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【明治大学名誉教授 市川宏雄氏登壇セミナー】
2022年度版「世界の都市総合力ランキング」から読み解く、東京の今と未来。

目次

 森ビルのシンクタンク・森記念財団都市戦略研究所では、世界の主要都市(48都市)を対象に「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野、70指標をスコア化し、順位付けした「世界の都市総合力ランキング」を毎年発表しています。2022年度版ランキングが12月14日に発表されましたが、東京の順位やスコアはどう変化したのでしょう。

 都市政策の第一人者で、ランキングの作業委員会主査を務める明治大学名誉教授・市川宏雄氏に、最新のランキング結果から読み取れる、“東京が抱えている課題”についてうかがいました。

*このコラムは、2022年12月16日に開催されたオンラインセミナー「緊張する世界情勢・インフレが影響を与えた最新の世界の都市総合力ランキング 〜我が国・東京の現在評価とは?〜」をもとに再構成したものです。

東京は総合力3位をキープ。しかし都市力は確実にパワーダウンしている

 長引く新型コロナウィルス感染症の流行に加え、ロシア・ウクライナ戦争、世界的なインフレなど、さまざまな事象が発生した2022年。緊張する世界情勢のなかで、世界の都市ランキングはどのように変化したのでしょうか?
「総合ランキングでは、ロンドンが1位、ニューヨークが2位、東京が3位、パリが4位、シンガポールが5位、そのあとにアムステルダム、ソウル、ベルリン……と続いています。上位5都市の順位に変化はありませんでしたが、コロナ禍に対する対応の違いが影響し、各都市のスコアは大きく変動しています。ロンドン、東京などが国際的な往来を抑制したことによってスコアを下げたのに対し、万博開催国のドバイは、早期に海外訪問者の受入れを再開したことでスコアを上げ、11位に浮上しています」

 東京は7年連続総合3位をキープしてはいるものの、各分野のスコアは大幅に下落。都市力を測る基準となる6分野のうち、4分野(経済、文化・交流、住居、交通・アクセス)がダウンし、上昇したのは唯一、環境分野だけという残念な結果になりました。
「オリンピック開催を発表した2013年を境に、スコアを上げて2016年に東京はパリを抜いて総合3位となりましたが、パリが追い上げてきたため、スコア差は僅差となっています。コロナ禍の影響で東京オリンピックが無観客開催となり、期待していたほどの人流や経済効果がなかったのと、パリのスコアが上昇してきたのがその理由です。パリオリンピックの開催が2024年に控えていることを考えると、今後東京はパリに抜かれる可能性が高いと思っていいでしょう」

経済、文化・交流、住居、交通・アクセス、4分野でスコアを下げた東京

 東京の都市力がパワーダウンした理由はいったいどこにあるのでしょう。今回スコアが下落した4つの分野を細かく見ていくと東京が抱えている“弱み”が見えてくるといえます。
「まずは経済。これはスイスのチューリッヒに抜かれて4位から5位に落ちました。日本のGDP自体は決して低くはないのですが、もともと低かったGDP成長率がさらに下がっています。賃金水準やワークプレイスの充実度に対する評価もダウンしています」

 こうした日本経済の低迷には、コロナ禍の影響だけでなく、国の政策も深く関係しているようです。
「経済成長を妨げているひとつの要因が、法人税の高さです。現在日本の法人税率は約33パーセント。これはほかの国と比べてかなり高めです。ちなみにシンガポールは17パーセント、ロンドンは19パーセント、パリは22パーセントです。ニューヨークも法人税率は高めですが、これからは下げてくるはずです。それなのに日本だけは“防衛費増額のために法人税を5パーセント上乗せすべきだ”というナンセンスな議論を繰り広げている。外国資本の参入障壁を排除し、国際競争力を高めるという政策を日本政府が積極的に進めないのが問題なのです。ほかには英語を話す優秀な人材も不足していますが、これも国の教育政策でなんとかなるはずです」

