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VUCAの時代こそ「ミッション」を重視せよ!どんなに環境が変わっても、変わらない原理原則
【株式会社リーダーシップコンサルティング 代表
岩田 松雄 氏】

目次

リーダー育成のための研修や講演を行う企業の代表を務める岩田松雄氏。これまでに、ゲーム開発会社やコスメブランドの国内運営会社(当時)、そしてスターバックスコーヒージャパンといった数々の企業トップとして、赤字体質からの脱却や利益倍増などの改革で手腕を発揮してきました。経営者として持ち続けるべき考え方など、これからの企業経営に必要なことについて語っていただきました。

お話を聞いた方

岩田 松雄 氏いわた まつお

株式会社リーダーシップコンサルティング代表/元スターバックスコーヒージャパン株式会社CEO

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、82年日産自動車入社。社内留学先のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ビジネススクールでMBA取得。帰国後日本コカ・コーラなどを経て2001年アトラス代表取締役社長となり、3期連続赤字からの再生に貢献。05年にはイオンフォレスト(当時)代表取締役社長となり利益を倍増させた。09年スターバックスコーヒージャパンCEOに就任、11年にリーダーシップコンサルティングを設立。

「企業は何のためにあるのか」株主ファーストの考え方に疑念

私は大学を卒業して日産自動車に入社し、生産管理や品質管理、購買、そしてセールスマンも1年半ほど経験しました。幸運にも多くの車を売ることができ、当時の記録をつくったことで社長賞をもらったという思い出があります。

在職中にUCLAのビジネススクールに留学。マーケティングやファイナンスなど、経営に必要なスキルを学び、身につけました。ビジネススクールでは、基本的に何でも計算して定量化します。それが大事なことはよく理解できましたが、その一方で、何かもの足りなさも感じました。

ビジネススクールでは、「企業は株主のためにある」「利益の最大化こそ経営者の使命である」と習います。しかし、私は納得できませんでした。株主の中には、デイトレーダーと呼ばれる、極めて短期間の取引で利益を上げようとする人たちもいます。こうした人たちは、その企業がやっていることに何の関心もありません。ただ株価の動きだけを見て、数分数秒で株を売買する人たちのために企業を経営しないといけないのだろうか。こうした疑念を強く抱いていました。

「企業は何のためにあるのか」

この基本的でありながら本質的な問いに対して、「企業は商品やサービスを通じて世の中をよくするためにある」という答えを見出したのは、コスメブランド「THE BODY SHOP(ザボディショップ)」の国内事業を当時運営していたイオンフォレストの社長在任中です。利益は、世の中をよくするための手段にすぎない。こう気づいたとき、すべてが腑に落ちていきました。

MVVの各言葉を自分なりに定義する

経営者にとって大切なのは、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」(MVV)です。中でもミッションとは、その企業の使命であり、何のためにこの事業をやっているのか、存在理由を示したもの。個人的には、「与えられた人生において、己のためだけでなく、多くの人々のために、そして、世の中のために、大切な何かを成し遂げようとする決意」だと定義しています。

最近は「パーパス」という言葉もよく使われています。英語では、ミッションは神から与えられたもの、パーパスは自分で決めたものという違いがありますが、経営における基本的な意味合いは同じだと私は解釈しています。ほかにも類似語としてフィロソフィーという言葉もありますが、どの言葉を選んだとしても、自分なりにミッションはじめMVVの各言葉の定義をきちんと決めて使うことが大切です。実際、言葉の定義は経営者それぞれで違っており、どれが正解ということはありません。

私は、MVVを次のように定義しています。ミッションは、企業の使命や存在意義であって、何を達成したいのかを意味するもの。ビジョンは、目指すべき方向性であり、将来あるべき姿を指すもの。そしてバリューは、企業の価値観やミッション・ビジョンをどうやって、何を大切にしながら達成していくのかという行動の判断基準を意味するもの。

MVVは抽象的な概念でもあるので、わかりやすく説明したいときには、登山家を例にしています。

登山家にとってのミッションは、山に登ること。山に登らなくなったら登山家ではなくなります。つまり、山に登り続ける限りは登山家であり、ミッションには終わりがないということです。

ビジョンは、登山でいうと「5年後に富士山に登頂する」という目標に当たります。頂上でご来光を拝んでいる姿は想像しやすいはずです。さらに、最も有名なビジョンの一つが、1960年代に発表された「アポロ計画」かもしれません。人類が初めて月に着陸するというビジョンは、誰もがわくわくしながらイメージできていました。そして一つのビジョンが達成できたら、次のビジョンを新たに設定します。どんどん更新していくのがビジョンの特徴です。

バリューは、登山家にとっては山の登り方です。みんなで歌を歌いながら登るのか、無酸素の過酷な状況の中で登るのか。経営では、行動指針と呼ばれることもあります。

MVVの違いがわからなくなったら、この登山家の例を思い出してください。

崇高なミッションがあるから長く働ける環境がつくれる

現在は「VUCAの時代」といわれています。それぞれ、Volatility:変動性、Uncertainly:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性を指します。すなわち、何が起こるか、誰にもわからない時代ということです。

こうした時代に、マニュアルで対応することはできません。なぜなら、すべてのケースを想定してマニュアルをつくることは不可能だからです。 では、何が大事になるのか。それは、原理原則としてのミッションです。環境がどんなに変化しようとも変わらないのが原理原則であり、ミッションです。

ミッションはなぜ大切か

他方、ミッションを実現するためのビジョンやバリューは変わるもの、変えていくものです。環境変化のスピードに遅れることなく、戦略や戦術を変えていく。逆に、そうしなければ時代に取り残されてしまう。こうした危機感は、現在の経営者に不可欠なものでしょう。ミッションを高く掲げていれば、そのミッションに共鳴する人たち、同じ価値観の人たちが入社してきます。逆に、ミッションが掲げられていなければ、価値観の違う人たちが入社することになり、これは企業にとっても、個人にとっても不幸なことです。

また、ミッションはそれ自体が崇高なものです。したがってそれが実現できていると社員が感じられれば企業内のモラルが高くなり、その結果、離職率も下がります。以前いたスターバックスジャパンには数万人ものスタッフがいますが、そのほとんどはアルバイトです。にもかかわらず、あのようなすばらしい接客ができるのは、彼らが心からスターバックスのミッションを理解し、共鳴しているからです。だから辞めない。辞めないから教育投資ができる。教育投資をするからさらに長く働いてくれる。こうしてよい循環が回り続けているのです。

ミッションという高い志を持ち、企業の成長とともに自分自身およびミッションそのものも成長させる。これこそがリーダーに求められるものだと私は考えています。

[編集]株式会社ボルテックス ブランドマネジメント課
[制作協力]株式会社東洋経済新報社

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