笑顔とおもてなし精神で地域を豊かにする【株式会社モリヤマ 代表取締役会長 森山 元明氏】

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横浜市で「天然温泉 満天の湯」を営む株式会社モリヤマ。接客や清掃などソフト面の充実度で温浴事業者の日本一を決める「おふろ甲子園」で3回連続準優勝に選ばれるなど、その経営が高く評価されています。「地域とともに成長する企業でありたい」という森山元明会長に事業への思いを伺いました。
捺染(なっせん)から温浴へ──地域資源を生かした業態転換
当社が、神奈川県の相鉄線上星川駅前(横浜市保土ヶ谷区)に「天然温泉 満天の湯」を開業したのは、2005年のことです。世の中が「スーパー銭湯ブーム」に沸いていた頃でした。それまでの当社は、温浴事業とはまったく無縁でした。なぜ異業種に参入することになったのかというと、祖業である捺染業が完全に行き詰まり、何か新しい事業で生き残りを図る必要に迫られていたからです。
捺染とは染色の技法の一つです。横浜は開港を機に、外貨を稼ぐ手段として、絹を仕入れ反物にして色を付けて売ることを始めました。「横浜スカーフ」はその代表的な商品です。捺染をはじめとした繊維業は、この地域の一大地場産業になりました。
ところが、1980年ごろからモノトーンが流行し、有彩色の生地の市場が縮小します。さらに、ファストファッションが隆盛し、シルクのような高級服地は売れなくなりました。ここ上星川にはかつて繊維関連の工場が軒を連ねていましたが、一軒また一軒と閉鎖され、私たちもまた新しいビジネスへの転換を余儀なくされたのです。
ここでできる事業は何か──幾通りもの可能性を探りながら、この地で生きてゆく道を模索しました。目をつけたのが「温泉水」と「自然水」でした。
実は当社は、捺染に不可欠な大量の水を得るために井戸を掘ったり、鉄道を通すために山を掘った際にあふれ出た伏流水の水利権を取得したりしていたのです。井戸のほうは茶色の水で染め物の水洗いには使えないものでしたが、温泉の成分が含まれていました。
温浴事業であれば、この資源を生かすことができるし、地域の皆様にも喜んでいただけるのではないか。そんな思いから「満天の湯」が生まれました。
「会いたくなる接客」がサービス業の要
ところが、当時のモリヤマの経営陣は、捺染一本で仕事をしてきた人間ばかりでした。一方私は、父の命を受けて、さまざまな縁で関わっていた別の事業を任されていました。それがアミューズメント施設やゴルフ練習場などの、サービス業でした。
いざ温浴事業を始めようというとき、私以外にサービス業を知る人がいないのです。製造業に従事してきた人の考え方はきわめて合理的です。できるだけ経費を使わず、ムダを省き、利益を最大化させようとします。確かにモノが相手ならそれが正しいのかもしれませんが、サービス業は人間相手です。合理性だけで割り切ったやり方では、お客様の支持を得ることはできません。この意識改革には時間がかかりました。
私がアミューズメント施設で学んだことの一つに、「お客様にできるだけ長くいていただく」ことが挙げられます。長時間滞在すれば、それだけお金を使う機会が増えます。そのためには、お客様にとって居心地のよい場所である必要があります。
立派な設備や最新の機器を取り入れることも大事ですが、その効果は一時的で長続きしません。「いいものをつくれば、お客様は来てくれる」という時代は終わったのです。サービス業で大切なこと、それは「笑顔」と「コミュニケーション」です。いくら仕事ができても、笑顔がなければサービス業は務まりません。そして、あいさつはもちろん、ちょっとした声かけや世間話ができることも重要です。「お風呂がいいから」ではないのです。「あのスタッフさんに会いたいから」ご来館いただく。それが私どもの温浴事業だと考えています。
その方策の一つとして実施しているのが「おもてなし総選挙」です。これは、満天の湯を利用されたお客様に「記憶に残るスタッフ」「輝いていたスタッフ」に一票を投じてもらうというイベントです。投票用紙に記入していただくのですが、名前だけ書いてあっても無効です。「何をしてもらったのか」「どんなことがあったのか」という体験が書かれてあって初めて有効投票になります。何回か続けていると、いつも上位を獲得するスタッフが現れます。すると、その姿を見るだけで、「あんなふうに接客するとお客様は喜ばれるのだ」というモデルになるのです。研修だけでなく、実際の姿を見せることを通して、接客に対する当社の考え方をスタッフに示し、理念や価値観の共有を進めています。
企業の目的は「社会への奉仕」
かつて捺染が盛んな頃の上星川では商店街が活況を呈していました。しかしそれが低迷しはじめると、商店街も活気がなくなります。閉店する店が増え、その跡地に住宅やマンションが建てられることもありました。「このままではこの街がどんどん寂しくなってしまう」──そんな危機感を抱きました。
企業は何のためにあるのか。「企業の目的は社会への奉仕」は、学生時代に学んだ経営学の一丁目一番地であり、私が今でも大切にしている言葉です。企業家として生きてきた自分の半生を振り返ってみても、自分たちの利益だけを追いかけ、地域や社会のためにならないことをやっていては、企業として成り立たない例をいくつも目の当たりにしてきました。満天の湯だけがひとり栄えることはあり得ません。上星川という地域全体が活性化し、ここを目指してたくさんの人が集まることで、私たちもまた利益をいただけるのです。
また、グループ企業として、株式会社BLESSを1984年に設立し、不動産事業を一つの柱として立てていますが、そのベースにあるのは地域への思いです。満天の湯をつくったことで、人の流れが変わることになります。それが、私たちだけでなく、地域にとってよい変化にならなければなりません。そう考えて、当社が所有していた駅前の土地を市に寄付し、ロータリーや道路の整備につなげました。
商店街に空き店舗が出れば、住宅やマンションに建て替えられてしまう前に、地元の人が望んでいる店や、街のにぎわいに資する店を探し出して入ってもらうよう努めてきました。地域の魅力を高めることは、不動産業の大きな役割だと考えています。日頃から地域に足を運び、世間話の中からお困りごとや地元のニーズをくみ上げるという活動も続けています。
当社はこれからも、目の前の課題に向き合うと同時に、長い目を持って地域と密接に関わり続け、上星川のランドマーク的な存在として、地元の発展に力を尽くす所存です。
[編集]株式会社ボルテックス コーポレートコミュニケーション部
[制作協力]株式会社東洋経済新報社

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