 2013年のオリンピック招致決定以降、順調に順位を上げてきた「文化・交流」の分野も、今回ダウンしています。ホテルの客室数、食事の魅力などは世界トップを誇っていますが、外国人訪問者数やナイトライフ充実度が下がってしまったことが、今回のスコアダウンにつながったようです。
「外国人訪問者数が激減したのは、新型コロナウィルス感染症の水際対策が長引き、国際渡航規制の解除が遅れたことが原因です。日本は10月に海外からの旅行者の受入れをようやく再開しましたが、まだ復調には至っていないため、早くに外国人訪問者の受入れを再開したイスタンブールやドバイと比べてスコアが下がってしまったのです」

 「交通・アクセス」の分野も順位を5位から10位に落としています。新型コロナウィルス感染症対策として航空便の運航本数を減らしたのは、どの都市も同じはずなのに、なぜ、日本は大幅にランクダウンしたのでしょうか?
「交通・アクセスの分野は、国際渡航規制を解除したあとの“回復への取り組み”も評価対象にしていることも影響しています。2022年6月の航空便の復活状況を見ると、コロナ禍前と比較して、パリは80パーセント、ニューヨークが88パーセント、ロンドンが77パーセントまで復活しているのに、東京は41パーセントと、まだ半分にもいっていない状況です」

 さらに暮らしやすさ、働きやすさの指標となる「住居」分野に関しても東京はランクを落としました。これは、ICT環境(情報処理技術)や、コンピューターソフトウエアの支出、金融機関口座のオンライン利用といった面で、東京は世界に遅れをとったことが主な原因のようです。また「働き方の柔軟性」のスコアが前年と比べて半分ほどに下がっているのも気になります。コロナ禍でテレワークが一般化し、働き方の柔軟性は確実に高まっているはずなのに、なぜこんな結果が現れたのでしょうか?
「通勤回数が前年度とそれほど変わっていないことを思うと、人々は去年とは逆に今の状況に不自由さを感じるようになった、つまりオフィス回帰の波がはじまったと考えていいのかもしれません。働き方に何を求めるかは、都市によって異なります。たとえばヘルシンキの人々は、通勤頻度よりも勤務時間を気にします。ニューヨークやロンドンの人々がもっとも重視するのは勤務地です。これに対して東京の人たちは通勤頻度やITC環境にはさほど興味がなく、それよりも有給休暇の取りやすさを重視する傾向にあるようです」

アジアの人々にとって東京は「働きたい都市」としての評価が高まっている

 今回唯一、東京でスコアアップしたのは「環境」の分野ですが、これは「空気のきれいさ」「都市空間の清潔さ」などが高評価されたことに加え、未来を見据えた「環境への取り組み」が評価につながったからだそうです。
「2030年までの温室効果ガスの削減目標を、2000年比、3割減から5割減にすると環境庁が宣言したことで評価がアップしたのです。環境の評価のなかに政策という指標があるのですが、それが上がったことが今回は大きかったようですね」

 以上のようにランキングの中身を分析していくと、法人税の高さ、優秀な人材の不足、ICT環境整備の遅れ、新型コロナウィルス感染症からの復興の遅れなど、東京が今抱えている課題が見えてきます。しかし、いちばん大きな問題は、解決すべき課題が見えているのに政策が追いついていないことだ――と市川氏は続けます。
「今ののんびりした政府の動きを見ていると、残念ながら今後もあまり期待できそうにありません。しかし、東京に希望がまったくないわけではありません。なぜなら東京には、ポジティブな成長要因がひとつあるからです。今回、48都市に滞在経験のある人々を対象に『働いてみたい都市は?』というアンケート調査を行ったところ、ニューヨークに次いで東京が2位になりました。とくにアジアの人々のなかに『東京で働きたい』と考えている人が極めて多いという結果が出た。これは希望につながります。つまり外国人が東京で働けるような政策をとればいいのです。そうした政策に舵を切ることができるかどうかが、今後の日本の成長を促し、都市としての東京の魅力を高めるカギを握っていると思っていいでしょう」

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