日本企業・外資系企業問わず「行きたくなるオフィス」が人気

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東京オフィス賃貸市場の賃料水準が上昇しています。2020年からのコロナ禍を受けて、一時はオフィス不要論まで飛び出したものの、国土交通省が実施している「テレワーク人口実態調査」を見ても、雇用型就業者のテレワーク実施率は低下傾向にあることがわかります。オフィス回帰はなぜ進んでいるのか、オフィス出社のメリットとは何かについて、東京のオフィス賃貸市場を調査してきた、ジョーンズ ラング ラサール株式会社(JLL)のヨリス・ベルクハウト氏にお話を伺いました。
外資系企業も改めて見直す日本のオフィス環境
私の仕事は外資系企業をメインのお客様とし、オフィスビルへのテナント誘致をお手伝いすることですが、やはりこの2年、コロナ禍が一段落して以降は、東京におけるオフィス回帰の動きが加速していることを実感しています。
かつては東京から国外へオフィスを移転させる動きが、外資系企業を中心に広まった時期もありましたが、昨今は日本企業のオフィス回帰が進んでいるのと同時に、外資系企業の間では改めて日本を見直す動きが広がっています。
要因はさまざまだと思います。例えば、日本は長年にわたり欧米・アジアの先進国や中東、グローバルサウスの国々とも外交や経済の面において友好的な関係を築いており、信頼できるビジネスパートナーとみなされ、市場も安定しています。また、アジアには金融センターとして繁栄している都市がいくつかありますが、その中でも東京はいくつかの点で優れている要素があります。
一例を挙げると、日本は人件費や家賃が徐々に上昇しているとはいえ、他の先進国に比べればリーズナブルですし、約1億2,000万人という大きな人口を抱えています。
それに加えて、日本の安全性に対する評価が高まっています。海外企業が他国のマーケットに進出する場合、事前にどのようなリスクが想定されるのかを洗い出すのですが、日本は他のアジア地域に比べて、「見えないリスク」が相対的に少ない傾向があります。
「見えないリスク」とは、例えばクーデターが起こる、いきなり財産を没収される、スパイ容疑で逮捕されるなど、政治的、経済的に想定のしようがないリスクを指します。これが日本の場合、他のアジア地域に比べて少ないというメリットがあります。確かに地震のリスクは常に取りざたされますが、これは対策の取りようがありますので、見えるリスクといってもよいでしょう。
また、昨今のビジネスの最前線においては、膨大なデータのやりとりが行われるため、円滑なビジネスを行ううえでデータのプロテクションがとても重要です。この点でも、日本はしっかりしているため、安心できます。
現在、グローバルに展開している外資系企業はたくさんありますが、国別に見て、東京におけるビジネスの拡張・移転のニーズが高いのは、米国企業です。セクター別で見ると、先端のIT企業に加え、アセット・マネジメント会社が東京に拠点を構え、投資先となる日本企業のリサーチを行っています。2024年2月に日経インデックス株価指数が最高値を更新し、以降も堅調に推移していることから、世界的にも日本が有望な投資先として見られています。
一方で今、日本企業は大企業、中小企業ともビジネスの効率化やコーポレートガバナンスの強化のために、海外企業とのM&Aが活発化しており、企業の合併・買収のコンサルティングを行うM&A会社の進出も増えています。エネルギー関連でも、再生可能エネルギーの会社が日本に進出するという動きもあり、日本のオフィスはまだまだビジネスの機会がたくさんあると見ています。
優秀な人材の獲得には魅力あるオフィスが求められる
このように近年のオフィス回帰の傾向が強まるにつれ、あの「オフィス不要論」とはいったい何だったのか、と思うことがあります。コロナ禍でテレワークが普及したとき、テレワークでもほぼ支障なく仕事ができると思った人は、少なくなかったでしょう。
でも、やはりオフィスは必要です。サテライトオフィスがあれば十分という声も上がりましたが、結局のところ大勢の社員が、同じ場所に定期的に集まらないと、仕事の効率が下がることを、実感したのではないでしょうか。
もちろんテレワークで済むような仕事もありますが、大勢の人が同じ場所に集まり、お互いに触発し合うことによってクリエイティビティが高まることもありますし、企業のカルチャーも、やはり人が集まることによって醸成されるという側面があります。米国のIT企業も、最近は会社に出社することを、社員に要請するようになりました。
オフィスに人が集まることは、企業が成長していくうえで重要な要素の1つです。だからこそ、大勢の人が出社したくなるようなオフィスを造る必要があります。
加えて、企業が先を見据えて出社したくなるオフィスを造らなければならない理由が、もう1つあります。それは人の採用です。これからの日本は間違いなく、人手不足がより進みます。少子化・超高齢化が進む中、生産年齢人口は今後、ますます減少していきます。そうなれば当然、採用自体が非常に難しくなっていくでしょう。
すでに建設現場や運送、外食の分野では深刻な人手不足になっていますが、同じことはオフィスワーカーにも当てはまります。一例を挙げると、ITスキルを持ち、かつ英語が堪能という人材を採用しようと思ったら、そういう人たちが来たくなるようなオフィスを造る必要があります。
立地やしつらえに加えて空間を生かすコンテンツの充実を
では、どのような環境ならオフィスワーカーは集まってくれるのでしょうか。
立地は駅からアクセスしやすいかどうかが重視されます。東京における注目エリアとしては、最もホットなのが渋谷です。オフィスビル自体はそれほどないのですが、ニーズが非常に高いため、空室があればすぐに埋まってしまいます。
あとは東京駅近辺です。ここはオフィスビルの供給は非常に多いのですが、現在、1フロアでも空いているビルを探すのが困難なほど、根強いニーズがあるエリアです。また港区や品川区も供給が多く、現時点では空室もありますが、ニーズは強いエリアです。湾岸エリアについても、最近は勝どきエリアや有明エリアあたりは、徐々に成約率が上がってきています。
立地以外の要素としては、周辺エリアやビル内のアメニティがどうなっているのか、という点を重視する傾向が見られます。安くておいしいランチを提供してくれるお店が多いことや、オフィスの中に、社員同士のコミュニケーションを促進するためのラウンジがあること、居心地のよい会議室が備わっていること、エントランスがしゃれたしつらえになっていること、といった条件が満たされているオフィスは、大規模に限らず、中小規模でも”刺さる”社員が多いようです。
それと同時に、オフィスをどう運営していくか、つまりソフトウェアを充実させることも、ポイントの1つになります。例えば、2年前に新しくした私たちのオフィスでは、会議室やコミュニケーションスペースを生かして各種セミナーや、ハッピーランチ、ハッピーアワーといった社員向けのイベントも随時開催しています。
オフィスという箱も大事ですが、同時にその空間を生かしたコンテンツも充実させることが、社員が来たくなるオフィスづくりには欠かせませんし、社員のエンゲージメント向上にもつながると思います。
[編集]株式会社ボルテックス コーポレートコミュニケーション部
[制作協力]株式会社東洋経済新報社

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