CRE戦略とは?不動産で企業価値を高める事例をわかりやすく解説
目次
- なぜCRE戦略が重要なのか?
- CRE戦略の目的とは?
- 実際に企業が導入した事例は?
CRE戦略は保有している不動産の活用や、今後の不動産の売買やあり方についても考える経営戦略のひとつです。
昨今はコロナの影響もあり、大手企業や中小企業にかかわらずCRE戦略を導入する企業が増えています。
また、今不動産を保有していない企業でもCRE戦略を取り入れることで、新しいキャッシュポイントを作ったり、強い企業体質にしているケースもあります。
この記事では、そんなCRE戦略について事例を交えて解説しますので、
ぜひCRE戦略について理解を深め、企業のさらなる成長のために活用してみてください。
CRE戦略をわかりやすく解説
CRE戦略を説明していくために、
- そもそもCREとは
- 国土交通省が定義するCRE戦略とは
について解説をしていきます。
そもそもCREとは?
CREとは「Corporate Real Estate」の頭文字を取ったもので、「企業不動産」という意味があり、企業が保有している不動産のことを意味します。
例えばオフィスや工場など、事業をするのに必要な不動産のことです。ほかにも、福利厚生施設や社宅、遊休土地などの不動産もあげられます。
CREは売買をするだけでなく、企業の価値を高めることができる重要な経営資源です。
国土交通省が定義するCRE戦略とは?
2008年に国土交通省が出したガイドラインから、CRE戦略は注目されはじめました。国土交通省では、CRE戦略について、積極的に企業が取り組むべき課題としています。
その上で、CRE戦略を下記のように定義しています。
『CRE戦略とは、企業不動産について、「企業価値向上」の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方である。』
出典:「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)(全3章)
このような考え方が広まり、今のCRE戦略に繋がっています。
CRE戦略をわかりやすく解説すると?
CRE戦略とは、『不動産を効果的に活用することで、企業の価値向上を図る経営戦略』です。
CRE戦略は短期的な戦略というよりは、中長期的な戦略であり、時代や経済の変化とともに柔軟に対応をしていく戦略でもあります。
時代や経済の変化、取り扱いや組み合わせによって不動産の価値が大きく変化します。そのためベストなタイミング、ベストな選択で、価値の最大化を図る必要があります。
不動産の価値を見直すことが、企業の価値向上にもつながるのです。
なぜCRE戦略が企業価値を高めるのか?
CRE戦略を上手く活用することで、ヒト・モノ・カネ・情報といわれる経営資源を豊かにすることが可能です。
では実際にどのように企業価値を高めるのか?
その具体的な内容を見ていきましょう。
CRE戦略によりコスト削減効果が見込める
CRE戦略では各所に散らばっている拠点の集約や廃止を行うケースもあります。
この場合、賃料のコストや各オフィスで必要だった電話やコピー機などの備品やビルのメンテナンス費、管理費なども削減することができます。
このようにCRE戦略の見直しによって経費の削減効果が見込めます。
不動産の有効活用によりキャッシュフローの改善が見込める
CRE戦略では、保有する不動産を売却したり、または賃貸として活用したりして、キャッシュフローの改善を行うケースもあります。
事業に関係なく保有している不動産の売却や、遊休土地を貸し出しするといったことがあげられます。
また余剰資金がある場合は、新規に区分所有オフィスなどを購入して賃貸に出し、新しくキャッシュポイントを作るというケースもあります。
不動産を有効活用することで、キャッシュフローを改善し、より強い企業体質にしていくことが可能です。
企業の不動産を活かしリスクの分散化・軽減・除去が見込める
企業の収益がひとつの事業に依存してしまうと、その事業の収益が減った際に、経営不振に陥る可能性が高まります。
そこでCRE戦略では、不動産を活用したリスクの分散化や軽減、除去を行います。
例えば新規に不動産を保有して、新しくキャッシュポイントを作ったり、逆に売却をして不動産リスクを除去したりします。
また、いざという時に企業の存続させるため、売却可能資産を持つことで企業の危機を乗り切るという考えもできます。
不動産を最大限に活用することで、企業の収益基盤を増やすことができ、リスクの分散化・軽減・除去の効果が見込めます。
企業のブランディングイメージの向上につながる
保有している不動産の立地条件や建物そのものが、企業のブランドイメージをあげることもあります。
環境に配慮したオフィスビルを建てることで、環境を意識している企業というイメージを作ることができますし、逆にボロボロで汚いオフィスビルであればよいイメージを作りにくくなります。
独創的なデザインや著名人が建築に携わるなど、地域を代表するような建物を保有すれば、地域住民からの認知度を上げることも可能です。
このように企業が保有する建物は、企業のイメージと密接な関係にあるので、不動産の活用で社会的な企業イメージを向上させることもできます。
財務バランスの改善により資金調達力がアップする
CRE戦略により、財務バランスを改善して企業価値を向上させるケースもあります。
遊休不動産を売却してキャッシュを厚くしたり、有効活用して新しくキャッシュポイントを作れば、財務バランスは改善されていきます。
また新規に不動産を取得して新しくキャッシュポイントを作れば、経営リスクに強い企業体質になります。
純資産が多く、リスクに強い企業であれば、銀行の評価も高くなるので資金調達もしやすくなります。
このようにCRE戦略を活用することで、資金調達力をアップさせることも可能です。
事業承継時の評価アップにつながる
最近では事業を継いでくれる子や親戚がおらず、従業員が中小企業の後継者になるケースも少なくありません。また企業の売買件数も増えています。
