「11分の美容革命」が美容師の働きがい革命も起こす【株式会社エム・ワイ・ケー 吉楽 裕氏】
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関東を中心に、東北から九州まで、全国に約180店舗を展開する美容室「イレブンカット」。地域のショッピングモールなどに出店し、低価格・短時間でカットできることから家族連れにも人気です。ヘアサロン業界に根づいていた徒弟制度や歩合給を見直し、チームワークを重視して安定して働ける給与体系を整備することで、美容師にとって働きやすい職場を実現しています。鮮魚店からの転身という異色の経歴を持つ創業者の吉楽裕代表に、事業への思いを伺いました。
「ワースト5」の逆をやる美容室の誕生
美容室の経営を始めたきっかけは、ヘアカットに通っていた店のオーナーから「店を買ってくれないか」と持ちかけられたことでした。当時私は年商300億円の鮮魚店の専務を、経営方針の相違から退任したばかりでした。
まったくの異業種ですから、当初は聞き流していましたが、あるとき、業界雑誌をパラパラとめくっていたら、「客から見た美容室のワースト5」という記事が目に留まりました。そこには、「値段が高い」「時間がかかる」「予約が面倒」「メニューが多すぎてわかりにくい」「商品を売りつけられる」という客側の不満が書かれていました。「これの逆をやれば、いけるんじゃないか」──そう考えて、店を買い取り、参入を決めたのです。52歳のときでした。
1号店のオープンは2000年です。低価格(当時は1500円。現在は1680円〈税抜〉)、短時間(11分が目安)、予約不要、シンプルなメニュー、シャンプーなどの商品販売(店販)はしない。ワースト5の逆を行く、常識破りの革命だったと思います。初めは安すぎて技術面が不安なのか、お客様の来店がありませんでした。そこで、まずは体験していただくことが必要と考え、「タイムサービス」を打ち出しました。「先着10名様、カット500円」。これは魚屋が開店早々や閉店間際に魚の値段を安くして売りさばくのと同じ発想でした。3日間限定でしたが、開店前に10名のお客様が店頭に並んでくださるなど大盛況となりました。
ところが、4日目になると客足が止まります。そこでチラシをまいてみる。するとドッとお客様が来る。また止まる。チラシで集客……。そんなことを繰り返すうちに、チラシに頼らなくてもお客様が来てくださるようになりました。お客様の不満を解消し、お客様を第一に考えればうまくいくことを実感した出来事です。
組織を動かすために大切なこと
私は、昔ながらの商店街の魚屋の長男に生まれました。1970~80年代の流通革命を背景に、いったん継いだ家業を辞め、スーパーや商業ビル等に店舗展開する鮮魚チェーンに就職。その頃は根っからの職人でした。包丁さばきさえうまければいい。仕事は見て覚えろ。そんな世界にどっぷりと浸かり、気がつけば30代後半になっていました。人望はまったくなく、職場で話しかけてくる人は誰もいません。しかし当時は「それが一流の職人の証しだ」くらいにしか思っていませんでした。
そんな様子を見かねて、「このままじゃあ、もったいないよ」と声をかけてくれる人がいました。人事関係の仕事をしていた女性の先輩です。たしかに時代も変わり、立場も変わってきている。このままの自分では、会社のお荷物になってしまうのではないか。そんな危機感を呼び覚まされました。
その人が教えてくださったのは、メンバーに「おはようございます」「お願いします」「ありがとう」「お疲れさま」という言葉をかけることでした。恥ずかしながら、私はその歳までそんな社会人として当たり前のことすら身につけていなかったのです。そして「人のよいところを見なさいよ」と言われました。初めはぎこちなく、周りの人からは奇異な目で見られましたが、2カ月ほど経った頃でしょうか。本当に周りの人との関係性が変化してきました。目を見てあいさつを返してくれる。報告・連絡・相談してくれる。私は初めて「組織を動かすとはこういうことなのか」と目を開かされました。このときの経験が、現在のイレブンカットの組織づくりの礎になっています。
美容師が幸せな人生を全うするために
美容業界には、まだまだ徒弟制的な風土が根強く残っています。見習いから始まり、就業後にカットの練習をし、空き時間にはチラシやティッシュを配ってPRする。こうした下積みの努力をしても、30~40歳で独立できなければ、苦しい立場に追い込まれます。しかも、国家試験のある職種の中では最も給料が安いと言われているのが実情です。
私は、美容師たちが夢を途中で諦めることなく、美容師人生を全うできるようにしなければならないと考えました。そのため客数に応じて報酬が変動する歩合制ではなく、社内資格や年齢、役職に応じて昇給する給与制度を整えました。担当者の指名もありません。お客様が来店したら、出勤している美容師が順次対応します。美容師同士はライバルではなく、互いに力を合わせてお客様のために仕事をする仲間なのです。
このようなスタンスは業界では珍しいこともあって、特に他店で勤務経験のある美容師の中には戸惑う人も少なくありませんでした。しかし、お客様のために技術を磨き、お客様に喜んでいただけたなら、仕事は楽しくなることを、実感してもらいたいのです。
ひと握りの成功者のためにほかの美容師が犠牲になるのではなく、美容師がみんなで幸せになるための仕組みをつくる。目先の利益、自分だけの利益を目指すのではなく、みんなで店の質を高め、みんなで喜びを分かち合う。それがイレブンカットの進む道です。それをみんなに伝えようと、「日本一のイレブンカットと言われるために」という標語をしたため、店に掲げています(下図)。
『日本一のイレブンカットと言われるために』
価格が安いから、時間が短いから、手を抜いたり雑な接客をすることは最低なことだ。
イレブンカットは過剰なサービスを省いただけ。
一人一人が技術にプライドと向上心、そしてお客様には心からの感謝の気持ちをもって丁寧な仕事をやりとげよう。
どうせ仕事をするならお客様が綺麗になるよう心を込めてお客様に喜んでもらえる仕事をしよう。
それがお客様に通じたら、仕事は楽しすぎるし幸せすぎることがわかるから。
イレブンカット代表 吉楽 裕
今、1日の来店客数の最高記録はトレッサ横浜店(横浜市港北区)の477人です。各店舗は、それぞれの規模に応じて目標を掲げ、チームとして取り組んでいます。そして、新記録を達成したときは、スタッフ全員で色紙に寄せ書きをして本社に送ってくれます。本社の一室には、そんなスタッフたちの喜びにあふれた色紙が壁一面に貼り出されています(左ページ写真)。それは働くことが喜びである証しなのです。
髪を切るのはハサミを持つ腕(技術)ですが、その腕を動かしているのは「心」です。笑顔と感謝の気持ちで毎日の仕事に向き合うこと、喜びをみんなで分かち合うこと、学びを大切につねに向上し続けること。その大切さを私は美容師たちに伝え続けていくつもりです。
[編集]株式会社ボルテックスコーポレートコミュニケーション部
[制作協力]株式会社東洋経済新報社
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