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2023年 都心オフィスの価値は上がったか
パンデミックから3年、“東京一極集中”と“オフィス不要論”の行方

目次

コロナ禍の初期には、東京を離れる人が増え「東京離れ」が進んだといわれました。加えて在宅勤務の普及でオフィスの在り方も問われるようになりました。コロナ禍の始まりから3年余り経った今、東京の不動産の価値やオフィスのトレンドはどう変化したでしょうか。都市政策の専門家であり、日本テレワーク学会の会長でもある市川宏雄氏に解説いただきました。

お話を聞いた方

市川 宏雄氏いちかわ ひろお

都市政策専門家 日本テレワーク学会 会長

1947年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程(都市計画)を経て、ウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了。1997年、明治大学政治経済学部教授に就任。専門は都市政策やテレワークなど。「世界の都市総合力ランキング(GPCI、森記念財団)」主査。日本テレワーク学会会長のほか、大都市政策研究機構理事長、日本危機管理防災学会会長も務める。『2030年「東京」未来予想図』(共著、クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

コロナ禍で“東京一極集中”は終焉したのか

コロナ禍に見舞われていた2021年、東京都で26年ぶりに人口減少が起きました。これを受けて、「これからは地方の時代だ」「東京一極集中は終わった」という論調が目立ち始めました。

東京圏(埼玉・千葉・神奈川を含む1都3県)ではコロナ以前から、他県からの転入者数から転出者数を差し引いた「転入超過数」が増加傾向にありました。2015年頃からは、ちょうど安倍政権の地方創生政策が推進されていた時期にもかかわらず、転入超過数はさらに増え、2019年には東京都の推計人口が初めて1,400万人を超えるまでになりました。それが2021年には、一時1,400万人を切ったのです。

ただし人口減少の内訳は、地方流出というより、外国人が母国に帰国したことや出生数が減ったことが中心でした。2022年後半からは、東京の人口は再び増加し始めました。オイルショック、バブル崩壊、リーマンショックでも、東京では一時的に人口が減少したものの、時期を過ぎれば再び回復してきました。

こうした現象は、東京という都市の価値・魅力によるところが大きく、一極集中はもはや避けられません。これは東京に限った話ではありません。ロンドンやパリもまた同様で、各国第一の都市に人が集まることは中央集権型国家の宿命であり、その背後に第3次産業の飛躍的な発展があることも、共通の現象といえます。

地価にもその流れは見て取れます。東京23区公示地価の前年変動率は、2020年には住宅地で4.6%、商業地では8.5%のプラスでしたが、2021年にはいずれもマイナスに転じています。しかし2022年には早くもプラスに回復し、2023年には住宅地で3.4%、商業地で3.6%まで上昇しています(図)。

オフィス回帰が進み床面積も拡大傾向

東京の不動産市場の安定を支えているのは、いうまでもなく海外からの投資であり、コロナ禍の中でも、東京は世界から大きく注目されていました。しかしながら東京では現在、建築単価の上昇や建築資材の不足などが原因で不動産の供給が減っており、この状況が2026年頃までは続くといわれています。そのため、不動産都市別投資額ランキングで2020年にはパリ・ロンドンに次いで第3位だったのが、2022年上半期に25位までランクを落としています。とはいえ、投資額でいえば前年までと同水準を維持しています。

もっとも、この供給不足も一時的な問題です。東京都心部では、特区を活用した大規模プロジェクトが11カ所で進んでいます。ほかにも都心の6キロ圏内ではつねにどこかで開発が行われている状況で、これだけ全域にわたって新たなオフィスの供給が進められている都市は、世界でも例がありません。

このように東京都心のオフィスを取り巻く状況は刻々と変化しており、その動向には次のような特徴があるといえます。

都心部のオフィス人気は根強くその価値は健在

①働き方の変化・多様化から、新規賃借・賃借面積拡大の意向が高まっている

コロナ禍の影響が最も深刻だった2020年、企業では在宅勤務の導入が一気に進みました。サテライトオフィスやコワーキングスペースなど、新たなワークプレースの台頭もあって、「オフィス不要論」が飛び出す事態にもなりました。

しかし現在、「コロナ収束後も在宅で働きたい」と考える人が少なくない一方で、企業側では、オフィス回帰を推進する動きが強まっています。サテライトオフィスなどの利用は知られるようになったとはいえ、導入している企業は1割程度にとどまっています。

興味深いのは、オフィスに求められる条件が以前とは変わりつつあることです。「優秀な人材の確保」「企業ステータスの向上」「環境配慮」など、対外的な信頼度や好感度を得る手段としてオフィスの存在を捉える傾向が目立ちます。

加えて、オフィスに期待する効果として「社内コミュニケーションの強化」や「オープンイノベーション」、「新たな顧客接点の創出」などをあげる企業が多いのも特徴です。そのため床面積を増やす動きが顕著で、オフィスを交流の場として機能させることが新たな潮流となっていることがわかります。

②当面はオフィスビルの「大規模化」が進む

23区内においては、築20年未満では延床面積5,000坪以上の大規模オフィスが圧倒的に多いという特徴があります。この傾向は今後も変わらず、特に向こう5年間のオフィスビル供給に関しては、事務所延床面積10万㎡(約3万坪)以上の物件が高い割合を占めていることがわかっています。

③主要ビジネスエリアやハイグレード物件の空室率は、下がる兆し

都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)のオフィス空室率は、5~6%ほどです。コロナ前には2%程度でしたが、むしろこの頃が特別だったのであって、現在の空室率はごく正常な範囲内です。

また空室は、築年数が長く小規模なオフィスに集中しているという実態があります。人気エリアの物件やハイグレード物件に限れば、相変わらずニーズは高く、今後空室率は下がっていくと予想されます。

④地域住民や来訪者に好まれる工夫がオフィスに求められ始めている

オフィスビルの1階を地域住民に開放するなど、地域との共生が一つのトレンドになっています。また、オフィスの中に育児ルームや仮眠ルーム、リフレッシュスペースを設ける事例も増えています。オーナーにとっては、今まで以上にテナント企業のニーズに応えたオフィス環境の整備が要求されます。


以上のような局面は、2027年頃までの見通しです。それ以降の情勢については、今後およそ5年の間にオフィス事情がどう変化するかによって変わってきますが、2028年以降にリニア中央新幹線の開業が予定されているほか、2030年以降にはJR羽田空港アクセス線の開通や「第2六本木ヒルズ」の竣工、日比谷や品川の大規模再開発の竣工などが控えています。東京一極集中の終焉もオフィス不要論も杞憂であるどころか、東京が世界のビジネスセンターとしてさらに発展するのは確実といえそうです。

[編集]株式会社ボルテックス ブランドマネジメント課
[制作協力]株式会社東洋経済新報社

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