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豊かな老後生活の資金として、退職金はとても大事です。「老後資金2,000万円不足問題」が話題となったこともあり、退職金を運用して増やす必要があるとお考えの方も多いのではないでしょうか。ただ手元に置いておくだけでは退職金は増えません。この記事では、退職金運用の必要性や安全に増やす方法について考えていきます。
1. 退職金の運用で老後資金 - 老後資金は本当に2,000万円必要?
退職金の運用を始める前に考えておきたいのは、老後に必要な生活費が実際いくらなのか?ということです。
話題となった「老後資金2,000万円不足問題」の発端は、令和1年6月3日に金融庁の金融審議会が報告した「市場ワーキング・グループ」報告書です。この報告書において、定年退職後の高齢夫婦世帯(無職)が年金だけを収入源として平均的な生活を送った場合、年金だけでは生活費を賄うことができず、毎月約5万円の赤字となることが試算されました。つまり、年金のみに頼った生活では毎月約5万円の生活費が不足する、定年退職後20~30年間過ごすためには年金以外に約2,000万円の老後資金が必要になるということです。これは、人生100年時代に備え、資産形成がいかに重要か、資産形成や資産運用の必要性を国民に対して示唆するものでした。
ただし、金融庁が提示したのはあくまでもモデルケースであり、老後に必要となる生活資金は各家庭でそれぞれ異なります。一般的には定年退職後に収入が減るという家庭が多いですが、収入が減る分支出も減るという家庭もあれば、支出を抑えることが難しく、現役時代と変わらない支出を予定しているという家庭もあるでしょう。
そこで重要視されているのが退職金運用です。一般的なサラリーマンが老後資金を考える場合、退職金は大きな原資となります。「老後資金2,000万円不足問題」をきっかけに、退職金運用を検討し始めたという方も少なくないでしょう。
退職金運用を始める前に考えておくべきこととしては
- 老後の生活費は実際いくら必要なのか
- 退職金はいくら受け取ることができるのか
の2点があげられます。詳細については、こちらの記事をご覧ください。
2. 退職金は安全に運用したい!失敗しないためには?
豊かな老後生活を送るために行う退職金の運用は、できるだけ安全に行いたいと考える方がほとんどでしょう。続いては、退職金の運用で失敗しないために留意すべきポイントをご紹介します。
2-1. 老後のライフプランを立てる
退職金を安全に運用するには、老後のライフプランをしっかりと立て、老後の生活費としていくら必要なのか、年金だけで生活するといくら不足するのかなど、目安となる金額を算出しておくことが重要です。また、将来年金がいくら受け取れるのかも把握しておこないましょう。
2-2. 退職金運用の目標を設定する
老後資金を目的として退職金の運用方法を考える場合には、目標設定が大事です。
退職金をどう運用するかの目標は、ライフプランに合わせて設定しましょう。年金だけで生活することを想定し、老後の生活費としていくら必要なのか、毎月いくら不足するのかを考えるとよいでしょう。例えば、受け取る退職金の金額が1,500万円で、毎月の生活費が年金だけでは5万円ずつ不足するという場合、何もせずに銀行に預けているだけでは25年間で資金が尽きてしまいますが、資産運用によって月に1万円の利益が得られれば、資金が尽きるまでの期間を30~31年間まで引き延ばすことができます。
2-3. 元本保証の安全運用でリスク分散
退職金を減らさず安全に運用するには、リスク分散が重要です。
ひとつの運用商品に退職金全額を投資するのではなく、ひとつは定期預金などの元本が保証される安全性の高い運用商品を選び、もうひとつは中長期的に運用するなど、分散投資を行いましょう。
2-4. 金利(利率)だけにとらわれない
退職金を運用する場合には、金利だけに捉われ過ぎないようにしましょう。
利回りの高い運用商品はその分リスクも高まります。資金に余裕がある方が、多少のリスクをとってもハイリターンを求めたいという場合はそれでもよいですが、退職金は老後の生活を豊かにするための大切な資金です。老後資金のために退職金を運用する場合は、できるだけリスクが低く、安全に運用できる商品を選ぶ方がよいでしょう。
3. 退職金の運用は自分でもできる?
