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不動産投資を活用した商品のひとつに「不動産信託受益権」があります。不動産信託受益権の中には小口化され、個人投資家でも購入しやすいものもあります。少額から始められる不動産投資には、REITや不動産小口化商品、不動産クラウドファンディングなど、さまざまな種類がありますが、不動産信託受益権にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、不動産信託受益権とは何か、投資対象として選ぶメリットや注意点を解説します。
1. 不動産信託受益権とは
まずは、不動産信託受益権とは何か、その仕組みをわかりやすく解説します。
そもそも「信託」とは、保有する財産を信用できる人や機関に託して管理や運用をしてもらう制度のことです。財産を託す人を「委託者」、管理・運用する人を「受託者」、そこから生まれる利益を受け取る人を「受益者」といいます。
信託できる財産には、現金や有価証券、不動産などの種類がありますが、そのうち不動産を信託するのが「不動産信託」、信託された不動産から生まれた利益を受け取る権利が「不動産信託受益権」です。
不動産信託受益権はREITなどの不動産ファンドの投資対象となっており、多くの不動産ファンドでは、取得した不動産を信託受益権化しています。
また、投資家向けに販売されている不動産信託受益権の中には、不動産小口化商品のように少額の資金で不動産投資ができるものもあり、個人投資家からも注目を集める投資商品のひとつとなっています。
2. 不動産信託受益権が活用される理由
少額からできる不動産投資には、REITや不動産小口化商品、不動産クラウドファンディングなど、さまざまな種類があります。小額からできる不動産投資のひとつである不動産信託受益権は、一般の個人投資家にとってあまり馴染みがありませんが、実は不動産ファンドの投資対象としても活用されています。
2-1. 不動産ファンドでの不動産特定共同事業法(不特法)の適用回避
不動産ファンドの多くは、不動産信託受益権を投資対象としています。不動産ファンドが保有不動産を信託受益権化する理由のひとつは、不動産特定共同事業法(不特法)の適用を回避するためです。
不動産特定共同事業法とは、「不動産特定共同事業」の健全な発展と、投資家の保護を目的として作られた法律ですが、不動産の証券化においては現物不動産のまま所有権を移転すると、この不特法の適用を受けることになります。
その場合、事業を行えるのは許可を受けた不動産特定共同事業者に限られ、また事業についても不特法による許可が必要になり、業務についてさまざまな規制を受けます。一方、保有不動産を信託受益権化した上で移転すると不特法の適用を受けないため事業の自由度が高くなります。
また税金の面でも不動産信託受益権の場合は不動産取得税が不要となり、登録免許税、印紙税も少額ですみます。
このような信託受益権化のメリットは、結果的に個人投資家の負担の軽減につながり投資のメリットとなります。
2-2. 倒産隔離機能がはたらく
不動産信託受益権が活用される理由としては、倒産隔離機能もあげられます。
信託された財産は、委託者から受託者へ名義変更されるため、委託者が破産しても影響を受けません。また受託者の名義にはなりますが、信託により管理・運用される独立した財産とされるため、受託者が破産した場合でも強制執行の対象にはなりません。
このように、委託者・受託者のどちらかが破産してしまった場合でも、信託財産が隔離され守られる機能を倒産隔離機能と言います。
この倒産隔離機能も、個人投資家が投資をする際の安心感につながります。
3. 不動産信託受益権に投資するメリット
不動産信託受益権には次のようなメリットがあります。
3-1. 少額の資金で投資ができる
まず、比較的少額の資金で投資ができるという点は、不動産信託受益権のメリットといえるでしょう。
例えば都心にある不動産の場合、ビル一棟購入するとなると数億円規模の資金が必要となりますが、小口化した不動産信託受益権は1,000万円程度から投資ができるため、現物不動産投資と比較すると投資資金を抑えることが可能です。
3-2. 現物不動産よりも納税金額が少ない
現物不動産投資と比べた場合、不動産信託受益権の大きなメリットのひとつは不動産取得税、登録免許税、印紙税などの納税金額が少ないという点です。
現物不動産を取得する場合には下記の税金がかかりますが、不動産信託受益権への投資では不動産取得税はかからず、登録免許税、印紙税の納税金額も少ないです。
現物不動産 | 不動産信託受益権 | |
---|---|---|
不動産取得税 | 土地、建物 [住宅] 3%(※1)、建物[住宅以外] 4% | 0円 |
登録免許税 | 土地1.5% 建物2%(※2) | 不動産1件につき1,000円 |
印紙税 | 契約金額による 例)5億円超10億円以下の場合16万円(※3) |
200円 |
※1 土地および建物〔住宅〕は令和9年3月31日までに取得した場合の軽減税率、さらに土地は課税標準の2分の1に軽減
※2 土地は令和8年3月31日までに所有権移転登記をした場合の軽減税率、建物は中古物件購入の場合の税率(軽減なし)
※3 令和9年3月31日までに不動産の譲渡契約書および建築工事請負契約書を作成した場合の軽減後の金額
3-3. 不動産管理・運用の手間がかからない
不動産信託受益権へ投資する場合、不動産物件の管理・運用は受託会社が行います。
