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従業員へ事業承継するメリット・デメリットと3つの選択肢

目次

かつて事業承継は親から子へ引き継ぐ「親族内承継」が主流でしたが、昨今は親族外への承継も増えており、その代表的な方法は自社の従業員へ引き継ぐ「従業員承継」です。

自社の業務や取引先の情報などに精通した幹部社員が承継すればスムーズに事業を継続できるメリットがある一方、後継者の資金力や親族からの反対など乗り越えるべき課題もあります。

また後継者候補となる従業員の顔は思い浮かんでも、どのように事業承継を進めるべきかわからない経営者もいるのではないでしょうか。

この記事では、従業員承継のメリット、デメリットや事業承継を行う3つの方法について解説します。

従業員に事業承継するメリット

事業承継の後継者として自社の従業員や役員を選ぶ、すなわち内部昇格させる企業も多くあります。

帝国データバンクの調査(2021年)によると、内部昇格によって経営者になったパターンは全体の3割強にのぼります。トップの親族内承継に次いで2番目に多いのが従業員への承継です。

出典:全国企業「後継者不在率」動向調査|帝国テータバンク(2021年)
調査対象:全国の26万6,000社

後継者の選択肢が少人数に限られる親族内承継に比べ、社内の役員や従業員から候補者を絞り込める点が従業員承継の特徴です。また後継者が決まったら、経営者に相応しい人材へと社内で時間をかけて育成できるのも魅力といえるでしょう。

メリット1:後継者の幅が広がる

従業員承継では、自社の発展に貢献してきた役員、従業員の中から後継者を選出できます。

この点は親族内承継とは対照的で、親族内に限定した場合は、実子のほかに親戚や姻戚を含めても候補者の人材は限られてしまいます。親族が引き継ぎを拒否する場合でも、従業員まで対象を広げれば後継者を見つけやすくなるでしょう。

メリット2:承継後も業務が円滑に進みやすい

後継者を社外から招へいする場合と比べ、社内で十分な育成の時間が取れるのは、従業員から後継者を選ぶアドバンテージといえます。

勤続年数が長い従業員は、経営理念や現場の業務フローを熟知しているケースが多いです。そのため、業務の引き継ぎも円滑に行われ、承継後もスムーズに継続できるでしょう。

メリット3:社内・取引先などから理解を得やすい

社内の従業員や、取引先、銀行などからも、なじみのある後継者のほうが受け入れられやすいでしょう。

M&Aなど第三者承継では、社風や社内ルールが一変して、社員や社外の取引先にも影響を及ぼすケースがあります。

従業員ではなかった親族が突然社長に就任すると古参社員から反発を受ける可能性は否定できません。また、金融機関や取引先の心証が悪くなると資金繰りが思うように進まない、取引が滞って業務スケジュールに遅れが出るなども考えられます。

従業員に事業承継するデメリット

後継者に従業員を選んだ場合のデメリットで、とくにあげられるのは以下のふたつです。

  • 後継者に事業承継するだけの十分な資金がない場合がある
  • 経営者の親族が、従業員承継に反対する場合がある

デメリットに対する具体的な対策とともに解説します。

デメリット1:後継者に資金力が必要

従業員が引き継ぐ場合、自社株の買い取りに必要な資金を持っていない可能性があります。

資金不足の際は、次のような選択肢があります。

  • 銀行やファンドから融資を受ける
  • 自社株の評価額を下げ、承継しやすくする
  • 事業承継税制を活用する

企業の状況により最適な方法は異なるため、早めに事業承継の専門家に相談するとよいでしょう。銀行などからの資金調達を目的としたMBO、EBOによる株式取得も承継を実現するひとつの方法です。また、ファンドやVCから資金を集める手段もあります。

※ 自社株の評価額を算定する方法は「円滑な事業承継のために知っておきたい株価算定|自社株評価の算出方法」の記事で詳しく解説しています。

デメリット2:親族に反対される可能性がある

現経営者が見込んだ人材を後継者に指名しても、親族から反対されてしまう場合もあります。

とくにこれまで親族のみで引き継がれてきた企業では、役員や従業員への承継そのものを反対する人も現れるかもしれません。

トラブルを回避するには、従業員承継による影響を十分に説明するなどの根回しが重要です。

従業員への事業承継の3つの選択肢

イメージ画像

従業員承継を行う具体的な方法は、主に以下の3つから選ぶ必要があります。

  • 株式の売却
  • 株式の贈与・遺贈
  • 経営権だけの譲渡

それぞれの特徴を把握し、自社に合った方法で進めるのがよいでしょう。

株式を譲渡する

株式譲渡は、後継者に自社の株式を買い取らせる事業承継の一般的な手法です。

企業の経営権とともに所有権も引き渡しておくと、後継者が意見を通しやすくなるので、経営のかじ取りもスムーズになります。

しかし、役員や従業員が承継する場合、これまでの給与のみでは資産がない場合も多くあります。会社規模によっては自社株が数億円にものぼるため、買取資金を用意するのは、一般的に難しいでしょう。

