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事業用不動産の未来~価格をとおして見る物件の価値を決める条件(中編)

目次

株式会社ボルテックス主席研究員の安田です。前編のコラムでは、事業用不動産の価格決定要因について解説しました。今回は、事業用不動産の価格が、地域社会、投資環境、労働市場に対してどのような影響を与えるかについて、最新のデータや具体的な事例を交えながら解説します。

1. 価格の経済的影響:シグナリング機能

事業用不動産市場において、価格は単なる取引結果にとどまらず、経済全体に影響を与える要素として機能します。その中でも「シグナリング機能」は、市場参加者にとって、将来の意思決定を支える基礎となる情報を提供します。

1.1 価格のシグナリング機能とは

シグナリング機能とは、価格が需要と供給のバランスを反映し、市場参加者に対して商品の価値やリスクに関する情報を提供することを指します。

市場における価格の変動は、需要と供給の状況を表し、経済主体の行動を導く手掛かりとなります。例えば、価格が上昇する状況は、需要が供給を上回っていることを示し、供給者には生産を増やすインセンティブを与えます。逆に、価格が低下する場合は、供給が過剰であるか需要が減少していることを示し、消費者は購入を増やす動機を得ます。

このように、価格は市場の調整メカニズムとして機能し、資源の効率的な配分を促進します。シグナリング機能を理解することは、経済の動きを読み解くための手掛かりとなります。

1.2 価格と市場参加者の行動

価格のシグナリング機能は、市場参加者の意思決定に直接的な影響を与えます。

価格が上昇することで、投資家や企業はその市場の成長の見込みが高いと判断し、新たな投資や開発を検討します。反対に、価格が下落している市場では、リスク回避のための慎重な姿勢が必要となり、投資計画の見直しや事業の縮小が考えられます。これらの反応は、市場全体の動態(ダイナミクス)を形作り、結果として価格の変動を通じて経済全体の調整が進みます。

この調整メカニズムは、短期的な市場の変動だけでなく、長期的な経済の成長や衰退の方向性にも影響を及ぼします。

したがって、価格のシグナリングを適切に解釈することは、事業用不動産市場における成功のカギとなります。

1.3 市場均衡と価格の役割

価格は、市場の均衡を保つ機能も果たします。

市場均衡とは、需要と供給が一致し、取引が最も効率的に行われる状態を指します。価格は需要と供給のバランスを反映し、その変動を通じて市場を均衡状態へと導きます。例えば、価格が上昇することで、供給者は新たな供給を増やすインセンティブを持ち、結果として価格は次第に安定していきます。反対に、価格が下落すれば、供給が抑制され、需要が回復することで市場は再び均衡に近づきます。

このように、価格の動きは市場の均衡状態を維持するための重要な指標となり、各経済主体が合理的な意思決定を行うための基礎情報を提供します。

1.4 シグナリング機能と政策形成

価格のシグナリング機能は、経済政策の形成においても役割を果たします。

事業用不動産市場における価格動向は、都市計画やインフラ投資の判断材料として用いられます。価格の上昇は、その地域への需要の高まりや将来の成長期待を反映しており、政策担当者にとってはインフラ整備や再開発を推進するシグナルとなります。逆に、価格の低下は需要の減少や市場の停滞を示しており、経済刺激策や再生支援策を講じる必要性を示唆します。

価格のシグナルは単なる市場の結果を超えて、政策形成においても極めて重要な情報源となります。経済の健全な発展と持続的な成長を実現していくためには、正確にシグナルを解釈していく必要があります。

2. 事業用不動産の価格が地域社会に与える影響

都市開発によるオフィスビルや商業施設の建設は、新たなビジネスの誘致を促進し、地域の商業活動を活性化させます。これは価格のシグナリング機能の一例であり、価格が高いことは、地域の魅力を示し、企業や投資家にとっての重要な指標となり、インフラ整備や公共施設の充実を促進し、地域の魅力を高める要因となります。例えば、地下鉄ネットワークの拡充や新駅の開設を可能にし、これにより地域のビジネス環境が一層整備されます。

2.1 東京都港区「虎ノ門・麻布台プロジェクト」

東京都港区の虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、高価格の不動産が多くの企業を引き寄せました。本プロジェクトにより、多くの新しい雇用が創出され、地域住民の生活利便性が向上し、結果として地域全体の経済が活性化しています。

