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投資信託を選ぶときの基準として利回りを見ている方は多いでしょう。利回りとは、投資金額に対して得られた利益の割合のことをいい、投資信託を売却したときに確定します。そのため、利回りだけを見て購入判断をすると、想定していた利益を得られない可能性があります。
そこで本記事では、投資信託の利回りに関する基本知識と、購入時に利回り以外にも押さえておきたいポイントを解説します。不動産を絡めた投資も紹介するので、幅広い選択肢から自分に合った方法を選びたい方は、ぜひ参考にしてください。
投資信託の利回りとは

投資信託の利回りとは、投資金額に対してどのくらいの利益を得られたのかという収益の割合のことです。投資信託の利回りを求める場合は、以下の式を使うのが一般的です。
収益(分配金+売却損益)÷運用年数÷投資金額×100=利回り(%)
投資信託の値段に該当する「基準価格」は日々変動しているため、実際の利回りは投資信託を売却したときに確定します。例えば、投資信託を100万円で購入し、5年間で5万円の分配金を受け取り、110万円で売却できた場合の利回りは以下のように計算します。
(5万円+10万円)÷5年÷100万円×100=3%
ただ、投資信託には購入手数料や信託報酬、利益に対して税金がかかります。そのため、より正確な利回りを求めるには、これらのコストを差し引く必要があります。
投資信託の利回りと混同されやすい言葉

ここからは、投資信託の利回りと混同されやすい言葉を紹介します。
利回りと利率の違い
利回りは投資金額に対する年単位の収益の割合を指すことが多く、この収益には分配金や売却益が含まれます。
一方、利率は債券や預金に対して毎年受け取れる利子の割合を指す言葉です。そのため、利子を受け取らない投資信託では利率という言葉が使われることは基本的にありません。投資信託から受け取れる分配金の割合は「分配金利回り」と表現されるのが一般的です。
利回りと騰落率の違い
投資信託の運用成績を表す指標には、利回り以外に「騰落率(とうらくりつ)」というものがあります。
騰落率とは、一定期間で投資信託の基準価額がどれくらい動いたのかをパーセンテージで表したものです。例えば、基準価額1万円の投資信託が1カ月後に1.1万円まで値上がりしたときの騰落率は10%です。
利回りと騰落率には、計算の対象期間に違いがあります。利回りでは、1年間の収益を計算するのが一般的です。一方、騰落率では1カ月、3カ月、6カ月、1年、5年といったさまざまな期間を用いて算出します。
投資信託を選ぶ際は、利回りだけでなく騰落率から長期的な価格変動を見るようにしましょう。
利回りとパフォーマンスの違い
投資信託のパフォーマンスとは、運用指標である「ベンチマーク(東証株価指数や日経平均株価など)」と比べて、どれほどの利回りがあったのかを表す用語です。例えば、Aという投資信託の利回りが10%、Aのベンチマークの利回りが8%の場合、Aのパフォーマンスがよかったと評価できます。一方、Aのベンチマークが12%であったときはパフォーマンスが悪いという評価になります。
利回りだけでなく、パフォーマンスをチェックすることで、ほかの商品と比較して運用成績がどうなのかを客観的に分析できるようになるでしょう。
利回りとトータルリターンの違い
トータルリターンとは「評価金額+分配金の累計+売却金額の累計-買付金額の累計」で示された損益のことをいいます。投資金額に対する収益を割合(%)で示す利回りと異なり、トータルリターンは金額(円)で表示されるのが一般的です。
投資信託の販売会社は、トータルリターンの通知制度によって、投資家に対してトータルリターンを年1回以上通知しなければなりません。
なお、証券会社の投資信託ランキングページや銘柄紹介ページなどで公表されているトータルリターンは、販売会社から個別に通知されるものと異なる計算式で算出されていることがあります。銘柄を選ぶ際は、どのような計算式で算出されているのかを確認するようにしましょう。
投資信託の平均利回りの目安