その場合には何段階かに分けて、徐々に株式を譲渡して資金の負担を分散したり、MBOなどで資金を調達させたりなどの対策が必要です。 現在の経営者には、自社株の譲渡益に対し譲渡所得税が課せられます。また、後継者の負担を減らすために、自社株の評価額より著しく低い価格で譲渡すると、贈与と見なされ「みなし贈与税」が課せられる可能性があるので注意が必要です。

株式を贈与・遺贈する

現在の経営者が保有する自社株を、後継者となる従業員に対して贈与または遺贈する方法もあります。

後継者は自社株を買い取るための資金が不要となる代わりに、贈与税または相続税を支払う必要が生じます。自社株を資産として受け取るものの、直接的な資金が増えるわけではありません。そのため、高額な税金を支払うのは困難な場合が多いでしょう。

なお中小企業の経営者の中には、資産の大半が自社株で、株式以外の財産を持っていないケースもあります。後継者に無償で贈与すると、後継者やその家族の生活が苦しくなる可能性も考慮しなければなりません。

また、経営者は遺言書に明記すれば、後継者に自社株を遺贈できます。しかし相続人の遺留分も考慮しなければ、トラブルや内紛につながる恐れがあります。後継者が遺贈を受けた場合は、相続人に代償金を支払う必要があります。

経営権だけを譲渡する

会社の資産を引き渡さずに、経営権だけを譲渡すると所有権は現在のオーナーのままとなります。

後継者の肩書や職責は代表取締役となりますが、経営権と所有権を持つ人物が別々になると、トラブルが生じる可能性があります。業務執行の権利を持つ代表取締役よりも、株主の権限のほうが強いため、経営方針などを巡って対立すると業務が円滑に進まなくなる恐れがあるためです。

従業員に事業承継する流れ

事業承継は計画から実行まで5年程度、長ければ10年かかるといわれます。

自社の従業員に事業承継する流れを、以下のステップ別に説明します。

  1. 会社の現状を把握
  2. 後継者候補の選定
  3. 事業承継計画書の作成
  4. 関係者への周知
  5. 株式の譲渡または贈与(遺贈)
  6. 候補者への引き継ぎ

経営者交代による影響を軽減し、円滑に業務が継続できるようにポイントをおさえておきましょう。

ステップ1:会社の現状を把握

まずは会社が保有する人材、資産などのほか、売上高、借入残高や経営状況を含めた現状把握が重要です。従業員の役職や勤続年数、基本給など、社内の細かな状況まで把握する必要があります。

さらに設備や無形資産、以下のような情報を可視化することも欠かせません。

  • 重要な顧客名
  • これまで支持されてきた理由
  • メインバンクからの評価
  • 会社としてのアピールポイント
  • 経営者自身の資産や負債の状況

ステップ2:後継者候補の選定

役員や従業員への承継には、多くの候補者から後継者を選べるメリットがあります。初期からあまり人数を限定せず、徐々に選抜していくとよいでしょう。

長年会社を支えてきた共同創業者や役員も候補となりますが、現在の経営者より若い年齢のほうが後継者に適している場合もあります。また、役員や従業員として優秀なだけでなく、経営者としての適性も備えているかについて慎重に見極めなければなりません。

まだ役職に就いていない有望な若手社員を、候補のひとりとして抜擢し、時間をかけて育成するのも方法のひとつです。

ステップ3:事業承継計画書の作成

専門家と相談しながら、事業承継計画書を作成して、スケジュールを可視化します。

事業承継を行う際の引き継ぎ漏れが起こりづらくなるほか、現在の課題や会社が保有する財産、知的資産なども一覧化できます。

「事業承継計画書」として文書にまとめると、現経営者と後継者やそのほかの利害関係者の間で齟齬が起こりづらく、信頼も得やすくなるでしょう。

さらに事業承継税制の特例措置が適用される可能性もあります。長い年月を要する事業承継を計画通りに進めるためにも計画書作成は必須です。

ステップ4:関係者への周知

後継者が決まり、承継スケジュールが確定した段階で、関係各所への周知を開始します。

企業にとって最重要な人事情報でもあるため、情報を開示するタイミングと順番は注意が必要です。

まず自社の役員、そして従業員に知らせます。あわせて社外への公表日も伝えて、公表日までは口外しないように念押ししましょう。

次いで現在の経営者自身が主要な取引先、金融機関、経営に関わる親族へ後継者を紹介します。重要な相手先には、交代の報告とあいさつの場を設けることで、今後の円滑な取引にもつながります。