退職金の運用はもちろん自分で行うことができます。
退職金を運用するときは、「どれだけたくさん増やせるか」ではなく「老後資金としていくら必要か」を考えることが大切です。10年後や20年後のライフプランを立て、目標を設定することで、退職金の運用プランが立てやすくなるでしょう。
退職金はこれから長い老後生活の支えとなる大切なお金です。退職金運用で失敗しないためには、退職金の運用を人任せにするのではなく、自分自身でもしっかりと学び、リスクを分散しながら安全な運用方法を選んでいくことが大切です。
4. 退職金の運用方法別メリット・デメリット
自分で退職金を運用する場合に大切なのは、どんな運用方法があるのか、それぞれの特徴やメリットとデメリットを把握したうえで、目標に合わせたポートフォリオを組むことです。
例えば、銀行などが提供する「退職金定期預金」は、通常の定期預金と比べると金利が高いというメリットがありますが、預け入れ期間が短い(3カ月程度が多い)というデメリットがあるため長期運用には向いていません。また、「投資信託」や「ヘッジファンド」「ファンドラップ」などは、運用のプロに任せることができるというメリットがありますが、必ずしも利益を生む安全な運用方法とは言いきれず、必要なときに換金ができない、大事な退職金を減らしてしまうなどのリスクも考慮しなければいけません。
このように、退職金の運用方法にはそれぞれメリットとデメリットがあります。退職金の安全な運用に適した運用方法と、メリット・デメリットについては、こちらの記事をご覧ください。退職金定期預金や保険、不動産小口化商品、ヘッジファンド、外貨預金と円定期預金をセットにしたプランなど、主な退職金運用方法についてのメリット・デメリットがわかりやすく表にまとめられ、資産運用初心者の方でも読みやすい記事となっています。
5. 大事な退職金を自分で運用するのは不安…そんな時は
これまで資産運用や投資の経験をお持ちでない方のなかには、大事な退職金を自分で運用して、もし失敗したらどうしよう…と不安になる方も多いでしょう。退職金を自分で運用することに対して不安を感じる気持ちはわかりますが、安易に人任せにすることで高い手数料を払うことになるケースもあります。
例えば、退職金運用向けの商品として多いのが、金融機関が提案する「退職金特別プラン」です。金融機関が提案する退職金プランは定期預金と投資信託のセットプランとなっているケースがほとんどなため、投資信託の運用にかかる手数料や信託報酬、その他負担しなければならない費用が嵩みます。そのため、定期預金の金利が多少高かったとしても、想定した利益を得られない可能性がでてきます。
どうしても自分だけで運用していくのは不安という場合は、FPに相談することもひとつの手段です。ただし、FPに退職金運用の相談をした場合、1回の相談で5,000~2万円程度、ファイナンシャル・プランニングの顧問契約をした場合、年間で30,000円~100,000円程度を支払う必要がでてきますので、その費用も考慮した運用をしていくことが大切です。
できるだけリスクを抑えて退職金を運用するためには、完全に人任せにするのではなく自分でしっかりと勉強すること、誰かにすすめられた運用方法ではなく自分自身に合った運用方法を選ぶことをおすすめします。
6. 最後に
老後生活を豊かに過ごすために、退職金の運用を検討される方は多いです。大金を手にするとどうしていいかわからず不安になり、ついつい人任せにしてしまいがちですよね。ですが退職金運用で最も大切なことは、自分自身がしっかりと勉強することと、「老後資金2,000万円」にこだわるのではなく、老後のライフプランに合わせてポートフォリオを組むことです。また、ハイリスクハイリターンな運用方法よりも、低リスクで安全な運用方法を選ぶのがおすすめです。
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1965年生まれ。大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当する。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立後は、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、資産運用、住宅ローン、年金問題、ライフプランニングなどを得意分野とする。
家計の診断・相談室(https://kakeinoshindan.com/)
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