そこで重要なのが、「事業を継続させたい」と思わせる魅力や価値がある企業なのかどうかということです。
企業の保有する不動産は資産としての価値があり、効果的な活用ができていることで、外部からよい評価を受けられます。
CRE戦略でこういった不動産の在り方を見直すことで、企業としての価値を上げて事業承継時の評価アップに繋げることも可能です。
CRE戦略(企業不動産戦略)の事例 ― 社会的効果もある
不動産活用は企業だけの話ではなく周辺の地域にも影響があるため、CRE戦略にはCSRといわれる「企業の社会的責任」も関わってきます。
企業不動産を活用して、どのように社会的な貢献をしていくのか?を考えることは、その地域に根ざしてビジネスをする企業にとって重要な視点です。
CRE戦略で期待できる、社会的効果とはどんなものか、詳しく紹介していきます。
地域社会への貢献につながる
最近では企業の本社を、地方へ移すケースも増えています。地方の雇用の創出や、地方の特色を活かしたアピールなど、地域に根付いた企業の社会的な役割は大きいといえます。
それとは別に、地方の企業が都内のビルを区分で保有するケースもあります。
立地がよい主要都市の1フロアを保有することで、空室リスクを抑えながら不動産収入が得られるようになります。
また、それだけではなくサードプレイスの提供や、地元のアピール、防災施設としての役割を担うなど、不動産を活用した地域社会への貢献に繋げている企業もあります。
不動産収入という面ではなく、地域社会への貢献という視点でも、CRE戦略を活用するケースもあるのです。
地価下落リスクの回避につながる
バブル期は「地価は下がることがない」という土地神話がありました。ですが、今はそのようなことはありません。
不動産価値は上昇する可能性もありますが、下落する可能性もあります。そのため、ただ不動産を保有しているだけでは、地価下落したときの影響を直接受けてしまいます。
そういったリスクに対応するのがCRE戦略です。
地価が下落をする前に不動産を売却してしまうなど、計画性のある不動産活用を行うことで、リスクを回避することができます。
さらにCRE戦略は一度決めたら変えない、というものではなく、経済の流れや社会の状況を見て改善していきます。
社会状況に応じた柔軟性のある計画を立てることで、地価下落リスクに対応をしていくのです。
CRE戦略の具体的な事例を紹介
ここでは具体的なCRE戦略の事例を紹介します。
実際にはどのような対策をCRE戦略では行うのか、詳しく見ていきましょう。
保有不動産を売却して赤字を補填
今回のコロナ禍のように、予測不能事態に陥ったとき、本業にダメージを与えるケースがあります。
そこで、保有している不動産を売却し、経営のマイナスを補填することができます。
三陽商会では、コロナ禍などの外的要因により出てしまった損失を補填するため、
自社で保有している不動産を売却することで約67億円を特別利益として計上しました。
こうした経営が苦しい状況の中で不動産を売却することで、財務体質を改善することができます。
資生堂の事例
拠点をひとつに集約することで、コストの削減に成功したケースが、資生堂銀座ビルの建て替えです。
資生堂は2013年の資生堂銀座ビル建て替えの際、都内にあった部署や子会社を、資生堂銀座ビルひとつに集めました。
このCRE戦略により、今まで都内にあったオフィス面積の約10%を削減することができています。
例えば合計1000坪あったオフィスの10%を削減できた場合、中央区銀座の坪当たりの平均賃料が27,480円なので、年間の賃料の約3,300万円をカットできたことになります。
削減できているのは、賃料だけではありません。オフィスごとに導入していた電話などの備品、電気代やビルメンテナンス費用などの、さまざまな諸費用の削減につながっているのです。
さらに今まで関わりのなかった従業員たちが、同じフロアにいることでコミュニケーションを取るようになるといった効果もあります。
拠点の集約にかかる費用もありますが、中長期的に考えるとコストカットできた部分の利点のほうが強く、生産性の向上も期待ができる成功事例といえます。
出典:資生堂、本社社屋を建て替え ~創業の地「銀座」に新本社ビルを建設~
トヨタの事例
愛知県豊田市にみる、自動車メーカートヨタの事例は、CER戦略により社会的責任を果たすことを意識した成功例といえます。
トヨタは愛知県の豊田市に本社や工場をおくことで、地元の雇用拡大など地域社会へ大きく貢献してきました。雇用だけでなく、工場見学などによる観光客の誘致など、周辺地域の活性化の手助けともなっています。
さらにトヨタは富士山の麓の工場跡地で、最先端のテクノロジーを取り入れた実証実験都市をつくることを2020年に発表しました。
まだ都市の完成はしていませんが成功すれば、トヨタの企業価値のさらなる向上や周辺地域の活性化が見込めるでしょう。
出典:トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表
まとめ
CRE戦略は、企業が取り組むべき課題のひとつです。その効果はさまざまで、企業の抱える問題を解決できる見込みがあります。
最後に、紹介したCRE戦略について簡単にまとめました。
- CRE戦略とは、不動産の活用で、企業の価値を高めるための経営戦略のひとつ
- CRE戦略にしっかりと取り組むことで、経営資源であるヒト・カネ・モノ・情報をより豊かにすることができる
- CRE戦略は身近にあり、資生堂やキリンホールディングス、トヨタなど、取り組みが成功している事例が多い
最近では、本業の利益が落ち込むことを予測して、リスク回避のために、希少性の高い都市(東京など)の不動産を保有するケースも増えています。
不動産は保有するだけでなく、活用することで本来の価値を最大限に引き出すことができます。中長期的に不動産の活用方法を考え、しっかりとしたCRE戦略に取り組みましょう。
下記コラムにて、CRE戦略による不動産運用で内部留保することを解説しています。
こちらもぜひご覧ください。
>内部留保とは?使い道やメリットをわかりやすく解説