ステップ5:株式の譲渡または贈与(遺贈)

一般的には、経営者が保有していた自社の株式を有償で譲渡します。ただし、後継者となる従業員に資金が足りない場合は、贈与もしくは遺贈を選ぶケースもあります。

創業時に比べて自社株の評価額が大きく高まっている場合は、株式の買い取りは現実的な金額ではないケースもあるでしょう。そのため「区分所有オフィス」を選択される方も少なくありません。承継時には1口ずつ分与することが可能なため、円滑に資産を引き継げる点が特徴です。

その際は、経営権だけを後継者に譲渡し、所有権を持つのは現在の経営者のままとするのもひとつの方法です。

ステップ6:後継者への引き継ぎ

自社株の譲渡、贈与が完了し、株主総会を経て正式に経営者の交代が承認された後、後継者への業務引き継ぎを行います。これまで後継者を育成する過程で、すでに多くの業務は引き継がれている場合でも、最終的な引き継ぎは直接コミュニケーションを取りながら漏れなく行うとよいでしょう。

また、取締役や監査役などの役員に変更がある場合は商業登記、土地や建物の所有者が変わったときには不動産登記が必要です。

手続きの内容について、事前に司法書士などの専門家と打合せをしておくとスムーズです。

従業員に事業承継する際の注意点

従業員への事業承継には、注意すべき点もあります。それぞれのポイントをおさえておきましょう。

個人保証の承継について事前に説明する

中小企業の経営者は、個人保証で会社としての借り入れを行っているケースが多くあります。事業承継すると、前経営者の借り入れ金も引き継ぐことになるため、後継者がリスクを受け入れる必要があるでしょう。

また金融機関にも了承を取らなくてはなりません。当然、後継者にも金融機関からの信頼が求められます。仮に金融機関が難色を示した場合は、借り入れ額を減らす、または現在の経営者が会長や顧問などとして社内に留まるのも対策のひとつです。

後継者・親族から了承を得る

事業承継は大きな責任をともなうため、必ずしも後継者候補から歓迎されるとは限りません。

経営者が後継者を指名するうえでは、本人の了承を明確に得る必要があります。覚悟を確認しないままでは、承継途中で頓挫するリスクがあるためです。

また、現経営者の親族に対しても丁寧に説明し、了承を得ておくことは後のトラブルを防止するためにも重要です。

従業員承継が難しい場合は廃業またはM&Aも検討する

従業員の中に候補者がいない、また本人の承諾が得られない場合には、会社の廃業やM&Aによる第三者への事業譲渡が選択肢となるでしょう。目下の資金繰りが厳しい企業や、経営者に時間的な余裕がない場合も同様です。

廃業する場合は、経営者自身が会社の精算手続きを行い、廃業にかかるあらゆる費用負担が生じます。残っている借入金の返済、事務所や備品の撤去、解散登記の申請にかかる手間暇や費用はすべて経営者にのしかかります。金額の大きさによっては、老後の生活資金を圧迫する可能性もあるでしょう。

一方でM&Aでは、マッチングの結果で適切な譲渡先が見つかれば、売却益を得られます。ただし買い手がすぐに現れるとは限らず、条件交渉に半年から1年かかる場合もあります。M&Aの専門家、専門業者に相談する場合は、早めにご相談するのがよいでしょう。

>ボルテックスの考える事業承継とは

まとめ:従業員への事業承継はメリットも多いが資金面が課題

従業員への事業承継は、親族から後継者を選ぶ場合と比べて人選の幅が広がるほか、企業や現場の業務を熟知したリーダーに引き継ぐことができる点がメリットです。

しかし、評価額が向上した自社株を後継者が買い取るには、資金面がハードルとなり、経営権とともに所有権を移すのが難しいという課題もあります。

後継者の資金不足への対策は、銀行やファンドからの融資、自社株式の評価額を下げる、事業承継税制の活用などの方法があります。自社に最適な方法を選択するためにも、早めに専門家に相談するとよいでしょう。

事業承継のお悩みはボルテックスにご相談ください

監修者

金子賢司かねこけんじ

資格:CFP

東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。

※期待どおりの税務上の効果が得られない可能性があります。

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