事業承継計画の立て方と必要性|円滑な引継ぎのための準備
目次
2025年に、団塊と呼ばれる世代が75歳以上を迎えます。そのタイミングで多くの中小企業の経営者が事業承継を行うことになりますが、さまざまな要因から、厳しい経営状況が続いている企業が多いのも現状です。
目の前の経営課題に追われる日々で、事業承継の準備まで手が回らない経営者も多いでしょう。しかし、事業承継には5年から10年ほどの期間が必要だといわれています。できる限り早期に計画を立て、できることから実行していかなければなりません。そこで必要になるのが、事業承継の具体的な進め方をまとめた事業承継計画です。
本記事では、事業承継計画の作成方法や重要性、困ったときに頼りになる相談先を解説します。いつか訪れる事業承継を理想的な形で迎えられるよう、計画的に準備を進めましょう。
事業承継計画を作成する必要性
中小企業庁によると、中小企業の経営者の引退年齢の平均は67歳から70歳です。事業承継に必要な時間は5年から10年といわれているため、「いつかは取り組まなければ」と思っている間に事業承継のタイミングを迎えてしまうこともあります。準備が間に合わなかったことで廃業せざるを得なくなるケースも存在します。
事業承継は、親から子へ財産を引き継ぐ個人の相続と比べて、制度や手続の内容が複雑です。後継者の選定や育成などに必要な時間も考慮すると、なるべく早い段階で事業承継について考え始めることが重要です。
スムーズに事業承継を行うためには期限を定め、計画を立てて進めていく必要があります。計画を作成するプロセスで、後継者候補や親族と事業承継について話し合いを行い、関係者の認識をあわせることも大切です。
また、これまで親族内承継が中心だった事業承継の形態は変化しており、従業員やM&Aを通じて第三者に事業を引き継ぐ企業も増えています。親族外への事業承継は、株式の譲渡や個人保証などで問題が起きやすいため、親族内承継以上に慎重に進める必要があります。事業承継の計画を関係者に共有することで、体制づくりにも役立てられます。
事業承継計画とは
事業承継計画とは、中長期的な経営方針や目標などに、事業承継の時期・課題・具体的な行動内容を盛り込んだものです。ここでは、事業承継計画の作り方を解説します。計画に記載する詳しい内容は「事業承継計画に記載する内容」の章をご覧ください。
事業承継計画の作り方
事業承継計画を作成する過程では、経営者と後継者が、経営状況や会社の将来を書類に記載しながら可視化していきます。
事業承継計画を作成するための書類(テンプレート)は、中小機構や中小企業庁などが提供しており、無料でダウンロードが可能です。中小機構の場合、「事業承継計画表」と「事業承継計画書」の2種類があり、それぞれ次のような特徴があります。
- 事業承継計画表:年単位のスケジュールを一覧にして事業承継の流れを可視化したもの
- 事業承継計画書:会社概要・経営状況・課題・円滑な事業承継のために必要なことなどを項目ごとにまとめたもの
中小企業庁のWebサイトでは、事業承継計画のテンプレートのほかにも、課題を抽出する「事業承継診断」や会社の経営状況を分析できる「ローカルベンチマーク」なども提供されています。事業承継計画を立てる際に活用しましょう。
事業承継には、税や法律に関する課題が複雑に絡んでいます。そのため、計画の立案・実施は、税理士や弁護士、コンサルタントなど、事業承継に関する専門家に相談をしたうえで行うことが大切です。
事業承継計画に記載する内容
ここでは、事業承継計画に記載する主な項目を解説します。なお、記載する内容は、後継者が決まっていることを前提としています。
経営理念や中長期的な目標
事業承継は、自社の現状と自社を取り巻く環境を整理するところから始めます。経営理念・沿革・企業概要といった基本情報と、自社の強み・弱み、業界の現状などをまとめます。あわせて、3年または5年単位の中長期的な目標を記載します。
1年ごとの現経営者と後継者の行動設定
現経営者と後継者がいつ、何を実施するかを計画表に盛り込みます。不確定要素が強い中長期的な目標よりも、比較的近い将来の行動を具体的に記載することが重要です。
現経営者は、後継者に段階的な権限委譲を行い、最終的に経営権を譲渡します。また、現経営者が中心となって実施する関係者への周知のスケジュールも、計画表に記載します。後継者は、経営者になる準備として必要な知識を身に付けるため、社内外で実務経験を積むほか、各種研修を受ける期間が必要です。
このような具体的な行動目標を、現経営者・後継者で項目を分け、1年ごとの計画として書き込んでいきます。
1年ごとの事業計画
現経営者と後継者の行動と並行して、会社がいつ何を実施するかも計画表にまとめます。具体的に記載する項目には、事業計画や定款、経営者への退職金の支給などがあげられます。行動設定と同様、時期と内容を具体的に書きましょう。
事業承継計画を作成するタイミング
事業承継には5年から10年ほどの期間が必要といわれています。そのため、事業承継計画の作成は遅くとも経営者が60歳になるまでに着手しましょう。60代を過ぎると、健康面においても心配ごとが増えてくるため、できるだけ早期に開始するのが望ましいです。廃業という選択を回避するためにも、余裕を持って計画を進めることが大切です。
事業承継計画を実施するタイミング
事業承継計画を実施する時期として理想的なのは、準備が整った段階ですが、より適しているのは決算後のタイミングです。事業承継計画の実施においては株式の評価が重要であり、会社の売り上げ・利益・損失などが決算ですべて明らかになってからでなければ、経営者は適切な判断ができません。
また、実施することを決めたら、速やかに実行に移すことも大切です。何らかのトラブルが発生したり、急激な売り上げの増減が起こったりした場合、次の決算まで事業承継の判断を先延ばしにする企業も実際にあります。せっかく立てた計画が無駄にならないよう、実行プランまでしっかりと落とし込んでおきましょう。
事業承継計画に関する相談先
事業承継計画を作成する際は、事業承継に詳しい専門家を交えるのが基本です。事業承継について考え始めたら、早めに相談しましょう。事業承継計画に関する主な相談先は次のとおりです。
1. 事業承継・引継ぎ支援センター
国が設置している事業承継の相談窓口です。計画を作成するときはもちろんのこと、後継者が決まっていない段階からでも相談に乗ってもらえます。
2. 商工会議所
地域の商工会議所でも、事業承継に関する包括的な支援や相談を行っています。各都道府県に数カ所あるケースも多いため、直接商工会議所に相談してみるのもよいでしょう。
3. 事業承継に関する相談ができる企業
事業承継全般を支援している企業に相談するのもひとつの方法です。例えば、ボルテックスでは事業承継の計画だけでなく、相続などのお悩みにも対応しています。
円滑な引継ぎには事業承継計画の作成が重要
事業承継には、財務や法律が絡んださまざまな課題があります。また、後継者候補が存在しない場合は、親族外承継やM&Aも視野に入れなければなりません。不確定要素が多いため、早期から計画的に進めることが求められます。円滑な事業の引継ぎには、事業承継計画の作成が不可欠です。まずは、専門家に相談するところから始めましょう。
※期待どおりの税務上の効果が得られない可能性があります。
※税制改正、その他税務的取り扱いの変更により効果が変動する場合があります。