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【税理士・会計士向け】「特例承継計画」の提出締め切りまで実質残り1年半!!
一般社団法人 事業承継ドクター協会主催セミナー

目次

事業承継税制(特例)の適用を受けるために、2023年(令和5年)3月31日までに都道府県知事への提出が必要となる「特例承継計画」について、一般社団法人 事業承継ドクター協会の理事でもある眞船雄史税理士が解説します。提出の締め切りまで1年半となった今、税理士・会計士として知っておくべき「特例承継計画」作成のポイントについて、お話しいただきました。

事業承継の現状

中小企業・小規模事業者の経営者年齢分布*¹を見ると、1995年から2015年の20年間で経営者の高齢化が進んでいることがわかります。さらに2025年には70歳以上の経営者の割合が6割以上となり、この内の約半分が後継者未定という状況になると予想されています。この結果、2025年までに黒字廃業が急増した場合には、約650万人の雇用が失われると危惧されています。

社長の引退が伸びる原因としては、「社長業に定年がない」「会社の業績をよくしてから引き継ごうとする」「後継者に継ぐ気がない」「社長業以上に楽しいことが見つからない」とさまざまな要素があげられます。中小企業では、経営者の年齢が上がるほど増収・増益を記録する割合が下がるというデータもあり、企業の持続的な成長を考慮した場合、若い世代へのスムーズなバトンタッチが重要です。

事業承継という社会問題を放置すると、廃業が急増し、中小企業の雇用難民が増え、地方経済に打撃を与えるという「負のスパイラル」に陥る危険性をはらんでいるのです。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、本来支払うべき相続税や贈与税の納税を猶予する制度です。企業の将来における不安を軽減する可能性もあることから、税理士・会計士としては、顧客の事業承継を推進していくうえで1つの選択肢になりえる重要な制度の1つといえます。

事業承継税制には「特例」と「一般」という2つの制度があります。今回のポイントとなる特例制度は、2023年(令和5年)3月31日までに「特例承継計画」*²を提出しなければ対象にはなりません。そのうえで2027年(令和9年)12月31日までに贈与・相続したものが全株・全額納税猶予の対象になります。

事業承継税制のメリットとしては、「承継が3世代以上に及ぶ場合、実質無税で株式移転ができる」「株式の移転時に納税資金を用意する必要がない」「先代が株式を抱え込んで相続が発生した場合、急な納税を回避できる」という3つのポイントをあげることができます。

2018年(平成30年)の税制改正のポイント

2018年(平成30年)の税制改正では、おもに以下の4つの変更がなされました。

  1. 事業承継時の贈与税・相続税の資金負担がゼロになった
  2. 複数の株主(親族外の人も含む)から最大3人の後継者へ承継が可能になった
  3. 制度利用の障害であった雇用維持要件が緩和され、納税猶予が継続可能になった
  4. 事業継続が困難な事由が生じた場合の減免制度が導入された

また改正論点ではないものの、特に気をつけなければならないポイントに「役員要件」というのがあります。贈与により特例措置の適用を受ける場合、後継者は役員の就任から3年以上経過している必要があり、相続開始時は役員でなければならないといった決まりがあります。

もし後継者が決まっているのであれば、すぐに役員にすることを考慮にいれておかなければなりません。

「特例承継計画」をチャンスにつなげる

税理士・会計士にとって、「特例承継計画」はビジネスチャンスにつながるツールとなります。
特例承継計画は作成が簡単なうえ、顧客のニーズを拾うフックになります。しかもまだ動いている会計事務所が意外に少ないことから、ほかの認定支援機関よりも早く動くことが重要です。

特例承継計画の提出期限は2023年3月31日。おそらく残り1年になった段階で、認定支援機関である金融機関や税理士は焦って動き出すことが予想されます。一方で現在は「まだ1年半もある」と考えているためか、動いている競合は少なく、この期間にスピード感を持って対応することが重要です。

特例承継計画の記載内容としては

  1. 会社の業種、資本金、従業員の人数
  2. 代表者
  3. 後継者
  4. 株を承継するタイミングと時期
  5. 株を承継してから5年間の経営計画
  6. 認定支援機関が指導したこと

となっています。

後継者を記入する必要があることから、後継者を決めていない、あるいは後継者がいないという顧客の場合にはM&Aや従業員役員承継までサポートすることができますし、後継者がいる場合には「BCPへの対応としてぜひ特例承継計画を提出しましょう」という提案もできると思います。
また、株式を承継するタイミングと時期を検討する際に、具体的な事業承継についての方向性を顧客と詰める絶好の機会となります。

特例承継計画ではバランスシートや損益計算書といった数字の記載は求められていません。今のところ、計画が未達だった場合の罰則もありません。さらには提出にあたっては認定支援機関の押印が必要であることから、その認定を受けている税理士・会計士には有利です。2023年3月31日までは「修正」が可能で、一度計画を提出しておけば、その後、期間終了まで変更ができます。そのあたりのポイントを考慮しても、提出のハードルは低く「出して損はない」ものといえます。

