽化はかなり深刻で、全国的に見ても法定耐用年数を超えた水道管路が年々増加していて、すでに全体の20%に迫っています。水道に関わる職員の数も減少の一途を辿っており、もはや国や自治体では維持管理できない。そこで、やはり民間の出番が訪れたのです。

ちなみに、水道のメンテナンスは想像以上に大変で、法律上、ひとつひとつアスファルトをひっくり返して検査しなければいけませんでした。しかし、いまでは超音波など最新の技術を使えば地上からでも問題を見つけられるため、それぞれを掘る必要はないという法律に変わるなど規制が緩和されました。岸田政権の英断であり、多くの批判が向けられて支持率も低迷していますが、着実に仕事をしている側面があるのも事実です。

ただし、大手ゼネコンが日本中のインフラを整備できるのかといえば、それは現実的ではありません。また、そうすべきでもないと私は思います。実際に大手ゼネコンあるいは行政、メディアの方と話をしていても、各地域に密着している建設会社は守られるべきと話しています。なぜならば、たとえば地方で自然災害が起きたときに、土砂を片付けるなどの作業を行なうのは地元の建設会社なのです。

大手ゼネコンなどは、その町の道路や土地勘について細かく頭に入っているわけではありません。土砂をどこに除ければよいかもわからないでしょう。そうして道路が最低限整備されたのちに支援に入ってくるのが自衛隊です。いずれにせよ、普通に暮らしているわれわれとしても、地域に密着して日常の物流を担っている人びとを軽視するべきではありません。

需給ギャップを埋められるか

前回の2024年問題にしても、今回のPPP/PFIにしても、日本経済は景気が上向いているとはいわれているものの、来年あたりからさまざまな問題が表出してくることは間違いありません。それでも日本は底堅く経済を立て直していけるのか、最後に見通しを述べたいと思います。

まず賃金については、来年(2024年)の春闘を見ないとわかりませんが、日本はすでに14カ月連続で実質賃金がマイナスです。これはつまり、昨年と今年で同じ給料であれば実際には目減りしているということです。基本的には物価が上がってから賃金がそれに追いつくのが普通で、その兆しが見え始めてはいますが、この状況からプラスに浮上するのは少なくとも1年くらいかかるといわれています。

需要と供給の問題でいえば、一部のマーケットでは供給が足りていないなどといわれており、たしかにインバウンドの影響で飲食や旅行関連は影響があるでしょう。しかし日本は基本的に需要が不足していて、需給ギャップは25兆円とも30兆円ともいわれている。これから引き続き求められるのは、需要を喚起するための政策でしょう。

《馬渕氏の連載コラム》
第1回 東京の価値はコロナ後にどうなる?
第2回 企業の「多様性」と「持続性」を考える
第3回 三拍子が揃っている日本市場の強さ
第4回 企業は「現状維持=衰退」の覚悟をもて
第5回 インフレ時代、投資家が評価する企業とは
第6回 「金融リテラシー」をどう高めるべきか
第7回 「歴史的円安」という言葉に踊らされないように
第8回 リスクを可視化できる企業が2023年を生き残る
第9回 日銀の金融政策決定会合が意味するもの
第10回 リクルート競争にどう打ち勝つか
第11回 黒字転換する企業は何が違うのか
第12回 上場後に伸び続ける企業、失速する企業
第13回 中小企業経営者が知るべき米国の動き
第14回 なぜ日本の商社に学ぶべきなのか
第15回 日本が自覚できていない「強み」とは
第16回 2024年問題のインパクトに備えよ

お話いただいた方

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)

◎経済アナリスト/日本金融経済研究所代表理事/ハリウッド大学院大学客員准教授◎

PROFILE 京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。イー・ギャランティ社外取締役。フジテレビ、日経CNBC、プレジデント、ダイヤモンド、Forbes JAPAN、SPA!などで活動。主な書籍に『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』 『株・投資ギガトレンド10』『収入10倍アップ 高速勉強法』『収入10倍アップ超速仕事術』など。

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