中小企業が抱える事業承継の課題|経営者と後継者で解決すべきこと
目次
日本では経営者の高齢化が進んでいるなか、事業承継に関する公的な相談機関が設けられるなど、事業承継をサポートするための体制構築も進んでいます。
一方で、適当な後継者がいないことなどを理由に、経営者が事業承継を後回しにするケースも見られます。まずは、自社の現状を整理し、課題を明確にすることが事業承継の道筋を立てるための第一歩です。
本記事では、事業承継に関して多くの経営者が抱える悩みを解説します。事業承継の現状とあわせて、課題や解決策を知ることで、自社の事業承継を進めていくきっかけになれば幸いです。
事業承継の現状
まずは、日本における事業承継の現状を解説します。事業承継に関する問題や悩みを抱えているのは、主に中小企業に多いです。その現状をデータで見ることで、課題が浮き彫りになってきます。
経営者の高齢化
日本では、中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。2020年には、経営者年齢のピークは60代から70代となっており、20年前の2000年に50代がピークだったことを考えると、高齢化が急速に進んでいることが分かります。
経営者の高齢化は業績にも大きな影響を及ぼしています。東京商工リサーチの調査によると、直近決算で減収となった企業の社長は60代が48.8%、70代以上が48.1%となっています。また、赤字企業は70代以上が22.3%で最多となるなど、経営者の高齢化と業績悪化の関連性の深さが見て取れます。
その背景には、経営者の高齢化によって長期的なビジョンを描くことが難しくなり、設備投資や経営改善などの対策が遅れていることがあげられます。また、都道府県別に見ると、高齢化が進んでいる県ほど、経営者の世代交代が遅れています。
出典:株式会社東京商工リサーチ 「全国社長の年齢調査」 (2021)
後継者の不足
適切な後継者がおらず、引き継ぎの準備ができないことも、事業承継における課題のひとつです。東京商工リサーチの調査によると、中小企業の廃業件数は増加傾向にあり、そのうち6割は黒字にもかかわらず廃業を余儀なくされています。さらに、廃業理由の3割が「後継者難」だといいます。
また、日本政策金融公庫総合研究所が2019年に実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、中小企業のうち後継者が決定している企業はわずか12.5%で、半数以上が廃業を予定していることが分かっています。
事業承継には財務や法律の問題が複雑に絡んでおり、手続にも時間がかかります。そのため、何から手を付けてよいか分からず、一歩踏み出すことをためらう経営者が多いのも現状です。早期から専門家を交えて計画的に事業承継を進めることで、廃業を回避できる可能性があります。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2019)
事業承継の問題について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
>事業承継にまつわる問題と解決策|承継トラブルのリスク回避方法
事業承継における経営者の課題と解決策
事業承継は、従業員や取引先など、影響が及ぶ範囲が多岐に渡ります。そのため、まずは自社の状況を整理し、スムーズな事業承継に向けて解決するべき課題を知ることが大切です。ここでは、事業承継で多くの経営者が抱える課題と解決策を解説します。
1. 後継者の選定と育成
後継者の選定と育成は、事業承継の中でも長期的な取り組みが必要になるプロセスです。まず、誰を後継者にするかを決めなければなりません。後継者候補としては、親族・従業員・M&Aなどによる第三者があげられます。次に、後継者の育成プランを立てる必要があります。
実子や従業員への承継がすでに決まっているのであれば、現経営者と後継者候補で事業承継の計画のすり合わせを行い、できるだけ早い段階から育成をスタートするのが望ましいです。
一方、親族や従業員に後継者候補がいない場合は、M&Aなど第三者への事業承継が選択肢に入ります。この場合、自社を買収・合併したい企業を探すところから始めます。承継先の企業候補を探す方法としては、M&Aのマッチングサービスや仲介会社の活用、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関への相談などが考えられます。
いずれの場合も、経営の状況などによっては後継者が見つかりにくい可能性があります。事業承継を考え始めたら、なるべく早期に行動することが大切です。
2. 個人保証の引き継ぎ
個人保証とは、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際、経営者やその親族などの個人が連帯保証人となることをいいます。中小企業は大株主が経営者自身である場合が多く、個人資産と会社資産を明確に分けるのが難しい面があります。そのため、経営者は企業と一体になって責任を負うべきという考え方がありました。