ではなぜ、顧問税理士は事業承継税制をやりたがらないのか。「制度そのものがよくわからない」「適用要件が外れときには一気に納税になる不安がある」「将来に渡って継続するので管理ができるか不安」という点が推察されます。つまり、税理士都合で使わない人が多いともいえますが、顧客の事業継続を第一に考えると、検討しておきたい制度であると思います。

一方いくつかの金融機関は、事業承継税制の特例を切り口に動き出しているようです。後継者がいる企業に対しては、後継者とのリレーションを持つこと、後継者がいない企業に対しては、役員・従業員への承継やM&Aのニーズへと発展させることを狙っていると考えられます。また、現在の経営者の引退後のライフプランや個人財産を把握して、株式売却による資産運用ニーズにつなげたり、株価の評価・納税資金不足・個人保証などの事業承継における課題を切り口として、遺言や遺留分の考慮、保険、退職金等のコンサルティングにつなげたりと、さまざまな展開策があることもその理由といえるでしょう。

M&A専門会社、事業承継コンサルティング会社は、すでに水面下で事業承継税制に関するアプローチを図っており、ビジネスチャンスとして動いている認定支援機関も存在すると考えられることから、今このタイミングで取り組まなければ、税理士・会計士としてさまざまなデメリットが生じることは、想像に難くありません。

事業承継税制を適用する際の不安は、キャッシュが手元にないこと。逆を返せば、キャッシュが手元にあれば怖くないわけですから、そのために利益管理体制を磨き、キャッシュを確保する仕組み(計画)をしっかり構築することが大切です。事業承継税制を使う・使わないに限らず、税理士・会計士としてはこのような意識を持って顧客にアプローチすることが、ほかの認定支援機関との差別化につながっていくと思います。

事業承継に後ろ向きな経営者を動かすポイント

そもそも「事業承継」とは、会社を永続させていくことです。つまり会社を永続的に守るためには、どうすればいいかを考えていくことが真の目的です。財産や株式を承継することは、あくまで一部に過ぎません。

顧客と事業承継の検討を進める際には、事業承継において苦労すると予測されるポイントを「見える化」することが重要です。「事業の承継」「経営権の承継」「財産の承継」 に分けて検討し、承継の時期から逆算して、「ありたい姿」と「現状」とのギャップをどう埋めていくかという視点で「事業承継プラン」を作成してみてください。

また経営者の性格を知ることも大切です。「会社を娘のような存在に思っている」「事業の継続を本気で考え、従業員を守ることが大事」「向上心・好奇心がある」「死ぬまで働きたいと思っている」「好き嫌いが激しい」など、事業承継を検討するような優良企業の経営者の多くに共通する傾向があると思います。それらを念頭に入れつつ、経営者に寄り添って事業承継プランを作ることをお勧めします。

事業承継の失敗事例と回避ポイント

最後に、事業承継の失敗事例と、その回避ポイントをいくつかご紹介します。

自社株評価問題に対する事業承継税制適用

自社株評価について準備を何もせずに相続が発生した場合、高い株価で承継しなければならなくなります。また相続の計算には株式も含まれるため、後継者以外の相続人の納税額が膨らむことも考えられます。
事業承継税制の適用を受ける前には、自社株の評価を必要以上に上昇させない等を行うことで、後継者の負担を抑制(猶予税額の取り消し事由が発生した場合のリスクを軽減)することができます。
また事業承継税制適用前の事前準備の1つとして、後継者以外の相続人の財産承継、納税資金のケアを忘れないようにしましょう。

持株会社化後の事業承継税制適用

事業承継税制を適用するには会社ごとに申請する必要があるため、複数のグループ会社を持っている株主の場合、それだけ準備が必要となる対象は多くなります。
例えば株式交換という手法を使い、ホールディングス体制を構築して複数銘柄を1つにまとめることで、適用申請の手間や管理の負担を減らしていくことを検討しましょう。

事業承継では5年後、10年後を見据え、事業承継後の体制を想像することが大切です。そのためには事業承継計画を作成し、「見える化」すること。そのうえで、経営者と検討に入るようにしてください。

顧客には万が一のときに備えて適用要件を満たし、特例承継計画は必ず検討するようアドバイスすることで、事業承継税制は私たち顧問税理士にとってもビジネスチャンス獲得の強力な武器となります。残り1年半を切った特例承継計画の提出期限。既存のお客様を守り、新規のお客様を獲得するためには、「今」行動することが何よりも重要なポイントとなります。

*1:経済産業省「平成30年度経済産業関係税制改正について」
*2:「令和4年度の税制改正大綱」特例承継計画ついては1年間延長予定(令和6年3月31日)

監修者

眞船雄史 氏

みらいコンサルティンググループ
税理士法人みらいコンサルティング 代表社員税理士
一般社団法人 事業承継ドクター協会 理事

2009年、みらいコンサルティンググループに入社。地域優良企業の事業承継や組織再編の提案から実行支援型コンサルティング業務に従事し、後継者育成や持続的な成長に向けてサポートを行っている。また、持株会社研究所(ソリューションサイト)の運営も行っている。

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