後継者不足の現状と解決策|中小企業の事業承継について
目次
現在日本には、経営者の高齢化にともない、事業を後継者に引き継ぐ事業承継を実施する企業が多く存在します。しかし、後継者不足を理由に廃業せざるを得ない企業も存在し、社会問題になっていることをご存じでしょうか。
この記事では、日本における後継者不足の現状や背景、それに対しての具体的な解決策を解説します。事業承継は早期に取り組みを開始し、専門家を交えて中長期的なプランに沿って進めていくことが大切です。将来的な事業承継に向けて、現状把握や課題の整理に本記事をお役立てください。
後継者不足の現状
日本国内において、後継者不足による廃業が増加しています。その背景にはどのような問題があるのでしょうか。現状を踏まえて解説します。
休廃業・解散した企業は倒産した企業の7倍
東京商工リサーチのデータによると、2021年における企業倒産件数は6,030件と、政府や自治体による支援もあって57年ぶりの低水準になりました。
しかし、同年に休廃業・解散した企業(休廃業企業)は全国で4万4,377件と、統計を開始した2000年以降、3番目の高水準になっており、倒産の7倍以上の企業が休廃業している現状があります。
経営者の平均年齢の上昇が顕著
日本では経営者の高齢化が進んでおり、今後数年で多くの企業が、事業承継のタイミングを迎えると予測されています。
東京商工リサーチのデータによると、2021年度における全国の社長の平均年齢は62.49歳となっています。また、同社の調査をもとにしたデータを見てみると、休廃業企業の代表者の年齢は80代以上が20.0%、70代が42.6%、60代が23.3%となっており、60代以上が全体の8割以上を占めています。
経営者が高齢となっている状況のなか、後継者がいないことで、黒字であっても廃業せざるを得ないケースもあります。廃業してしまえば、従業員が職を失うことになり、長年培ってきた技術も途絶えてしまいます。
不本意な廃業を避けるためにも、事業承継について早期から検討することが大切です。
事業承継にまつわる問題について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください。
>「事業承継にまつわる問題と解決策|承継トラブルのリスク回避方法」
後継者不足の原因
中小企業では、業種を問わず深刻な後継者不足が起きています。帝国データバンクの全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)によると、後継者不在率は全国で65.1%となっており、3社に2社が後継者不在の状態です。ここでは、後継者不足の主な原因を解説します。
1. 親族や身内への承継が一般的ではなくなった
一昔前は経営者の子供や、子供の夫などの身内で事業承継を行うケースが一般的でした。しかし、昨今は身内による事業承継の割合が減少しています。
その原因として、少子化により後継者候補が少なくなっていることや、職業選択の多様化などがあげられます。また、経営者が後継者候補に対して、「経営者としての能力に欠ける」と判断して事業承継を渋るケースや、子供が自ら、「自分は経営者の器ではない」と事業承継を忌避するなどの問題も起きています。
親族内承継について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
>「親族内承継とは?メリットデメリットと円滑に引き継ぐポイントを解説」
2. 事業の将来性に不安がある
事業の将来性も、事業承継を検討するうえで大切な判断材料です。昨今の状況などを鑑みて、経営者自らが「継がせたくない」、子供も「継ぎたくない」と考える現状があります。
後継者候補が事業を継ぎたいと思う理由について、中小企業庁が調べたデータによると、「事業がなくなると困る人(取引先・従業員など)がいるから」と回答した人が31.2%ともっとも多く、次いで「事業に将来性があるから」と回答した人が30.0%と、ほぼ同じ割合になっています。
後継者が事業を継ぐ理由のうち、「事業を引き継ぐことへの使命感」と「事業に将来性を感じている」が多いことが分かります。
将来性がないといわれた業界においても、ユニークな発想によって事業がV字回復したサクセスストーリーは数多く存在します。経営者には、外部の力も借りながら、後継者が「この会社を継ぎたい」と思えるような環境を整えることが求められています。
3. 負債を抱えていることに不安がある
事業承継では、負債も引き継がれることになります。負債があることがネックとなり、経営者と後継者の双方が事業承継に対して積極的になれない場合もあります。
