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本記事に掲載された情報は、2021/04/19時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
相続へのお取り組みのなかでも財産の評価額が低くなる可能性が見込め、注目を集めているのが「生前贈与」です。生前贈与とは、生きている間にその財産を第三者に譲る行為のことで、上手に活用すればメリットが多いと考えられています。一方、生前贈与にはデメリットも存在します。この記事では、生前贈与の活用事例として、メリットを活かした生前贈与の方法と注意点をご紹介します。
1. 生前贈与のメリットとは?
生前贈与を適切に行うためには、生前贈与がどんな効果をもたらすかを知っておくことが大切です。まずは、生前贈与のメリットをお伝えしていきましょう。
1-1. 財産の評価額が低くなる可能性が見込める
生前贈与のメリットとして、生前に財産を贈与することで相続時点の保有財産を減らし、将来負担する相続税を低く抑える可能性があります。
贈与税は、「暦年課税」と呼ばれる課税方式を採用しています。
暦年とは、1月1日から12月31日までの1年間のことです。贈与税の場合、暦年課税により1年あたり110万円までは基礎控除となります。
つまり、1年に基礎控除額である110万円までの贈与の場合は非課税になり、仮に200万円の贈与を行った場合は、110万円を超える部分である「90万円」に対して、300万円であれば190万円に対してのみ贈与税が発生するわけです。つまり、非課税枠の110万円以下で贈与を行うことで、相続へのお取り組みを行うことができます。
贈与税には、暦年課税のほかに「相続時精算課税」という制度もあります。
相続時精算課税の制度には2,500万円の特別控除があり、同一の贈与者から贈与を受ける財産については、2,500万円まで贈与税がかかりません。しかし、贈与者が亡くなり相続が発生した場合は、それまでに贈与された財産は相続財産に加算され、相続税が課税されるため、現金の贈与などについて単純に利用するだけでは、財産の評価額が低くなる効果はありませんが、例えば値上がりが予想される土地などを贈与する際に利用すると、相続時には贈与時の評価額で相続税が計算されるので、財産の評価額が低くなるケースがあります。
ただし、相続時精算課税制度を利用すると、その後、暦年課税の基礎控除は使えなくなるので、相続時精算課税制度を利用するタイミングは慎重に検討する必要があります。
このほかにも、婚姻期間が20年以上の夫婦間において居住用不動産の贈与(購入資金含む)を行う場合に最大で2,000万円まで控除される夫婦間贈与の特例、父母や祖父母など直系尊属から住宅を取得するための資金を贈与される際に適用される、住宅取得等資金贈与の特例などの控除があります。
1-2. 贈与する相手と財産を選べる
生前贈与では、法定相続人だけでなく、親族以外の第三者や法人にも贈与することができます。特定の財産のみを指定して贈与することも可能なので、贈与者の意思を反映して財産を分与できるのです。
1-3. 相続と比べてトラブルが発生するリスクを抑えられる
相続の場合、特に遺言で相続を行ったケースにおいては、遺言の解釈の違いなどが原因となり、相続人の間でトラブルが発生することもありえます。
しかし生前贈与では、生きている本人が直接対応することができます。そのため、遺言の解釈など相続で見られるような誤解を生みにくく、トラブルの発生リスクを抑えられるというメリットがあります。
2. 生前贈与のデメリットとは?
メリットの多い生前贈与ですが、もちろんデメリットもあります。生前贈与を適切に行うために、デメリットも理解しておきましょう。
2-1. 税務署から否認されることもある
生前贈与は、やりやすい反面、契約書などの整備もなく曖昧な形で実行されることが少なく有りません。そのため、後になって税務署に否認され、贈与税や相続税を課せられてしまうといったケースもあります。専門家に相談しながら、贈与契約書を残す、資金を動かす際は口座振込にするなど、その事実をしっかりと証明できるよう残しておくことが重要です。
2-2. 贈与された財産へ相続税が課税される場合もある
生前贈与のデメリットとしては、贈与された財産へ相続税が課税される場合もあることがあげられます。
贈与税は、基礎控除額を超える贈与を受けた場合に発生します。また、3年以内に贈与者が死亡した場合、贈与契約自体は有効ですが、贈与された財産は相続税の課税対象となります。
また、相続時精算課税制度を利用した贈与を受けていた場合、贈与を受けていた財産が相続時に相続税の課税対象となります。
さらに、建物や土地などの不動産を贈与した場合、贈与された側は不動産取得税や登録免許税を支払う必要が出てきます。
2-3. 生前贈与が認められないケースがある
前述のとおり、被相続人が贈与から3年以内に亡くなってしまった場合、つまり相続開始から遡って3年以内に贈与された財産は相続税の課税対象となります。すでに贈与税を支払っている場合、支払った贈与税については相続税から控除されます。
ただしこの制度は受贈者が相続人でない場合は適用されないため、孫への生前贈与の場合、被相続人の死後に発生する相続税への3年以内の生前贈与加算の適用は受けません。孫への生前贈与を行うメリットについては以下の記事をご参照ください。
また、生前贈与が、婚姻のため、養子縁組のため、扶養の範囲を超えるような生計を立てるために行われた場合、特別に受けた利益である「特別受益」とみなされるケースがあります。特別受益とみなされると、相続人間の不公平をなくすため「特別受益の持ち戻し」というやり方が用いられ、相続の価額に贈与価額を加えて計算し、贈与を受けた人の相続分から贈与分を差し引かれることになります。
特別受益については、相続人の間で争いの種になる可能性があるため、遺言で特別受益の持ち戻しをおこなわない「特別受益の持ち出し免除」について明記しておくことをおすすめします。
3. メリットを活用した生前贈与の方法は?
