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2大危機におけるオフィス市場を展望する
~コロナ危機と世界金融危機はどう影響するのか~

目次

デルタ株が小康状態になったと思いきや、今年に入ってオミクロン株が一気に拡大してきました。収束の兆しが見えないコロナ禍の中、不動産市況に及ぼす影響はどうなっているのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏に、コロナ禍における不動産投資の状況を伺いました。

K字型の傾向が強まる国内不動産市況

2020年から直近におけるオフィスビルの市況を賃貸市況と投資市況に分けると、いわゆる「K字型」という二極化の傾向が顕著になってきました。全体では回復傾向であるものの、大きく回復しているものがある一方で、ある指標は回復が遅れています。

まず賃貸市場では空室率が上昇に転じています。コロナ前に比べて賃料が下がっており、リテナントにも苦労しているなど、調整色が強まってきました。ところが、その一方でオフィスビルへの投資意欲はかなり旺盛です。外国人投資家も積極的に参入しており、これまでどおり高値で取引されています。

このようにK字型の傾向が強まる中、調整局面にある賃貸市況と、相変わらず盛り上がりを見せている投資市況のどちらにサヤ寄せされるのかが市場参加者の関心事であり、その見方は二分しています。

どちらにサヤ寄せされるのかについては、まだ確かなことはいえません。テレワークの定着具合と、それにともなうオフィス需要への影響度合いが、現時点では明確に見えてこないからです。仮に、テレワークがある程度定着してもオフィスに対する需要が後退しないだろうという思惑が強まれば、旺盛な投資意欲に引っ張られる形で賃貸市況も堅調に転じていくでしょう。逆にオフィス需要が後退するという見通しが優位になれば、投資意欲は後退します。今年から来年にかけて、どちらにサヤ寄せされるかが徐々に明らかになっていくでしょう。

オフィスに対するニーズはなくならない

ただ、オフィス賃貸市場はたしかに調整局面にあるのですが、世界金融危機(リーマンショック)時に比べると、オフィス賃料の下落ペースは緩やかです。危機が発生してから20カ月が経過した時点で、リーマンショック時には募集賃料が20.4%下落したのに対し、コロナショックによる下落率は7.7%で止まりました(図参照)。

リーマンショックでは金融市場が機能不全に陥り、ほぼすべてのセクターに悪影響が及びました。

コロナショックにおいては、ホテルや商業施設、飲食など人流抑制によって売上が大きく落ち込んだセクターは深刻なダメージを受けました。その一方で、倉庫や物流、eコマースは堅調でしたし、製造業も海外で自動車の売上が伸びました。IT関係、コンサル関係も悪影響を受けていません。このように、悪影響を受けたセクターが限定的だったことが、リーマンショックに比べて賃料下落を小幅にとどめた原因であると見ています。

ではこの先、オフィス賃貸市場はどうなるのかということですが、これは前述したようにニューノーマルの中でリモートワークがどこまで定着するのかによります。はたしてリモートワークは私たちの働き方として定着するのでしょうか。

2020年は緊急事態宣言下においてリモートワークが普及したこともあり、一部では「オフィス不要論」が喧伝されましたが、今では一切聞かれなくなりました。
そしてリモートワーク化が進められる中で、デメリットが浮き彫りになってきたのも事実です。大きくは3つあり、第一は社員の間にコミュニケーション不足が生じていること、第二は社員教育が困難であること、第三は企業文化の醸成と浸透が困難であること、です。

テクノロジーの進化には目を見張るものがあり、テキストや音声、画像、そして映像など、記号情報を中心としたやり取りはスムーズになりました。ですが、たとえば上司や同僚との何気ないやり取りなど、同じ空間にいなければ得られない情報もたくさんあります。この記号化できない意図せざるコミュニケーションが大切であり、リモートワークの課題であることがわかってきたのです。

このようなデメリットを解決するために、メタバース※のような仮想現実空間を利用するという方法も考えられますが、これを社会実装するためには、まだかなりの時間がかかります。したがって、空間を共有するためのツールとしてのオフィスに対するニーズは、今後も決してなくなることはないでしょう。

※PC・ネットワーク中に構築された3次元の仮想空間やそのサービス

オフィスは創造的なプラットフォームへ

では、コロナが完全に終息したとき、オフィス需要はコロナ前の水準まで戻るでしょうか。

私は、リモートワークがコロナ禍を契機に起きたのではなく、第四次産業革命が進化していく過程における不可逆的な流れだと認識しています。そもそもオフィスの歴史はそれほど古いものではなく、産業革命の頃に工場の事務所として始まったといわれています。事務所は単なるコストとして捉えられ、効率性が重視されました。

しかし特に日本ではここ数年、産業構造がサービス化することによって、オフィスをクリエイティブな創造拠点とする会社が増えてきました。オフィスは投資的な意味合いを持つようになり、いかにアウトプットを伸ばしていくかが重視されるようになってきたのです。

一方、情報革命の進化によって仕事をオフィスの外にも持ち出せるようになり、その結果、働き方の多様化が実現しました。これまでの均一な労働環境ではなく、各人にとって最も働きやすい場所で仕事ができるようになったのです。リモートワークは大きな歴史の流れの中で生まれてきた必然なので、仮にコロナが完全終息したとしても、多くの企業において確実に残ります。

2023年以降、かなりの量のオフィスが新たに供給されます。その影響でオフィスの需給は若干緩むでしょう。繰り返しになりますが、マーケット全体が総悲観状態になるかどうかは、リモートワークの定着状況によります。ただ、不確実性があるからオフィスに投資しないほうがよいなどというつもりはありません。ダメな物件もあれば、よい物件もあるからです。大事なことは、エリアや建物の規模、どういうテナントが入り、どこがオペレーションをするのかを峻別していくことです。

たとえば“区”別で比較した場合、コロナ禍では大企業の多い千代田区は空室率の上昇は小幅にとどまりますし、渋谷区はIT系のベンチャー企業が多いため、空室率が先行して上昇したものの、オフィス不要論が陰りを見せると、いち早く回復に向かっています。

また先ほどもお伝えしたように、オフィスを単なる箱ではなく、社員が集まってクリエイティブなものを生み出す場として捉え、そのために必要なソフトを取り揃えてオフィスの価値を向上できるオペレーターがいるかどうかも、重要な条件になってくるでしょう。

これからは、人と人、会社と人を結びつけてイノベーションを起こすような「プラットフォーム型オフィス」が増えてくる。その中で、より人が集まりやすいような都市部が注目されていくのでは、と思っています。

※こちらの記事は『V-Value3月号』からの転載になります。

V-Valueのバックナンバーはこちら

>【オフィスは「借りる」より「買う」時代へ】自社のオフィス/事務所・店舗、自社ビルを購入する

監修者

佐久間 誠 氏さくま まこと

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

2006年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。2013年国際石油開発帝石を経て、2015年ニッセイ基礎研究所入所。不動産市場や金利・為替市場、商品市場など幅広い分野について、調査・研究を行っている。定量分析はもちろんのこと、数字だけでは捉えきれない要素を読み解く定性分析の双方をバランスよく用いることで、市場分析におけるストーリーを紡ぎだし、わかりやすく有益な情報発信を行い、好評を得ている。

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