投資信託の利回りは、投資商品や計測期間によって変わります。また、投資信託の基準価格は日々変動しているため、平均値を出すのは難しいでしょう。売却益を含めない分配金利回りで比較しても、3%ほどの投資信託もあれば10%を超える商品もあります。
高い利回りが期待できる商品はリスクが大きい傾向があるので、安定的な収益を得るために利回りが極端に高い投資信託を避けるのもよいでしょう。投資信託を選ぶときは直近の利回りだけでなく、過去にさかのぼって長期の運用実績も確認することをおすすめします。
また、投資信託の分配金は、必ずしも運用益とは限りません。分配金は主に以下の普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2つに分けられます。
普通分配金 | 投資信託から得られた収益 |
---|---|
元本払戻金(特別分配金) | 投資の元本の払い戻しに相当する部分 |
多くの分配金が受け取れる投資信託であっても、元本から払い戻されているのであれば、資産が増えていることにはなりません。たとえ分配金利回りが高い投資信託だとしても、基準価額が下がっていくようでは、投資信託の利回りは低下します。
そのため、投資信託を選ぶときは分配金利回りだけでなく、騰落率や純資産額などの情報も確認したうえで自分に合った銘柄を探すことが大切です。利回りが高くても投資信託の純資産額が減っていたり、基準価額が長期的に下がっていたりする場合はほかの商品を検討したほうがよいでしょう。
投資信託の利回りの確認方法

投資信託の利回りは、投資信託協会や証券会社のホームページで確認できます。証券会社によっては、利回りではなく、騰落率やトータルリターンを公表している場合があります。投資信託を選ぶときは利回りだけでなく、ほかの数値も確認したうえで購入しましょう。
投資信託を選ぶときのポイント

投資信託を選ぶ際は、利回りに加えて以下のポイントもチェックしましょう。
- 信託報酬や手数料
- 純資産総額の大きさ
- 運用成績や値動きの幅
それぞれ詳しく紹介します。
信託報酬や手数料
利回りの高い投資信託であっても、運用にかかる信託報酬や手数料などのコストが大きいと、期待している利益を得られない可能性があります。投資信託の主なコストには、以下のようなものがあります。
購入手数料 | 投資信託を購入する際に販売会社に支払う手数料 |
---|---|
信託報酬 | 投資信託を保有している間、保有額に応じて日々支払う手数料 |
信託財産留保額 | 投資信託を換金(解約)したときに発生する手数料 |
投資信託を選ぶ際は利回りだけでなく、どのくらい運用コストがかかるのかも確認するようにしましょう。
純資産総額の大きさ
投資信託の純資産総額とは、投資信託の規模を示すものです。純資産総額が少なすぎると、当初予定していた満了日前に現金化(繰上償還)されてしまう可能性があります。含み損が出ている状態で繰上償還されると、想定外の損失を受けてしまいます。
また、純資産総額を確認するときは大きさだけでなく、増減もチェックしましょう。投資信託の純資産総額が減少するのは解約する投資家が増えていたり、運用している金融商品が値下がりしたりしているのが主な原因です。そのため、純資産総額が長期的に減少している商品は、今後の運用成績があまり期待できないといえます。
運用成績や値動きの幅
投資信託を選ぶ際は、過去の運用成績や基準価額の推移を確認しましょう。
過去の運用成績は今後の運用を保証するものではありませんが、長期にわたって安定した成績を残している商品であれば今後の成績も期待しやすいと判断できます。
基準価額を見るときは、ほかの商品と比較して高いか低いかではなく、推移を確認することが大切です。短期間で大きな値動きを繰り返している場合は、リスクが高い傾向にあります。リスクを抑えて安定的な運用をしたい人は、値動きの幅が小さい商品を選ぶことをおすすめします。
投資信託を始めるうえで押さえておきたいこと

