リニア開通を控え交通の要衝として価値が高まる田町・三田エリア
「東京三田再開発プロジェクト」の大規模オフィスタワーが竣工
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2000年代以降、東京都心全域で大規模な都市再開発が続いています。なかでも東京湾岸一帯の新陳代謝はめざましく、そこからほど近い品川駅・田町駅周辺地域にも注目が集まります。2023年2月竣工の大規模オフィスタワー棟をはじめ、再開発の進む田町・三田エリアはどのように変化し、グローバル都市東京の魅力向上にどう貢献するのか、都市計画・交通計画がご専門の森本章倫氏にお聞きしました。
品川に隣接する拠点として極めてポテンシャルの高い田町・三田エリア
再開発ラッシュの東京で、2030年頃までにさらに大きな変貌を遂げるとして注目されているのが、東京サウスゲートと呼ばれる品川駅・田町駅周辺地域です。高輪ゲートウェイ駅の開業、空の玄関口である羽田空港へのアクセス向上に続き、リニア中央新幹線の開通が2027年に予定され、交通の要衝としての重要度がいっそう高まるとともに、周辺一帯の価値向上が期待されています。
その一角をなす田町・三田エリアのうち港区三田三・四丁目地区は、港区内でも老朽化した建物や低未利用地がやや残る場所でしたが、札の辻交差点に面した約4haに及ぶ区域が国家戦略特別区域に指定され、2017年より大規模開発「東京三田再開発プロジェクト」が行われてきました。4棟からなる複合市街地としてオフィス・住宅・商業施設・教育施設を擁する計画で、その中核かつ新ランドマークとなる超高層オフィスタワー棟が2023年2月に竣工の運びとなり、周辺の景色や人の流れを大きく変え始めています。
良質なオフィスと快適な住環境、傾斜地を生かした景観設計と緑地スペースの確保。これだけの複合的・一体的な街づくりが実現したのは、田町駅・三田駅の両駅から至近距離、かつ幹線道路が交わる結節点に面する恵まれたロケーションに広大な敷地という好条件と関係しています。
街づくりの最新トレンドが取り入れられた「東京三田再開発プロジェクト」構想
「東京三田再開発プロジェクト」の特筆すべき点として、オフィス棟と住宅棟が共存する複合型コンセプトがあります。実は「職住近接型都市」は、都市計画における近年のトレンドの一つです。ビジネス拠点と生活拠点が同居するのは都市の本来の姿であり、正常な状態といえます。ニューヨークにも、パリやロンドンにも、世界の大都市には必ずビジネス街とともに居住区域があります。東京でも、郊外に住んで都心に通勤するという旧来のライフスタイルが見直され、職住近接型都市へと次第に変わっていくと考えられます。
また日本では、将来にわたり人口減少が続くことを踏まえたコンパクトな街づくりが大きな潮流となっています。世界的に見てもコロナ禍を契機に、生活圏を単位とする「15分都市(15-minute city)」構想の導入が進んでいます。感染症拡大防止策のロックダウンを経験したことで、生活圏の環境整備が再認識されました。「モビリティ」重視の考え方から、遠くまで足を延ばさなくても住む・働く・買い物する・医療やケアを受ける・学ぶ・楽しむといった都市機能への「アクセス」を優先する考え方へとパラダイムシフトが起こっているのです。同時に、身近な緑地の充実や、道路空間の再配分も改めて検討されるようになりました。デジタル基盤の進化もこの潮流を下支えしています。「東京三田再開発プロジェクト」は、こうした未来の街のあり方を先取りし、体現した形といえそうです。
一方で交通政策も、100年に1度といわれる大変革期に突入しつつあります。車の自動運転の社会実装に向けた取り組みと並行して、あらゆる移動手段を自由に組み合わせて利用できる仕組み「MaaS(Mobility as a Service)」の導入がヨーロッパなどで始まっており、「日本版MaaS」も検討や実証実験が進められています。実装までにはまだ課題もありますが、新しい交通の概念としていずれスタンダードになっていき、マイカーを所有する選択は一般的ではなくなっていくでしょう。
この点でも三田三・四丁目という立地は、極めて有利といえます。港区内には、道路ネットワークはもちろん、広域・高速の新幹線などから地域内・低速のコミュニティバスまでの多様な公共交通ネットワークや自転車シェアリングなどが整備されているからです。移動手段の豊かさという点で、東京都心部の中でも突出した良好な環境であるといえます。
リニアの開通で交通アクセスのよさは東京随一に
都市計画においては「ウォーカブル・シティ」、すなわち「歩いて楽しい街」づくりも、一つのキーワードとして重視されています。快適な歩行空間を捻出するために、海外では車道をスリム化して空いた空間を歩行者専用に切り替える方法を取ることが少なくありませんが、東京でこのようなコンセプトを採用することは簡単ではありません。しかし例えば、東京都都市整備局の「自動運転社会を見据えた都市づくりのあり方検討会」では、都心部におけるウォーカブルな空間の創出に向け、2040年代を想定した大胆な変革案が検討されています。従来の多車線運用の道路を、自動運転レーンと一般車レーンの2つに分離しつつ、歩行者、さらには自転車・電動キックボードなどのための安全かつ快適な道路空間を創出する案が示されています。
ただし、道路空間の開発には自治体や周辺関係者の協力が必要なため、どうしても長い時間を要します。「東京三田再開発プロジェクト」も例外ではありません。開発区域は田町・三田両駅からわずか300mほどの距離であるものの、幅30m超の第一京浜に隔てられており、そのままでは駅から至近距離の強みを引き出しきれません。まずは、駅からの歩いて楽しい空間を創出することが、当該エリアの魅力を高めるために不可欠です。このような問題を解決するため、第一京浜を横断する歩行者デッキの新設など、歩行動線の整備が進行中です。国土交通省は、駅を中心とする周辺地域を「駅まち空間」と名付けて一体的な開発を提唱していますが、その趣旨にも合った交通まちづくりが求められているといえるでしょう。
職住近接型都市が現実のものになったとき、現在のように都心3区に昼間人口が過度に集中することはなくなるかもしれません。その代わり都心部のオフィスには、郊外では実現できない「リアルな交流の場」としての重要性が生まれます。テレワークやAIで済む仕事が増えた分、フェイス・トゥー・フェイスの交流はより貴重な機会となるため、交流の場としてのビジネスセンターが交通アクセスがよく人が集まりやすい立地にあることは、今以上に重要な条件となるはずです。
今後の東京都心部で、この条件を最も満たす地域の一つとして、東京サウスゲートエリアがあげられます。リニア中央新幹線で西日本から、あるいは羽田空港経由で全国および海外からも行き来しやすい、抜群のアクセス性を有しています。こうした点からも、大規模オフィスタワーを含むこの区域の再開発が東京の活力をさらに向上させ、これからの都心部の街づくりの一つのモデルとして展開することを期待しています。
お話しいただいた方
森本章倫 様
もりもと・あきのり
PROFILE
1964年生まれ。早稲田大学大学院修了後、早稲田大学助手、マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員、宇都宮大学助手、助教授、教授などを経て、現在は早稲田大学理工学術院教授。日本都市計画学会会長、日本交通政策研究会常務理事など、都市計画の専門家として多数の要職を務める。