自社ビルの修繕積立金はどの程度準備する?費用や工事について解説
目次
マンションが12年周期で大規模修繕工事を実施するのと同様に、オフィスビルも同程度の頻度で大規模修繕や設備の更新が必要です。
外壁塗装や屋上防水の工事、またエレベーターのような高額設備の更新が重なった場合には、一度に数千万円の出費をビルオーナーが負担することとなります。しかし修繕積立金のように強制的に積み立てる制度がないというビルも少なくありません。
この記事では、修繕コストを抑え、安全にビルを運用するために必要な修繕計画の作成方法や修繕積立金の目安などを解説します。
今後、自社ビルの購入を検討する企業も参考にしてください。
自社ビルはオーナーが定期的に修繕を行う
自社ビルは、オーナーの責任で修繕する必要があります。
マンションのように大規模修繕工事の周期が明確には定められていませんが、ビルの場合も概ね12~15年程度で大規模な修繕工事が行われます。また設備の故障など突発的な対応や、交換・更新が必要になることもあるでしょう。
場当たり的な修繕を行うと、資金が不足して十分な修繕工事ができず、建物の価値を毀損してしまうことにもなりかねません。適切に対応するには、長期および中期修繕計画を立て、計画に基づいた修繕工事を実行することが大切です。
予算として、日頃から修繕積立金を用意しておくことも、もちろん重要です。ただし居住者が月々、積み立てるマンションの方式とは異なり、ビルオーナーが毎月の賃料収入から計画的に積み立てておく必要があります。
自社ビルの修繕工事に必要な修繕積立金
建物の規模や築年数によって異なりますが、ビルの大規模修繕工事では2,000~3,000万円程度が相場といわれています。
一般的な修繕サイクルと費用の目安を次の表にまとめました。
工事の内容 | 平均的な修繕周期 | 費用 |
グレードアップ | 20~30年 | 約1,000万円 |
エレベーターの取替 | 30年 | 約1,200万円(1基) |
空調設備 | 10~15年 | 約300万円 |
外壁塗装・タイル | 10~15年 | 約100~1,000万円 |
屋上防水 | 10~15年 | 約150~1,800万円 |
照明器具 | 8~10年 | 約10~100万円 |
給排水ポンプ | 7~10年 | 約150~300万円 |
多くのマンションでは、大規模修繕工事の周期を12年として、長期修繕計画が組まれています。オフィス用のビルについても、外壁や防水など建物の性能にかかわる点は、ほぼ同じ程度で計算されます。
どの工事を優先的に行うかは劣化の状況や予算によって変わりますが、築10年を経過すると小規模ビルでも1,000万円程度の修繕費が必要となるでしょう。
自社ビルの修繕積立金を確保しておくメリット
建物の機能を維持し、安全に利用するためには、改修工事や更新の時期と費用を予測した修繕計画作りが重要です。
周期 | 作成の目的 | |
長期修繕計画 | 30~50年 | 大規模改修の時期や大枠の修繕費のスケジュールをつかむ |
中期修繕計画 | 5~10年 | より具体的に、いつ、どのような優先順位で工事を行うかを示す。 劣化の進行状況によって計画を修正する |
ビルの建築から解体までにかかる総費用のうち、新築時にかかるイニシャルコストは2割以下で、運用費用であるランニングコストが8割以上に達します。
ランニングコストを抑えるには修繕計画を立て、適切な工事や設備更新を行うことが欠かせません。計画的に修繕を行うと、想定外の故障やトラブルを防止でき、修理費などの支出を抑えやすくなります。そのためには、自社で修繕金を積み立てて確保しておくことが有効です。
劣化の進行具合に応じて適切な手が打てる
劣化を放置し続けると、早期に建替が必要な状態となってしまう懸念があります。しかし、あらかじめ劣化の進行や設備が壊れる時期を正確に予想するのは困難です。
漏水などは起きてから対応するのでは遅いため、劣化状況によって長期計画よりも前倒しで屋上防水の加工工事を行うケースもあるでしょう。
長期修繕計画に加えて、5年程度の中期計画を立てて随時見直すことが、結果的にコストの抑制にもつながります。修繕金を確保しておけば、1,000万円を超えるような修繕・交換の出費にも備えられます。
資産価値向上を図る工事を実施できる
大規模修繕工事は、建物の機能や美観を回復させる側面のほかに、グレードアップさせて資産価値を向上させる目的もあります。
ビルの一部を他社に貸し出す場合には、テナントが見つかりやすくなる可能性があります。ビルは住宅に比べ、築年数が経過しても賃料が低下しにくいといわれるため、外壁や屋上でも高機能な材料を採用することにより、長く価値を保つもしくは資産価値の向上にもつなげられるでしょう。
自社ビルの中長期修繕計画を作る流れ
中古ビルを購入した場合や新たに修繕計画を作成する場合に必要なステップを解説します。