そのため、現物不動産投資のように物件管理に煩わしい手間がかからない点もメリットといえます。
3-4. 不動産信託受益権の相続税評価額について
相続税を計算するもとになる相続税評価額は、財産の種類によって算出方法が異なります。現金を相続する場合、現金の相続税評価額は相続する現金の額と同じです。
一方、不動産信託受益権を相続する場合、相続税評価額は現物不動産と同様に「路線価」と「固定資産税評価額」によって算出されます。
3-5. 相続・贈与における分割がしやすい
現物不動産は均等に分割して相続・贈与をすることが難しいため、相続人が複数いる場合などは、遺産分割トラブルに発展してしまうことも珍しくありません。
しかし、不動産信託受益権の場合は口数単位で購入することができるため、遺産分割トラブルを回避し、相続・贈与における平等な分割がしやすくなるというメリットもあります。
4. 不動産信託受益権に投資する場合のデメリット
不動産信託受益権は、少額からできる不動産投資としてメリットの高い商品ですが、投資を検討するにあたっては、いくつか知っておきたい注意点もあります。
そこで続いては、不動産信託受益権に投資するときに注意したいポイントを解説します。
4-1. 流動性が低い
不動産信託受益権は、信託期間が10年程度と長期で設定されていますが、一般的に中途解約はできないものが多く、売却が困難なケースもあるため流動性が低い商品といえるでしょう。また信託期間終了時に売却が困難な場合は、信託期間がさらに延長される場合もあります。
ただし、信託期間中でも一定期間経過後に当初の価格以上で売却可能な場合などには売却を行うケースもあります。購入前に不動産信託受益権商品の売却方針についても十分確認をしておくことが大切です。
4-2. 元本割れ・配当金減少のリスク
不動産信託受益権は元本保証されている商品ではなく、配当金は運用実績によって変動します。そのため、運用がうまくいかない場合は配当金が想定よりも下がる場合もあります。また、将来的に不動産の価値が下がってしまった場合は、売却時に元本割れを起こしてしまうというリスクについても理解しておきましょう。
4-3. 信託報酬がかかる
不動産信託受益権の場合、信託財産の受託者である信託銀行等に信託報酬を支払うことになります。信託報酬は、不動産信託受益権の運用にかかる経費の一部であり、その分、投資家の受け取る分配金、つまり投資家の手元に残る利益が減少します。不動産信託受益権は長期的な投資が前提となることが多いことから、積み重なると、その影響は大きくなります。
5. 最後に
今回は、少額からできる不動産投資として注目を集める不動産信託受益権について、メリットや注意点を紹介してきました。不動産信託受益権への投資は、現物不動産投資と比べて不動産の管理・運用の手間がかからないというメリットがあります。また現物不動産よりも分割しやすいことから、相続・贈与の準備としても活用されています。半面、少額とはいっても最低1,000万円程度の投資額になるため、メリットとともに注意点も理解した上で投資の判断をしてください。
手間をかけずに着実なリターンを希望して不動産投資を始めたいという方におすすめの手法としては、「不動産小口化商品」もあげられます。
「不動産小口化商品」についてさらに詳細を知りたいという方は、下記の記事に詳しくまとめています。
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※商品によって異なる場合があります。
現物不動産と違って1口単位に分割できるため、複数人に対する相続や生前贈与がしやすくなります。
少額からできる不動産投資に興味をお持ちの方は、弊社の「Vシェア」の活用もぜひご検討ください。
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- 期待どおりの税務上の効果が得られない可能性があります。
- 評価額は物件により異なります。
- 税制改正、その他税務的取り扱いの変更により効果が変動する場合があります。
- 相続税の圧縮効果を含めた税務の取り扱いについては、個別具体的な事情に応じて適用が異なる可能性がありますので、税理士等の専門家にご相談ください。
保有資格:ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者・1級FP技能士)、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、終活アドバイザー(終活アドバイザー協会) 他
1961年東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。長年、顧客の相続や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当。
また、自らも在職中より投資物件購入や土地購入新築など不動産投資を始め、早期退職を実現した元サラリーマン大家でもある。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてライフプラン・住宅取得・不動産活用・相続などを中心に相談、セミナー、執筆などを行っている。
FPオフィス ノーサイド(https://fp-noside.jimdo.com/)
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