4. 事業承継の準備が進んでいない
中小企業庁が公表した「事業承継ガイドライン」によると、事業承継には5年から10年ほどの期間が必要だといわれています。事業承継の手続は複雑で、日々の業務が忙しいことを理由に、準備が進んでいないことも後継者が不足する要因のひとつです。
事業承継のなかでも時間がかかるのが、後継者の育成です。準備をしなかったことで、いざ事業承継が必要になったときに適当な後継者が見つからず、悩んでしまう人も多いのです。
後継者不足の解決方法
事業承継は家族の問題と考える中小企業の経営者は多く、ひとりで悩みを抱えているケースも珍しくありません。後継者不足の問題を解決するには、早期の取り組みと、外部の力を借りることが必要です。
1. 早い段階からの後継者の選定と育成
後継者に事業を引き継ぐうえで、やるべきことは多岐にわたります。中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)によると、事業承継について経営者が特に身につけたい知識としてあげたのが「後継者の養成について」で、調査対象となった小規模事業者・中規模事業者ともにトップの割合となっています。
後継者の選定と育成には時間を要するため、少しでも早く後継者候補を選定し、育成を始めることが重要です。
事業承継では、子や孫といった身内に引き継ぐだけでなく、外部に引き継ぐという選択肢もあります。そのなかでも、従業員に事業を引き継ぐ方法は、人材育成の手間を削減でき、現場を知っていることからスムーズな引き継ぎが実現できるなどのメリットがあります。
従業員への事業承継について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください。
>「従業員へ事業承継するメリット・デメリットと3つの選択肢」
2. M&Aの活用
M&Aとは、Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略で、企業の合併買収を意味します。
親族や身内、従業員に適当な後継者がいない場合でも、M&Aを活用することで適任者に事業を承継し、会社を存続できる可能性があります。
M&Aには、新規事業への参入や既存事業の強化といったメリットがある一方、従業員の説得などが必要になり、手間が発生するというようなデメリットもあります。手続が複雑で、身内に事業承継する場合に比べて長期化する傾向もあるため、専門家を交えた早めの取り組みが必要です。
後継者を探したい人と、会社を継ぎたい人をつなげるマッチングサービスの活用もおすすめです。
3. 事業承継に関する窓口で相談
全国各地にある、事業承継の相談窓口の利用も検討しましょう。自社や身内だけでは解決できないことも、第三者のサポートを受けることで解決の糸口が見つかる可能性があります。具体的な相談窓口は次章で解説します。
後継者不足や事業承継の相談先
ここまで解説したように、事業承継は早期の準備や取り組みが必要です。わからないから、忙しいからといって放置するのではなく、次のような相談窓口に連絡してみましょう。
1. 公的機関
事業承継の問題を相談できる代表的な公的機関は、次のとおりです。
相談先 | 相談できること | 設置場所 |
事業承継・引継ぎ支援センター | 後継者不足やM&Aによるマッチングの検討など 事業承継に関すること全般 | 47都道府県 |
よろず支援拠点 | 中小企業、小規模事業者の経営課題全般 | 47都道府県 |
日本商工会議所のホームページでも、事業承継のガイドラインなどの資料が公開されています。
参考:日本商工会議所 事業承継・引き継ぎ支援
2. 事業承継の支援を行う企業
事業承継に関する支援を行っている企業への相談もおすすめです。
後継者不足には早期の取り組みが重要
経営者は日々、資金繰りや従業員の育成など、さまざまな問題に直面しています。事業承継の必要性は理解していても、目の前の問題を解決することに意識が向いてしまうのは、当然のことといえます。
しかし、事業承継は決して遠い未来の話ではありません。候補者の選定から始まって、株式の譲渡や後継者の育成などを、日々の業務と並行して計画的に進める必要があります。
日本では後継者不足が大きな問題になっていますが、そのほかに「後継者候補は存在するけれど、さまざまな問題があってうまく物事が進まない」というケースも多いと考えられます。早めの取り組みや外部への相談によって解決できることもあるため、ひとりで抱え込まずに相談することが大切です。
※期待どおりの税務上の効果が得られない可能性があります。
※税制改正、その他税務的取り扱いの変更により効果が変動する場合があります。