(出所)国土交通省のデータを基に弊社作成

2.2 福岡市「スタートアップ都市福岡」

福岡市の「スタートアップ都市福岡」プロジェクトは、高価格の事業用不動産が起業環境の質を高め、スタートアップ企業の成長を促進しています。福岡市は外国人起業家向けの「スタートアップビザ」を提供し、最長1年間の滞在を可能にすることで、ビジネスの創出と拡大を支援しています。特に、「福岡グロースネクスト(FGN)」というスタートアップ支援施設は、アイデアの創出から成長段階までの包括的な支援を行っており、ビジネスコンサルティングや資金調達のサポート、ネットワーキングイベントの開催などを通じて、地域の経済活動を活性化しています。このような取り組みは、地域経済を活性化し、その結果として不動産価格の上昇を維持する要因となっています。高価格の不動産は、持続的な投資価値を提供し、さらなる開発と成長を後押しします。

(出所)三幸エステート(株)のデータを基に弊社作成

2.3 札幌市「創成川イースト再開発」

札幌市の「創成川イースト再開発」プロジェクトでは、高価格の事業用不動産が地域の魅力を高める具体的な例としてあげられます。本プロジェクトでは、新しい商業施設、オフィスビル、住宅が建設され、地域の経済活動が一層活性化しています。さらに、新しい公園や文化施設の整備は、地域住民の生活の質を向上させ、地域全体の魅力を高める要因となっています。このようなプロジェクトは、地域に新たなビジネスチャンスと居住環境の向上をもたらし、地域全体の不動産価値を押し上げます。

(出所)札幌市、国土交通省のデータを基に弊社作成

各事例のように事業用不動産の価格は、地域社会に多大な影響を与えます。高価格の不動産は、再開発プロジェクトや新規ビジネスの誘致を通じて、地域の経済活動を活性化させます。また、交通インフラの改善や公共施設の充実は、地域の魅力を高め、不動産価値を一層押し上げます。福岡市や札幌市の具体的事例と最新データを分析すると、事業用不動産の価格が地域経済に与える影響の大きさが明らかになります。高価格の事業用不動産が地域全体の経済を活性化し、さらなる投資を呼び込むという好循環が生まれます。

3. 事業用不動産の価格が投資環境に与える影響

3.1 投資の流入と市場の活性化

事業用不動産の価格は、投資環境に多大な影響を与えます。特に高価格の不動産は、国内外の投資家にとって非常に魅力的な投資対象となり、投資資金の流入を促進させます。これは価格のシグナリング機能の一例であり、高価格の不動産は市場での需要が高く、投資価値があることを示します。例えば、東京都のオフィスビル市場は、その高い収益性と安定性から、多くの外国投資家の注目を集めています。2023年には、東京のオフィスビルの投資額が6兆円を超え、これは投資家の日本の不動産市場に対する信頼を示すものです​。

CBREのレポートによると、投資資金の流入は地域の不動産市場を活性化させる重要な要因となっています。高価格の不動産は、投資家にとって安定した収益源となり、結果としてさらなる投資を呼び込む好循環を生み出します。東京のオフィスビル市場では、多くの新規プロジェクトが進行中であり、これにより地域の経済活動が一層活性化しています。具体的には、高価格なオフィスビルへの投資は、地域のインフラ整備や公共施設の充実にも繋がり、投資環境全体の改善に寄与しています​。

(出所)一般財団法人日本不動産研究所のデータを基に弊社作成

3.2 投資リターンとリスクの管理

高価格の事業用不動産は、投資家に対して高いリターンを提供する一方で、リスク管理の重要性も増します。事業用不動産市場は、経済状況や政策の変動に敏感であり、価格の変動リスクが存在します。しかし、東京都のような主要なビジネスエリアでは、長期的な価格上昇傾向が続いており、投資家にとって信頼性の高い投資先とされています。

三鬼商事のデータによれば、東京のオフィスビルは、安定した賃料収入と資産価値の上昇により、投資家にとって魅力的な選択肢となっています。東京都心5区におけるオフィスビルの平均賃料は、月額坪あたり20,103円(※2024年8月末)となり前年同月比で1.75%上昇しています。また、空室率も低下傾向にあり、需給が引き締まってきています。さらに、長期的な賃貸契約により、投資家は安定したキャッシュフローを確保できるため、リスク管理が容易になります。

3.3 国際投資と地域経済への波及効果

高価格の事業用不動産は、国際投資の対象としても注目されています。日本の不動産市場には、多くの外国投資家が参入しており、これにより地域経済への波及効果が生まれます。外国投資家の参入は、新たな資金の流入をもたらし、地域の経済活動を一層活性化させます。例えば、海外からの投資資金は、地域の再開発プロジェクトやインフラ整備に充てられ、地域全体の発展に寄与します。

(出所)各社プレスリリースを基に弊社作成

3.4 投資の地理的分散と影響

JLLの報告によれば、2023年上半期における日本の国際不動産投資額は5,130億円に達しており、東京都や大阪府だけでなく、福岡市や名古屋市などの他の主要都市にも分散しています。このような投資の地理的分散は、地域全体の経済活動を均衡させ、各地域の持続的な発展を促進します。