ここからは、メリットを活かした生前贈与の事例や、贈与税がかからない非課税特例についてご説明します。
3-1. 土地や住宅などの不動産を生前贈与する
土地や住宅などの不動産を生前贈与するメリットは、将来的に相続することになる財産にかかる相続税を減らすことができる可能性があるという点です。不動産の生前贈与では、様々な特例を活用することができます。
さらに、生前贈与で不動産を贈与した場合、財産の評価額が低くなる可能性があります。不動産における贈与税の金額は原則、相続税評価額をもとに算出されるため、贈与税計算の課税対象額が引き下げられる傾向があるため、結果贈与税が低くなる可能性があります。
3-2. 不動産小口化商品「Vシェア」を生前贈与する
※本コラムに記載された内容は、各種の事例や文献を基に一般論として述べたものです。弊社から当該物件の購入についての税務に関する何らの示唆および確定的な見解を示すものではなく、本コラムに記載された算出方法や評価額など一切について正確性および確実性を保証するものではありません。
具体的な申告書の作成などにあたりましては、税理士などの専門家や所管の税務署などにご相談いただきますようお願いいたします。
※ 分譲マンションの相続税評価額については、「居住用の区分所有財産の評価について(国税庁)」に定められた評価方法が適用されます。
※ 一定期間の保有が条件となります。
※ 評価額は物件により異なります。
「Vシェア」とは、都心の商業地にある中規模ビルを小口化することで購入単価を下げ、個人でも資産運用しやすくした不動産小口化商品です。需要の高い都心のオフィスビルを扱うため長期的な収益の安定性が見込めることが特徴で、500万円(1口100万円・5口以上)から購入が可能です。「Vシェア」は、現物不動産と同様の評価方法で、かつ、現物不動産よりも小口(口数)のため分けやすいということがいえます。
「Vシェア」を活用したシミュレーションについて、詳しくはこちらをご覧ください。
3-3. 生命保険料を生前贈与する
生前贈与の基本でもある「暦年贈与」を活用し、生命保険を生前贈与するという方法もあります。暦年贈与とは、年間の贈与額が基礎控除額の110万円以下であれば贈与税が課せられないという制度です。
生命保険などの保険を契約する場合、契約者と被保険者が親、子供が受取人とするケースが一般的ですが、生前贈与の場合、被保険者は親で子供が契約者と受取人になります。そして保険料は親から子供に暦年贈与の範囲内で現金を贈与し、子供はその現金で保険料を支払います。
これにより、相続時の相続財産を減らして、相続時には死亡保険金を受け取ることができるため、納税資金に充てることも可能になります。
ただし、親から子供に保険料として現金を生前贈与する場合は、定期贈与を疑われないように注意が必要です。「贈与契約書を作成する」「現金は銀行振込で渡す」など、生前贈与であることをきちんと証明できるようしておくことが重要になります。
また、親が子に保険料を生前贈与して子供が生命保険などの保険に加入する場合、当然、親は所得税の生命保険料控除を使用することはできません。
3-4. 暦年贈与信託による生前贈与
暦年贈与信託とは、生前贈与の手続きを信託銀行が代行するというサービスのことです。信託銀行は、毎年一回、贈与者と受贈者双方の意思確認を行ったうえで、贈与者の口座から受贈者へ贈与者が指定した金額を振り込む手続きを行います。
暦年贈与信託のメリットは、贈与契約書の作成や銀行振込など生前贈与に関わる煩わしい手続きが不要なこと。また信託銀行を介して手続きを行うため、生前贈与であることが客観的に証明できるということです。後になって生前贈与を税務署から否認されたり、定期贈与を疑われるリスクが低くなります。
3-5. 生前贈与の非課税特例とは
生前贈与のメリットは、将来的に財産の評価額を抑える可能性があることです。生前贈与する財産の額によっては贈与税が課せられるからです。その税率だけを比較すると相続税よりも贈与税の方が税率は高くなりますが、生前贈与には贈与税が非課税になる次のような特例があります。
