中小企業のリーダー育成に必要な人事評価制度とは【日本人事経営研究室株式会社 代表取締役 山元 浩二 氏】
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昨今、中小企業は「人材・リーダー不足」や「生産性の低さ」など数々の大きな課題を抱えている。賃金と生産性の好循環を生み出す仕組みが求められる中、どこから手をつけたらよいかわからないという経営者も多い。中小企業の課題解決のために、「ビジョン実現型人事評価制度®」の運用・導入を支援する山元氏に、社員をどうモチベートし、リーダー人材を育成するかを聞いた。
中小企業が成長するには、全社員が会社の方向性や目標を理解するための「経営計画」が欠かせません。会社の未来が見えるかどうかは社員のやりがいに直接つながる大きな要素です。社員のベクトルがバラバラだと目的・目標への推進力が弱くなります。経営計画を全社員に広めベクトルを1つにすることがすべてのスタートになります。
その経営計画を現場の行動に落とし込むために効果を発揮するのが人事評価制度です。人事評価制度こそが、社員一人ひとりの役割を明確にし、成果につなげるカギになると言っても過言ではありません。
ところが、当社の調査によると、中小企業では人事評価制度を導入していない企業が6割を超えています。人事評価制度の導入が進まない要因の1つは、直近の業績には影響しないからです。今すぐ取り組まなくても、売り上げが来月に下がるわけではないため、結果として後回しにされてしまうのです。
多くの人は、人事評価制度は評価結果を賃金や昇格に反映させるためのものと勘違いしがちです。しかし、人事評価制度の本来の役割は、会社が望む方向に社員を成長させ、強い組織づくりを実現することにあります。
そのためには、経営計画と人事評価制度を連動させなければなりません。連動させることによって、社員全員が同じ目標に向かって取り組めるようになり、生産性や組織全体のパフォーマンスが向上するのです。人事評価制度は、経営計画を達成するため、また人材を育成するための仕組みと考えることが必要です。

経営計画達成と人材育成を実現する「ビジョン実現型人事評価制度®」
我々は、長年のコンサル経験をもとに「ビジョン実現型人事評価制度Ⓡ」を構築し、その導入支援を行ってきました。これは経営計画の達成と人材育成を3つのステップで実現する仕組みです。賃金制度から入っていく一般的な人事制度とは設計や考え方、手法が異なります。
最初のステップは、経営計画となる「ビジョン実現シートⓇ」の作成です。経営計画がなければ人事評価制度を作っても意味がないため、サポートする企業には必ず、自社の存在意義や、どう成長していくのか、どんな事業や戦略を行うのかを問い直します。「ビジョン実現シートⓇ」には経営理念やビジョン、戦略、10カ年事業計画、10年後の社員人材像など10の要素を盛り込み、幹部社員と共に数カ月間かけてシートを作成します。
2番目のステップは、「評価制度の作成」です。経営計画と人事評価制度を連携させるためのポイントは、経営計画を社員の行動にどう落とし込むかです。そのツールとなるのが評価制度です。ビジョン実現型人事評価制度Ⓡにおける評価項目(行動基準)には、経営計画に基づき、従業員個々の役割や目標、将来像などが明確に定められており、リーダーはそこに向けて部下の育成指導を行います。
当然、評価項目や評価基準は企業ごとに違います。評価者の恣意的な評価を防ぐために誰が見てもわかるような客観的かつ具体的な評価項目と内容を作って全社員に公開します。評価項目には「積極性」や「チームワーク」などのほか「経営理念の理解と実践」「目標に対する取り組み」などの独自の項目を設け、グレード(職階)によって評価基準を定めます。中小企業のリーダーは評価経験を持たない人が多く、最初は正しい評価がなかなかできないため、十分な訓練期間を設定しています。
3番目のステップが「制度の運用」です。目標設定や面談など5つの運用プロセスで人材育成を図るとともに、戦略を計画的に遂行し目標達成を目指します。
このようにビジョン実現型人事評価制度Ⓡの中に、経営計画や事業戦略を理解させ実行させるための手順とツールを組み込んでありますから、その仕組みに沿って評価と戦略の推進の両輪で取り組むことでリーダーのマネジメント力向上を促す仕組みです。経営計画と行動基準を一致させることによって、社員が全員、経営計画に沿って組織を成長させる仕事に100%取り組む状態がつくれるのです。そのため、その企業の現場に入り、実践的かつ実態に合わせて直接指導しながらリーダーや社員を育てていくやり方を取っています。
ただし、いくら人材の成長につながる人事評価制度ができたとしても、社員の納得度が低ければ、組織のベクトルを揃えることはできません。そのため評価の後、評価結果に納得できたか、できなかった場合はなぜ納得できないのかというアンケートを必ず取ります。納得できない理由を洗い出して対策を打ち続ければ、不満を持つ人の比率は下がり、納得度は高まっていくでしょう。
マネジメント力不足が「静かな退職」を生んでいる
一般に、マネジメントとは人や組織を管理する力と思われています。もちろんそれもマネジメントの一部ですが、ドラッカー*が言うように、マネジメントのゴールは目標達成にあります。
*「マネジメントの父」と呼ばれる経営学者。著作『マネジメント』は世界的なベストセラー。
残念ながら中小企業には、そもそも部門の目標を設定していないケースが見られがちです。たとえ総務などの間接部門であっても、組織が達成すべき目標は明確に定めるべきです。目標達成のために何をなすべきかという戦略を立案し、部下を育成し目標達成に導く力こそがリーダーに求められるのです。ところが、中小企業の課長などのリーダーの中にはマネジメント力に欠けている人が見受けられます。
そうしたリーダーのマネジメント力不足が、昨今、問題となっている「静かな退職」を生む一因になっています。「静かな退職」とは、退職はしないものの仕事に対する熱意を失い、与えられたこと以外はやろうとしない社員のことです。その原因は人事評価制度が機能しておらず、「努力しても評価や報酬に反映されないと感じる」人が多いことにあります。一生懸命にやればやるほど給料や職位が上がり、顧客との関係性や会社の中での影響力を高められることが具体的にわかる人事評価制度を持つと同時に、マネジメント力を持ったリーダーがそのことをしっかり伝える必要があります。経営計画から落とし込まれた役割や自分自身が成長する方向性、部門の目標達成のために何が必要かなど、経営計画にベクトルを合わせるためのコミュニケーションが欠かせません。
人事評価制度を活用してリーダーが成長支援を続けた結果、「静かな退職」状態にあった社員がやる気を持ってチャレンジするようになるケースは実に多いのです。人事評価制度を活用しマネジメント力を持ったリーダーを育てていくことが、中小企業に強く求められます。
[編集]株式会社ボルテックス コーポレートコミュニケーション部
[制作協力]株式会社東洋経済新報社
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