- 図面確認
- 現地調査とヒアリング
- 計画書の作成
修繕計画の作成は、建物の修繕や改修に精通した専門業者に依頼するのがよいでしょう。
1. 図面確認
はじめに、過去の修繕履歴や新築時の工事内容をチェックします。
これからの数十年間で、いつごろどの程度の修繕費がかかるかを大まかに知る目的なら、50~150万円程度で計画書は作成可能です。
一方で、中期修繕計画のような細かい計画を作成したい場合には、建物に使われているあらゆる部材をリストアップするため、必要な期間と費用が増します。
2. 現地調査とヒアリング
次に現地で目視や打診による調査を行います。屋上の防水や金属部分の劣化状況のほか、過去に修繕工事を行った場合には、補修した部位の現況を確認します。
調査のレベルによりますが、壁塗膜やタイルの付着力、シーリング材物性を機械で検査する場合もあります。
同時にオーナーや入居している企業に対して、すでに顕在化している設備の問題点があるかなどのヒアリングをすることも重要です。
3. 計画書の作成
修繕が必要な項目を洗い出し、修繕時期を設定することで、いつどの程度の修繕費用が必要かを算出します。
計画に基づいた修繕金の積立計画を盛り込むと、計画書は完成です。なお中期修繕計画については、作成から5年経過したら再度調査を依頼するとよいでしょう。
自社ビルの修繕積立金の一部を損金にする方法
原則として、将来の大規模修繕のための修繕積立金は、損金としての経費計上はできません。
しかし、現金ではなく生命保険料として支払った費用なら、保険料の一部が損金参入できるケースがあります。
この場合
- 契約者(保険料負担者)=会社
- 被保険者=社長など役員
- 保険金受取人=会社
と契約しておき、大規模修繕を実施するために、資金が必要になったら生命保険を解約して解約返戻金を受け取ります。
例えば、最高解約返戻率が70%超85%以下の生命保険の場合、最初の4割の期間は40%損金算入できます。(個別の案件については、税理士などの専門家にご相談ください。)
修繕積立金が不足する場合の施策
築年数が経過するほど、必要な工事に対して修繕積立金だけでは費用がまかなえなくなるケースがあります。
またテナントに空きが出た場合は、賃料収入が減るため拠出される積立金が不足するでしょう。
こうした修繕金が不足する場合の施策を解説します。
補助金の活用を検討する
修繕工事の内容が省エネにつながる場合は、ビルのように一般住宅でなくても補助金を受けられる場合があります。
令和4年度の例では、費用の3分の1、または上限5000万円が補助対象でした。(2022年6月末で申請は締め切られています。)補助金制度の概要は年度によって頻繁に変更になるので、修繕工事を計画する時点で、自社で使える制度があるかを確認するのがよいでしょう。
融資を受ける
金融期間から融資を受ける方法もあります。
自社ビルを修繕し、新築時の機能を取り戻すまたはグレードをアップさせれば、自社の生産性を向上させられるでしょう。またテナントを募集する際にも有利になると予想されます。事業目的とみなされるため回収が見込めれば融資を受けられる可能性は高いと考えられます。
ただし原則は、月々積み立てた修繕積立金で支払える範囲の工事にとどめ、緊急性が高い場合のみ融資を利用するのが賢明です。利息も含めた返済金額が増えれば、経営を圧迫するリスクがあるためです。
区分所有ならリスクを軽減できる
自社だけで大規模な修繕に備えるのが不安だというケースもあるでしょう。
ボルテックスでは「区分所有オフィス®」を展開しています。ビル一棟まるごとではなく、都心部にある中規模なオフィスビルを1フロアずつ購入できる新しい不動産保有の形です。
区分所有オフィスの管理組合を組成する際に、修繕積立金として数千万円をボルテックスより組み入れします。これにより、保有直後のオーナー様に突発的なコストが発生することを回避しています。
さらに30年の長期修繕計画を立て、修繕積立金を各オーナー様から集めているため、長期に渡り適切な修繕を行うことが可能です。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
>ボルテックスが行う「不動産プロパティマネジメント」
修繕計画の作成と修繕費の備えが大切
一般的に建築から10年前後で大規模な修繕が必要となるため、ビルオーナーは修繕費用のキャッシュアウトの可能性に備えておかなくてはなりません。しかし、あらかじめ強制的に修繕積立金を集める仕組みが取られていないビルも多く存在します。
安全にビルを運用し、かつ長期的に資産価値を保つには、適切でタイムリーな修繕や更新をすることが重要です。そのためにも、長期また中期の修繕計画を作成するとともに、定期的に見直しを図るとよいでしょう。
作成されたプランに基づき、計画的な修繕費用の準備をおすすめします。