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かまぼこで日本人の健康を支え社会に貢献する
「老舗にあって、老舗にあらず」経営者の使命と姿勢

目次

創業159年を数える鈴廣かまぼこ株式会社は、老舗の暖簾( のれん )にあぐらをかかず、かまぼこのテーマパーク「かまぼこの里」の開設など、かまぼこの魅力を発信するユニークな事業を次々と展開しています。さらには自社のみならず、拠点である小田原、日本、地球全体の未来も視野に入れた研究と挑戦を続けています。その真意と原動力について、代表取締役社長の鈴木博晶氏にお話しいただきました。

お話を聞いた方

鈴木 博晶氏すずき ひろあき

鈴廣かまぼこ株式会社 代表取締役社長

大学卒業後、ベーリング海での工船勤務を経て、1978年鈴廣かまぼこ株式会社へ入社。1985年に代表取締役に就任(現職)。小田原かまぼこの伝統を受け継ぎ、安心安全の天然素材100%のかまぼこづくりに努めている。2018年まで全蒲連(現日本かまぼこ協会)第8代会長を務め、かまぼこの需要創造に尽力。2021年水産功績者表彰を受賞。

日本人の食生活を魚中心の本来の姿に

弊社は江戸時代末期の1865年、網元漁商として創業しました。かまぼこ製造は当初は副業という位置づけでしたが、明治時代に入り本業に据えられました。私は1996年に10代目社長に就任して以来、食品を製造・提供する企業として、食品はお客様の体をつくる元になるもの、健康を支えるものであるという視点を最重視した経営を行ってきました。

その観点で日本社会や日本経済を見たときに、非常に危惧していることの一つが、日本人の食生活の変化です。厚生労働省の調査によれば、日本人1人あたりの魚介類の摂取量は年々下がり続けています。20年ほど前までは、肉類(牛や豚などの畜肉)の摂取量を上回っていました。しかし2007年頃を境に逆転したばかりか、肉類の摂取量はその後も急勾配で増え続けています。

さらに、ほとんどの世代でたんぱく質の摂取量が大きく減少しており、特に30~50代では、1995年から2020年の間に約2割も減少しています。一方、低栄養の予防対策として近年、たんぱく質の重要性が呼びかけられているおかげで、60代以上の高齢者では摂取量が回復傾向にありますが、肉類からの摂取に偏っているために、高齢者の脂質摂取量の急激な上昇が深刻です。この状況が続けば、心血管疾患患者の急増につながりかねません。日本人の食習慣を魚中心の本来の姿に戻し、人々の健康寿命を伸ばし社会保障コストを抑制することは、魚肉を扱う弊社の使命の一つと考え、「お魚たんぱくで世界を健やかに」というミッションステートメントを掲げています。

同時に、かまぼこ製造という私たちの事業が、海を自由に泳ぐ魚の命や、製造工程で必要な大量の水など、かけがえのない自然と引き換えに成り立っているという事実と向き合い、企業理念「食するとは、生命( いのち )をいただき、生命をうつしかえること。その一翼を担うのが私たちの仕事。かけがえのない地球の中で、この役割こそ我が天職。」を制定しました。

伝統を守ると同時に革新し続ける

人口減少の加速も深刻です。日本の総人口は2005年頃から減少し始めており、2050年には9,000万人程度まで減るといわれます。同時に少子高齢化も進みますから、生産年齢人口は大きく減少します。これは予測ではなく、必ずやってくる日本の姿です。日本企業は、労働力が今後大幅に削られることを大前提に、経営の在り方を模索しなければなりません。
 
社会環境が刻々と変化する状況下で、弊社も、伝統的なやり方を続けているだけでは、老舗の味と品質を維持することはできません。歴史や伝統を大事にしながらも、それに安住せず革新を続けようという思いは、社是「老舗にあって、老舗にあらず」に込められています。この言葉は、私がまだ若い頃に祖父からもらったもので、社会状況がどうあろうと変えてはならないもの、つまり代々受け継がれてきた「商売に対する姿勢」は変えずに、時代の変化に応じて変えなければならないもの、つまり「商売の方法や手法」はむしろ率先して変えよ、という教えです。

社是や共有理念をただ唱和したり反芻(はんすう)するだけでは、社員一人ひとりに自分事として理解してもらうことはできません。職種にかかわらず、栄養学など、弊社の一員として身につけたい知識を学んでもらう体制を整備し、魚肉の魅力やかまぼこづくりについて、全員が自分の言葉で語れるレベルまでになることを目指しています。

そこまで徹底するのは、経営者の立場からすれば、よい人材を育て、雇用を守ることが、事業継続の上で何よりも大事だからです。社員にとっては、自分の仕事が世の中にどれだけ求められているのか自覚できて、誇りを持てる状態であることが、とても重要です。そのような環境を整備するのが、経営者としての役目だと思っています。

経営を楽しめば会社は強くなる

機械生産を導入した今でも、完全に職人の手作業によってつくられる商品も多数あります。かまぼこをはじめとする煉り製品の業界には、「水産煉り製品製造技能士(1級・2級)」という国家資格があり、その資格保有者の約3分の1が、弊社の社員です。高度な技能を持つ職人を絶やさないよう、計画的に人材を採用・教育しています。 

教育といっても昔は、先輩の腕を見よう見まねで習得するのが関の山でしたが、今はベテランのカンやコツに頼るだけではなく、科学的なかまぼこづくりを実践しています。私たちは日頃から「かまぼこを科学する」といっていますが、科学的なデータに基づいて理屈で技術を学ぶことで、理解度も習熟のスピードも確実に向上します。製造部門以外の社員にも、自分の仕事により誇りを持って取り組んでもらえるよう、「おもてなしマイスター」や「かまぼこソムリエ」などの社内資格を整備しています(図表)。

先行きが不透明な現代社会において経営者は、20年、30年先のこともつねに視野に入れ、いかなるシナリオにも対処していかなければなりません。いろいろな可能性を並べて、どの方向に転んでもいいように、ただし大原則として、世の中に求められる企業であり続けられるように。必要性がなければ消えていくのみですから、その時代に求められるものを確実に提供していくことが、企業存続の根幹といえるでしょう。社員にも日頃から、目先のことにとらわれず、先のことも見通しながら考える視座を持ってほしい、と話しています。

弊社は決していつも順風満帆なわけではなく、経営者として苦しい局面に立たされることもあります。しかし先日、知人の一人から、「鈴木さんは経営を楽しんでいるように思えるよ」といわれたのです。自分ではそんなつもりはありませんでしたが、この一言によって、「そうか」と腹落ちしました。経営を楽しもうというスタンスを保つことで、何事にもポジティブに向き合えるし、積極的に取り組めるのです。経営者の皆様にはぜひ、自分なりの経営の楽しみ方を模索し、経営を楽しんでいただきたいと思います。

[編集]株式会社ボルテックス ブランドマネジメント課
[制作協力]株式会社東洋経済新報社

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