しかし、仮に会社が債務を弁済できなくなった場合、個人がその責任を負うことになり、中小企業の思い切った経営計画の妨げになるなどの問題も起きています。また、事業承継を実施すると、原則として現経営者の個人保証は後継者に引き継がれることになり、大きな負担となっています。
このような個人保証の問題を解決するために「経営者保証ガイドライン」と呼ばれる指針が示されています。法的効力はありませんが、関係者の自発的な尊重・遵守が期待されています。
個人保証が事業承継を妨げる一因となっている状況を踏まえ、現経営者の個人保証を解除する計画が政府によって実施されています。ただし、適用には条件があり、財務基盤の強化などによる企業の体制強化が求められます。
3. 税負担の解決
一般的に、株式の譲渡や資産の譲渡には莫大な税金がかかり、それを理由に事業承継を諦める企業も存在します。そのような現状に対応するため、贈与税や相続税の納税が猶予または免除される制度があります。これを「事業承継税制」といい、活用することにより税金の負担を軽減できる可能性があります。ただし、制度が複雑で注意点も多いため、専門家の手を借りながら計画的に手続を進める必要があります。
4. 従業員の理解と雇用の維持
事業承継を行う相手によっては、従業員の理解を得にくい可能性もあります。事業承継の中でも、雇用面で特に課題が多いのがM&Aです。M&Aでは多くの場合、従業員の雇用維持は前提となりますが、経営方針や待遇の変化に不満を抱く従業員が出てくる可能性もあります。結果として退職につながるケースも考えられるため、事業承継をできる限り円滑に進めるための対策が求められます。
従業員が最も不安に思うのは、雇用と待遇の変化です。まずは、現状の雇用と待遇は維持されることを従業員に周知しましょう。役職ごとに適切なタイミングで周知を行い、雇用関係で変更せざるを得ないケースがあれば個別で対応する場を設けることが大切です。
また、賃金や勤務地の移動などにより、やむを得ず退職を選択する従業員も出てくるでしょう。その場合は退職金の手続を行い、有給休暇の消化を促すなど、個別に対応します。
M&A後も従業員の雇用と待遇(給与/福利厚生/有給休暇/労働時間など)が継続されるよう、買い手企業と契約書を交わすなどの対策も講じましょう。従業員から理解を得て雇用を維持するうえで、買い手企業とのコミュニケーションや協力関係は不可欠です。
5. 取引先との関係性
事業承継は、顧客や金融機関といった取引先にも大きな影響を与えます。そのため、自社の従業員と同様、事前に説明を行う必要があります。引き継ぎの前に適切なタイミングで事業承継を周知し、理解を得られるように進めましょう。
ただし、M&Aの場合は、外部に情報が漏れないようコントロールが必要です。取引先に公表するタイミングは専門家に相談することをおすすめします。
6. 事業承継後の経営状態
事業承継を行った後の会社の姿も、経営者にとっては大きな関心事です。引継ぎをして終わりではありません。10年、20年と続いていく会社の将来のために、事業承継後も見据えた中長期的な計画を、現経営者と後継者で立てていきましょう。
【分類別】事業承継の課題解決のための相談先
事業承継は家族の問題と考え、課題を一人で抱え込んでしまう経営者も珍しくありません。困ったときは、各機関や専門家にも相談できます。課題によって適切な相談先は異なるため、ここでは、課題の種類別におすすめの相談先を解説します。
1. 後継者不在に関する相談先
親族や身内、従業員で後継者候補が見つからないときは、M&Aという手段もあります。M&A仲介会社では、後継者問題を解決したい企業(売り手)と、買収先を探している人をつなげてくれます。
2. 相続や税金に関する相談先
事業承継には、財務や法律の専門知識が不可欠です。相続・税金に関することは、税理士や公認会計士などの専門家に相談しましょう。事業承継における相続税や贈与税に関して相談できるだけでなく、節税などのアドバイスももらえます。
3. 事業承継全般に関する相談先
全国各地に、事業承継全般に関する相談を受け付けている公的機関があります。主な相談先は、事業承継・引継ぎ支援センター、よろず支援拠点、商工会議所です。
また、事業承継を複合的に支援する企業への相談も可能です。ボルテックスでは、事業承継支援全般に対応しており、相続のアドバイスも行っています。
事業承継の課題は日本全体が抱えている
日本における中小企業の割合は全企業数の99.7%です。日本の原動力ともいえる中小企業がこれからも健全な経営体制を維持するために、事業承継は避けて通れない課題です。
しかし、事業承継には課題が山積みで、やむを得ず廃業を選択する企業も増えています。財産ともいえる自社の技術を守っていく意味でも、現状を整理して課題を洗い出し、ひとつずつ解決していく姿勢が大切です。
経営者は一人で悩みを抱え込まず、まずは専門家に相談してみてはいかがでしょうか。それをきっかけに、未来への道筋が開けるかもしれません。
※期待どおりの税務上の効果が得られない可能性があります。
※税制改正、その他税務的取り扱いの変更により効果が変動する場合があります。