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街並みのデジタル情報を生かして東京を再発掘

目次

2020年、国土交通省は3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化のリーディングプロジェクト、PLATEAU(プラトー)を発足させました。その推進イベントの一つとして、開発コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」が開催されます。2023年2月の最終審査に向け、国内外のエンジニアやクリエイターが、各分野の技術を駆使して、新たな3D都市モデルの開発に挑戦します。AWARDの審査委員の1人が、日本のAR/拡張現実の開発をリードしてきた川田十夢氏。コンテストの意義と、都市の未来への期待を語っていただきました。

日本ならではの想像力で3D開発の世界を牽引できる

 国土交通省はProject PLATEAU(プラトー)を基点として、日本の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に本格的に取り組んでいます。都市開発や災害対策、治安保持を進めていくうえで、デジタル上の3D都市モデルの構築は欠かせません。政府が先導して、土地の3Dデータをしっかり整備しておこうとしているのは、かなりよいことだと思います。

 地図情報の3D化は現在、アップルやグーグルをはじめとするアメリカのIT大手が、LiDAR(ライダー)などの技術を使って大々的に仕掛けています。アメリカが主要なOSを独占している中で、無償で一般提供される3Dデータにおいては後れを取らないよう、日本は努力が必要だと考えられます。

 データの持ち方というか、データそのものを利用するアイデアは国によって違います。日本の場合、デジタル上のメタ情報から生まれる想像力の部分で、アメリカの独占状態を、いつかは逆転できる可能性があります。たとえば「ポケモン」(「ポケットモンスター」)のモンスターは、それぞれ雷や水、土など、自然と関連する属性を持っていますよね。大地と生命を掛け合わせた概念を持つキャラクターは、八百万の神を信仰する神道の国らしい発想なのかもしれません。

 『ドラえもん』のようなSF作品に表れていますが、日本人はまったく違うものを掛け合わせて、新しい何かを生み出す才能に長けています。日本独自の感性でPLATEAUのデータを活用してもらえたら、欧米の開発者や企業が思いもつかない3Dデータの利用法が生み出されるかもしれません。日本発信のイノベーションが、「 PLATEAU AWARD」の応募作の中から出てくるといいと思っています。

現実社会にメタ視点を組み込んだ作品を評価したい

 「PLATEAU AWARD」は、現代の都市データの在り方や、3D都市モデルの国際標準規格であるCityGMLの基本的な考え方が、広く理解される機会になります。3D都市モデルに限った話ではないのですが、専門知識を一方的に勉強しても、作品や事業にはなりません。さまざまな領域のエンジニアやクリエイター、プランナーが提供されている都市データに触れてみて、何がつくれるか、どんな提案ができるかをそれぞれのバックグラウンドから考える。そうしてつくり出された作品が、新たな社会の価値を創出するきっかけになるだろうと期待しています。

 応募作を評価するポイントはいくつかありますが、メタ的な視点の組み込まれた作品や、現実的に難しかった課題を拡張現実的に解決しているような作品を推したいです。私自身の感覚でいうと、思考上の単純な足し算よりは掛け算、あるいは引き算、割り算のできているものがいい。たとえば、昨年の「PLATEAU Hack Challenge 2021」のグランプリ作品「わりと本気でゴジラ対策してみる」。映画『シン・ゴジラ』からチーム名をとった「巨災対」による、ゴジラの侵入経路と、その被害額を算出したシミュレーション作品です。あれは秀逸でしたね。

 ゴジラというのは、単なる巨大怪獣ではなく、天災のメタファーとされています。ゴジラが口から吐く熱線によって生じる東京の被害は、巨大台風や直下型地震、他国からのミサイルなど、起こりえる脅威と重なっています。その脅威をPLATEAUが提供するデータとCityGMLをフルに使い、可視化してみせました。

 天災の脅威と、ゴジラという有名なキャラクタターを掛け合わせることで、娯楽性のある防災シミュレーションが完成しました。先に述べた、日本人らしい掛け合わせの効いたアイデアでしょうね。

 小松左京の『日本沈没』で提示された、SF的なアプローチにも近い。こういった思考実験を促す作品であれば、一般の人にも伝わりやすく、災害を自分ごとに捉え、日常生活に生かせます。

 「わりと本気でゴジラ対策してみる」が成功させたような、科学的根拠が整ったうえで、知的好奇心を刺激してくれる作品を待っています。

見えないものと立体的なイメージとを掛け合わせる発想

 PLATEAUはいろんな分野で応用してもらいたいです。不動産業界でも、幅広く活用できるでしょう。都市部のオフィス物件、あるいはボルテックスの物件だけを可視化したマッピングモデルだったり、街の人流シミュレーションで効果的な広告配置をデータ化したり、幅広い使い方が考えられます。

 将来の土地価格の予測や、ビル風を極力受けない住宅密集地でのドローン配送ルートの計算などでも、3D都市モデルのツールは役立ちます。実は不動産ビジネスでこそ、PLATEAUから得られるデータが不可欠になっていくのではないでしょうか。

 私個人は、東京のポテンシャルを再発掘するのに、PLATEAUの技術を生かしてもらいたいと思っています。今の東京は、グローバルの視点で見たとき、多くの人々を惹きつける魅力が不足しています。ひと昔前の輝きで、何とか保っている状態だと思っています。

 今のところ人々の年齢や出身地、趣味、財布の中身に応じて、楽しくダイブできる東京の多様なメタ情報は、十分に供給されていません。たとえば経済的に豊かなラグジュアリー層には100万円で1日遊べる東京を、札束のナイフでスッパリ切り、断面図として可視化したARモデルがあると面白い。よくグルメバラエティ番組で紹介される、デカ盛りハンバーガーやスイーツの断面ショットの立体版みたいな感じですね。逆にあまりお金のない若者層向けに、1000円で遊べるリーズナブル版の断面図もあるといい。PLATEAUの技術で街を立体的に測定できるのですから、不可能ではありません。

 '90年代、渋谷系と呼ばれる音楽が流行しました。音楽という目に見えないジャンルに高低差を与えたというか、街を形成する立体的なイメージを音楽にさしこんだ、革新的なムーブメントでした。ああいった掛け合わせの効いた情報が、メタ空間としての東京には、もっと必要ですね。メタバースといわれているものの可能性も、まだ出尽くしていません。

 通りすがりに見かける風景レベルで、誰もが思わず二度見三度見してしまうような、魅力ある拡張アイデアの社会実装が求められます。私も多くのプロジェクトで、アイデアの実現に努めているところです。

 コロナ禍が過ぎ、人流は以前に戻ってきます。海外からの観光客も円安を受けてより増加するでしょう。「街に出て行こう!」という多くの人たちの需要に応じた情報を、3D都市モデルで整備できれば、東京はそのポテンシャルを再び世界的に発揮できると思います。

お話しいただいた方

川田十夢 様
かわだ・とむ
開発者

PROFILE
1976年熊本県生まれ。中央大学商学部卒業。メーカー勤務で特許開発に従事した後、やまだかつてない開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動。劇場からプラネタリウム、百貨店から芸能と、多岐にわたり拡張現実の企画・開発を手がける。メディア出演に『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』ほか。著書に『AR三兄弟の企画書』(日経BP)、『拡張現実的』(東京ニュース通信社)ほか。季刊WIREDで巻末連載、毎週金曜日 J-WAVE 『INNOVATION WORLD』でMCと構成を務める。

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