特例①:相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対して生前に財産を贈与した場合、特別控除枠である2,500万円までは贈与税が非課税になるという特例です。ただし、この制度を使って贈与が行われた場合には、相続が発生した際に、被相続人の財産にその贈与財産価額を加算精算することになるため、利用にあたっては事前検討が必須となります。また、その後、暦年贈与が使えなくなる仕組みもあるためご注意ください。
特例②:配偶者控除
配偶者控除とは「おしどり贈与」とも呼ばれ、夫婦間で居住用の不動産(マイホーム)や住宅購入資金を贈与する場合に適用を受けることができます。最大2,000万円の特別控除に加え、暦年贈与と組み合わせて贈与税の基礎控除110万円を併用することも可能です。
特例③:住宅取得等資金贈与
住宅取得等資金贈与の特例とは、子供や孫に対して住居用不動産(マイホーム)購入のための資金援助行う場合、最大1,500万円(省エネ住宅で住宅の消費税10%の場合/新築等に係る契約が2020年4月1日~2021年12月末まで)の非課税を受けられるというものです。こちらも暦年贈与と併用できます。
特例④:教育資金贈与
教育資金贈与の非課税制度とは、子供や孫に対して教育資金の一括贈与であれば1,500万円、習いごとや塾といったような間接的に教育に関わる費用の場合であれば500万円の範囲内で非課税特例を受けられるというものです。暦年贈与との併用も可能なため、教育資金1,500万円を一括贈与した後、暦年贈与で110万円以下の財産を少しずつ贈与していくというのも問題ありません。
特例⑤:結婚・子育て資金贈与
結婚・子育て資金贈与の非課税制度とは、子供や孫に対して結婚資金や、妊娠出産、育児資金を一括贈与する場合、受贈者一人につき1,000万円まで贈与税が非課税になるという制度です。結婚・子育て資金の一括贈与は、暦年贈与と併用することもできます。
特例⑥:特定障害者贈与
特定障害者控除の非課税制度とは、特定障害者の方の生活費などに充てるために、一定の信託契約にも基づいて資金を贈与した場合、特別障害者である特定障害者の方については最大6,000万円までは非課税になるという制度です。特別障害者以外の特定障碍者の場合、3,000万円まで非課税になります。
このように、生前贈与には様々な非課税特例があります。非課税特例の適用を受けるのと受けないのとでは、支払う税金の金額に大きな差が生じます。生前贈与を検討されている方、生前贈与にかかる税金や特例を使った方法についてより詳しく知りたい方は、ぜひこちらをご覧ください。
また、親から子供への生前贈与だけでなく、祖父母から孫への生前贈与は、活用できる非課税特例が多くあることが知られています。孫への生前贈与を検討されている方は、ぜひこちらをご覧ください。
4. 最後に
財産の評価額が低くなる可能性が見込める生前贈与について解説してきました。生前贈与は、上手に活用すればメリットが多く、相続税を低く抑える可能性が見込めます。ただし、贈与税とは財産を受け取った人(受贈者)が支払う税金です。生前贈与によって将来的に財産の評価額を抑える可能性があることですが、贈与の負担が現在の受贈者の生活を圧迫してしまっては元も子もありません。逆に、生前贈与のし過ぎによって贈与者の生活が困窮してしまうという事態も避けなければいけません。生前贈与をお考えの際は、そのメリットもデメリットも理解したうえで、贈与者と受贈者双方がきちんと話し合い、お互いが納得する形で行うようにしましょう。
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渋谷本社、自由が丘オフィスを拠点に、東京都心及び、城南地区の地主や資産家に対し、『民事信託も活用した相続・相続への準備、不動産の売買や贈与時の提案』といった資産税コンサルティングを手がける。
毎週末、不動産に関する税務相談会も行っており、ただの税務理論だけでなく、不動産の現場にも精通する知識と経験を備えている。
マックス総合税理士法人(http://www.max-gtax.com/)
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