投資信託を始める際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 自分に合った金融機関を選ぶ
- iDeCoやNISAを活用する
- 分散投資を意識する
- 長期運用を心がける
それぞれ詳しく解説します。
自分に合った金融機関を選ぶ
投資信託の主な購入先は、証券会社や銀行、郵便局などです。購入先を決める際は、商品の選択肢やコスト、コンサルティングの有無といった複数の項目から自分に合ったところを選びましょう。
証券会社は、商品のバリエーションが豊富であるため、幅広い選択肢から選びたい人におすすめです。自分に合った商品が分からないという場合は、身近な銀行や郵便局などに相談するのも手段のひとつです。投資の知識があり、便利さやコストを重視したい人は、ネット証券を選ぶとよいでしょう。
iDeCoやNISAを活用する
投資信託を始める際は、iDeCoやNISAの活用がおすすめです。iDeCoでは掛金が全額所得控除されるため、所得税や住民税を抑える効果が期待できます。NISAでは、投資信託の運用益にかかる20.315%の税金が非課税になります。
なお、iDeCoは公的年金に上乗せをすることを目的とした私的年金制度で、基本的に60歳になるまで引き出せません。iDeCoとNISAは併用できますが、老後資金の準備をしたい人はiDeCo、柔軟に使える資金を準備したい人はNISAといったように目的に合わせて選ぶのがおすすめです。
分散投資を意識する
投資信託は価格変動のある商品なので、元本割れのリスクがあります。リスクを抑えるためには、値動きの異なる銘柄を組みあわせて分散投資をすることが大切です。分散投資には、複数の国や地域に分散する地域分散と、株式や債券といった複数の金融資産に分散する資産分散があります。
例えば、日本国内の株式のみで構成された投資信託を保有していると、日本経済が低迷したときに値下がりするリスクがあります。そのようなリスクを避けたいときは、海外の株式や債券などを対象としている投資信託に分散投資するのが効果的です。
長期運用を心がける
投資信託は、以下のような理由から長期運用が望ましいとされています。
- 複利効果が大きくなる
- 価格変動リスクが小さくなる傾向にある
- 購入手数料が抑えられる
長期運用はリターンが安定しやすいだけでなく、購入手数料も抑えやすくなります。また、災害や戦争などによる突発的な値動きがあったとしても、時間が経つにつれて、その影響は小さくなっていきます。大きなリターンを狙うのは難しくなりますが、着実に利益を積み重ねたい方は、長期運用を心がけるようにしましょう。
不動産に関連する投資を選ぶのもおすすめ

長期運用で安定した収益を得たい人は、不動産に関連した投資を選ぶのもおすすめです。
ここでは、不動産に関連する投資を紹介します。
実物不動産
実物不動産投資では、マンションやアパート、オフィスビルなどの物件を購入して、家賃収入や売却益による利益を狙います。実物不動産投資のメリットは、金融機関から融資を受けることで自己資金を超える不動産に投資できることです。このような手法をレバレッジ投資といい、自己資金が限られる状況でも効率的に利益を得やすくなります。
一方で、物件価格の10~30%ほどの初期費用がかかるため、気軽に始めにくいのが難点です。加えて、管理費や修繕費などがかかるため、ランニングコストを踏まえた資金計画を立てる必要があります。
不動産小口化商品
不動産小口化商品とは、特定の不動産を1口数万円から100万円前後に小口化し、投資額に応じた不動産の家賃収入や売却益を得られる商品です。
例えば、1億円のオフィスビルを一人の個人投資家が購入するのは難しいですが、100人の投資家で資金を出し合えば一人あたり100万円から始めることが可能です。オフィスビルの運営で得られた収益は、投資額に応じて投資家に分配されます。
不動産小口化商品のメリットには、プロが選んだ物件に少額で投資できる点もあげられます。任意組合型(現物出資)の不動産小口化商品は、相続対策としてもおすすめできる商品です。
REIT
REIT(不動産投資信託)とは、不動産投資法人が投資家から集めた資金でオフィスビルやマンション、商業施設などの不動産を複数購入し、賃貸収入や売却益を投資家に分配する金融商品です。REITのメリットは、数万から数十万円の少額資金で始められることです。加えて、複数の不動産に投資できることから、リスク分散を図れます。
一方、REITでは投資家は証券のみを購入することになるため、実物不動産と異なり、物件を保有できません。相続や贈与としての取り組みとしては、実物不動産や不動産小口化商品のほうが向いているといえます。
最後に
投資信託の利回りを確認することで、投資金額に対してどのくらいの収益が期待できるのかを把握できます。しかし、利回りだけに着目して投資信託を選ぶことはあまりおすすめできません。騰落率やトータルリターン、純資産総額などの複数の項目を比較したうえで、資産運用の目的に合った商品を選びましょう。
- 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
- 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

監修者
村井 英一むらい えいいち
ファイナンシャル・プランナー(CFP、1級FP技能士、証券アナリスト、宅地建物取引士)
1965年生まれ。大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当する。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立後は、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、資産運用、住宅ローン、年金問題、ライフプランニングなどを得意分野とする。
家計の診断・相談室(https://kakeinoshindan.com/)
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