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羽田空港の進化が東京のポテンシャル向上の一翼を担う
〜臨空都市の誕生で大きく姿を変える東京サウスエリア〜

目次

新型コロナウイルス感染症に関する水際対策が4月29日をもって完全に解かれ、これまで段階を踏んで増便されてきた国際線の就航は、本格的に戻りつつあります。一方、羽田空港では、国際線発着の容量と空港施設の整備の両面での機能強化が進んでいます。東京の玄関口のリニューアルによって、一帯の景色が変貌し、東京という都市の価値や魅力も大きく向上すると期待されています。羽田空港の機能強化の概要と進捗状況、さらには空港の進化がもたらす効果について、交通経済をご専門とする加藤一誠氏にお聞きしました。

一大都市に生まれ変わる羽田空港周辺

 これまで単なる空港周辺地域に過ぎなかった羽田エリアが今、ビジネスと観光の拠点、国際都市東京の玄関として大きく生まれ変わろうとしています。なかでも今年注目されているのが、インバウンド回復によって連日にぎわいを見せる2つの大規模複合施設です。

 京急空港線・東京モノレールの天空橋駅直結の「羽田イノベーションシティ」は、2020年7月から研究開発施設やコンベンション施設などが先行開業していますが、今年6月以降、新規エリアが開業し、グランドオープンの予定です。もう一方の「羽田エアポートガーデン」は、羽田空港第3ターミナルに直結する、ホテルや大型ホールなどを擁する商業施設です。当初は2020年4月の開業予定で、同年3月には竣工済みでしたが、コロナ禍による3年弱に及ぶ延期を経て、今年1月に晴れて開業となりました。

 これらの再開発プロジェクトは、現在進行中の空港ターミナルの整備事情と大きく関わっています。羽田空港では、国際線ターミナルと国内線ターミナルがかなり離れているために、乗り継ぎが悪いのが難点とされてきました。2030年ごろになりますが、国際線・国内線という区分ではなく、日系航空会社・外資系航空会社で前者が第1ターミナルと第2ターミナル、後者が第3ターミナルと振り分けたうえで、各ターミナル内で国際線から国内線へとスムーズな乗り継ぎができるようになることが期待されます。

 訪日外国人の多くは外資系航空会社の利用者です。第3ターミナルの出口につながる羽田エアポートガーデンも、隣駅に直結する羽田イノベーションシティも、このターミナルのレイアウト変更を前提に、「日本らしさ」を演出するなど、訪日外国人の需要を主要なターゲットに掲げているのです。空港に降り立ったその場で買い物や体験を楽しんでもらえる環境が整ったことで、訪日外国人にとって日本滞在の通過点ではなく、羽田そのものが目的をもって滞在する場所へと役割を変え始めています。

国際線運航の回復で高まる羽田空港への期待とその役割

 インバウンド回復のターニングポイントは、2022年10月の新型コロナウイルスに対する水際対策の緩和でした。以降、想定外のスピードで回復の途をたどっていますが、中国よりも欧米や東南アジアからの来訪客が目立つのが以前とは異なるところでしょう。中国便の再開が遅れていることが最大の要因ではありますが、コロナ禍以前に東京オリンピック需要で2020年に向けて、欧米方面への国際線増便が図られてきた経緯があり、その効果が今になって得られ始めているという背景もあります。

 ただし、インバウンドが元気な一方でアウトバウンドの遅れは顕著です。この現象には、円安、燃料費の高騰、燃油サーチャージの値上げなどによる渡航費の高騰や、日本経済の復興の遅れなどさまざまな要因がありますが、回復期の自然な流れと捉えることもできます。インバウンドの拡大によって国内、とりわけ地方の活性化が進めば、地域のビジネスが活気を取り戻し、賃金上昇の動きが生まれ、その先にアウトバウンドの復調や本格的な景気回復があると考えるのが妥当でしょう。

 その観点からも、羽田空港の重要性はますます高まっているといえます。全国で企業の海外出張などの需要が増えれば、その多くは羽田を経由するからです。国内線の7割は羽田発着ですから、国際線-国内線の乗り継ぎがよくなることで、インバウンド客は日本各地へ移動しやすくなります。逆に、日本各地からも羽田を経由して、海外がより近くなります。

 国土交通省は、1980年代から継続して羽田空港の拡張事業を展開してきました。沖合への用地展開、4本目の滑走路整備、飛行経路の見直し、一部の国内線発着枠の国際線発着枠への移行などにより年間発着回数の拡大を重ね、新しいところでは2020年に新飛行経路の運用の開始により、約4万回の拡大を達成しています。

 国際線の年間発着回数については、2020年時点で成田・羽田合わせて約83万回だったところ「年間100万回達成」という政府目標が掲げられています。その実現に向けては成田空港との協力・連携が不可欠であり、成田でも2029年3月までに3本目の滑走路を供用する予定で、容量拡大に向けた工事が進められています。

東京駅−羽田間わずか18分、羽田の進化が東京の価値向上を牽引する

 あの手この手で羽田空港のポテンシャルが高められているものの、より根本的な課題として、羽田にしろ成田にしろ、そもそも空港自体が遠いという状況が、なかなか改善されずにいました。しかし東京のサウスエリアでは近年、急速に交通環境の整備が進んでおり、当初予定の2027年よりは遅れそうですが、リニア中央新幹線の開通も近づいています。また今年6月以降、田町と羽田空港をつなぐJRの「羽田空港アクセス線(仮称)」の工事が本格化します。開業予定は2031年度と、少し先の話ではありますが、開通すれば宇都宮線・高崎線・常磐線方面から羽田空港へのダイレクトアクセスが可能になり、東京駅からの所要時間はわずか18分となります。

 一連の計画がすべて滞りなく進捗すれば、2030年ごろを目処に、羽田空港とその一帯はエアポートシティ、いわゆる臨空都市へと変貌を遂げることになります。「空港は遠い」という感覚は払拭され、人の流れも大きく変わることが予想されます。エアポートシティの誕生は、東京サウスエリアのさらなる価値向上に貢献するだけでなく、東京全体のポテンシャルを大きく底上げするだけの影響力を生むことは間違いないでしょう。東京の玄関口が機能的にもデザイン的にも洗練され生まれ変わることで、世界から見た東京の印象や魅力の向上にもつながります。

 こうした華やかな側面が注目される一方で、羽田空港では人手不足の解消が喫緊の課題となっています。今後も国際便発着のいっそうの増加が見込まれる中、グランドハンドリングや保安検査といった空港業務を行う人材の確保や処遇改善に向け、官民あげての議論が続いており、6月にも具体策の中間とりまとめが公表される運びです。

 運用サイドの視点でいえば羽田は世界でも類を見ないほど難易度の高い空港であり、いずれの職種にも高いスキルが求められます。管制官や土木・電気などの技術系職員をはじめ、空港内の専門職の多くは国家公務員であり、ほかの空港への異動をともなうことが一般的です。つまり羽田空港は、航空人材のインキュベーターとしても重要な役割を担っているといえるのです。

お話しいただいた方

加藤一誠 様
かとう・かずせい
慶應義塾大学商学部 教授

PROFILE
1992年同志社大学大学院経済学研究科博士課程後期満期退学。経済学博士。関西外国語大学助教授、日本大学経済学部教授を経て現職。専門は交通経済学で、国土交通省の交通政策審議会の委員も務める。編著に『「みなとのインフラ学」―PORT 2030の実現のための処方箋』(成山堂書店)、『航空・空港政策の展望 アフターコロナを見据えて』(中央経済グループパブリッシング)など。

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