東京都はその経済規模と国際的なビジネスハブとしての地位により、他の都市と比較しても高い成長ポテンシャルを持っています。例えば、東京都の再開発プロジェクトである「虎ノ門・麻布台プロジェクト」や「東京ミッドタウンプロジェクト」は、地域全体の不動産価値を大幅に押し上げ、多くの国内外の企業を引き寄せています。これに対して、大阪府や福岡市も独自の強みを持ち、地域経済を支える重要な役割を果たしていますが、東京都の規模と影響力は特筆すべきものがあります。

事業用不動産の価格は、投資環境に多大な影響を与えます。高価格の不動産は、投資資金の流入を促進し、地域の不動産市場を活性化させます。また、投資リターンの観点からも高価格の不動産は安定した収益源となり、投資家にとって魅力的な選択肢です。さらに、国際投資の波及効果により、地域経済の発展が促進されます。これらの要因を総合的に考慮すると、事業用不動産の価格上昇は、地域社会と投資環境に対してポジティブな影響を与えることが明らかです。

4. 事業用不動産の価格が労働市場に与える影響

4.1 雇用創出と経済活性化

事業用不動産の価格が上昇すると、地域内での新規プロジェクトの誘発や企業の移転が促進され、地域経済に大きな影響を与えます。高価格の不動産は、企業にとって地域の成長可能性や投資価値を示す重要な指標となり、これが企業の投資を引き寄せる要因となります。そして、多くの雇用が創出され、地域の経済活動が活性化します。

これらの例は、シグナリング機能が市場にどのように作用するかを示しています。高価格の不動産は、その地域が成長する可能性が高いことを示すシグナルとなり、投資家や企業を引き寄せ、結果として地域経済の活性化と雇用創出に繋がるのです。

(出所)一般社団法人横浜みなとみらい21、みなとみらいグランドセントラルタワーHPのデータを基に弊社作成

4.2 横浜みなとみらい21地区:高価格不動産と雇用創出

横浜市のみなとみらい21地区も、高価格の事業用不動産が地域の労働市場に与える影響を示す具体的な例です。当地区は、横浜駅から臨海部に広がる再開発エリアで、オフィスビル、商業施設、ホテル、文化施設、住宅などが整備されています。例えば、横浜ランドマークタワーは、オフィスやホテル、展望台を備えたランドマーク的な存在で、多くの企業が入居しています。

(出所)総務省統計局「経済センサス-活動調査-」のデータを基に弊社作成

みなとみらい地区の再開発の一環として、「みなとみらいセンター」があります。当センターは、商業施設、オフィス、カンファレンスセンターが一体となった複合施設であり、ビジネスと観光の拠点として機能しています。また、「パシフィコ横浜」や「クイーンズスクエア横浜」などの大規模な商業施設も整備されており、地域の経済活動が活性化しています。

さらに、周辺のインフラも整備され、交通アクセスが大幅に改善されました。みなとみらい線の開業により、横浜駅からのアクセスが向上し、多くの人々が訪れるようになりました。新しい商業施設やレジャー施設の開業により、地域の生活環境が大幅に向上し、住民にとって魅力的なエリアとなっています。

(出所)オリコムメディア本部「サーキュレーション資料」を基に弊社作成

これらの事例は、高価格の事業用不動産が地域のインフラや生活環境の改善にどのように寄与するかを示しています。企業の移転や新規プロジェクトの誘発により、労働者の移動が促進され、それに伴って交通インフラや商業施設、公共サービスの充実が図られます。これにより、地域全体の生活環境が向上し、経済活動が一層活性化します。高価格の事業用不動産は都市部の人口密度を増加させるだけでなく、周辺地域のインフラ整備や生活環境の改善にも大きく寄与します。企業と労働者の移動が活発になることで、地域経済の成長と発展が促進されます。

5. まとめ

事業用不動産の価格は、その地域の経済的ポテンシャルや成長期待を強く反映し、単なる経済指標以上の意味を持ちます。特に高価格の不動産は、地域に資本を集め、企業の投資や移転を促進する一方、長期的には持続可能な都市計画やインフラ整備の質が成否を分けます。また、価格の変動は市場に対するシグナルとなり、投資家や政策立案者に対して適切な判断を促す役割を果たします。

今後の市場では、価格の動向を読み解く際に、環境問題やテクノロジーの進化といった外的要因も無視できません。特に、政策やテクノロジーの変化が不動産の価値を根本的に再定義する局面が訪れる可能性があります。こうした時代の変化に適応するためには、投資家や企業、行政は一歩先を見据えた戦略が必要です。

次回のコラムでは、AI(人工知能)や環境持続可能性の観点から、事業用不動産の未来について考察します。

著者

安田 憲治やすだ けんじ

株式会社ボルテックス 主席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。

現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員。

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