事業承継や事業継続、不動産事業、オフィス購入なら、
区分所有オフィスの【ボルテックス】

【馬渕磨理子氏登壇セミナー】
世界からみた日本経済の今
〜中小企業経営者のための財務基盤強化策とポートフォリオ形成〜

目次


 2022年10月、32年ぶりに1ドル=150円を突破し、深刻な円安に直面した日本。原材料や燃料費が急激に値上がりしたことで、企業経営者のなかには先行きに大きな不安を感じている人も多いと思われます。今後、日本経済はどこに向かうのか? これまで経験したことがない状況下で事業を継続していくためには、経営者は何をすべきなのか?

 年間150社以上の企業を取材し、現場のリアルな声を聞きながら、経済情報やメッセージを発信し続ける経済アナリスト・馬渕磨理子氏に、今後の経済の見とおしと、企業を成長に導くためのアドバイスをうかがいました。

*このコラムは、2022年12月8日に開催されたオンラインセミナー「世界からみた日本経済の今〜中小企業経営者のための財務基盤強化策とポートフォリオ形成〜」を基に再構成したものです。

円安は130円から120円台後半の水準で落ち着く

 一時は1ドル=150円を超えたことで、「歴史的な円安に突入」とマスコミは騒ぎ立てましたが、政府日銀が為替介入を行ったこともあって、現在(2022年12月)は130円台にまで戻しています。しかし円安が続いていることには変わりはありません。この円安はいったいいつまで続き、どれくらいのレートで落ち着くのでしょうか。
「160〜170円台にまで達するのではないか、と心配されている方もいらっしゃるようですが、おそらくは、そこまではいかないと思います。なぜなら、11月頭にアメリカの政策金利のゴールが5パーセント程度になりそうだ、という兆しが見えてきたからです。5パーセント程度がゴールだとすれば、すでに4パーセントまで達しているわけですから、この先、大幅なアメリカの利上げはないと思っていいはずです」

 そもそも日本が円安に転じたのは、アメリカがインフレから脱出するために急ピッチで利上げを行ったのが原因です。投資家はより金利の高い国の国債を買おうと動くため、アメリカが通貨高になり、利上げを行わない日本が円安となった。つまり、アメリカの利上げがストップすれば、円安もこれ以上は進まないーーということになるのです。
「円安がどこで落ち着くかというと、今のアメリカの動向だけを踏まえると、おそらく130円台から120円台後半ぐらいに落ち着くのではないでしょうか。150円台になると国民の不満感情が高まってきますが、120〜130円台ならば、それは日本経済にとってプラスに働く“よい円安”となるはずです。ただし円安のメリットはすぐには現れません。Jカーブ効果という経済用語がありますが、急速に円安が進んだ1年目はコスト高といった円安のマイナス効果が出やすく、谷の状態がしばらく続きます。しかし、2〜3年経つと国内製品の海外での価格が下がり、日本企業の競争力は逆に高まっていくと思われます」

アメリカの景気後退の影響はそれほど大きくない

 円安が落ち着いたとしても、まだまだ安心はできません。アメリカはすでにリセッション(景気後退期)に入ったといわれていて、アメリカの景気後退が今後、世界経済、日本経済にマイナスの影響を与えることも懸念されています。
「確かに多くのアナリストは、アメリカはすでにリセッションに入ったといっていますが、アメリカの雇用を見ると、失業率は3パーセント、賃金も5パーセントずつ上昇しています。アメリカのGDPの約7割を占めているのが個人消費なので、失業率が低く、賃金が上昇し、個人消費が堅調な状況ならば不景気とはいえません。またアメリカでは毎月「ISM」と呼ばれる景気動向アンケートを企業に実施していますが、これを見るとサービス業・非製造業に関しては『不景気とは感じられない』という結果が出ています。そうしたことを踏まえると、今後、多少アメリカの景気が後退したとしても、リーマンショック時のような大きな谷とはならず、傷はそれほど深まらずに収まるのではないかーーというのが今の見とおしです」

 また、馬渕氏は現状において日本経済自体は、みんなが思っているほど悪い状況にはないともいいます。
「現在、アメリカ、ヨーロッパ、中国の経済は減速期に入っていますが、じつは日本だけは緩やかな拡大傾向へと向かっています。これにはIMFやOECDの機関投資家も注目していて、今後は日本への投資が増える可能性もあるのではーーと私は思っています。なぜ、日本だけが緩やかながらも成長しているのか? それは日本が金融緩和政策を続けているからです。

 ヨーロッパはロシアにエネルギーを依存しているため、景気がよくないのに利上げしなくてはならない状況になっています。一方、アメリカは景気がよすぎるため、行きすぎた景気を抑制するために利上げを行っています。中国は利下げを行っていますが、これはゼロコロナ政策によるものなので、意味合いが少し違います。中国は近いうちにゼロコロナからの政策転換を図ると予想されるので、そうなれば中国の経済再開が日本経済にもダイレクトに影響してくるはずです」

リスクに備えて、財務基盤を強化しておくべき

 これまでの馬渕氏のお話からすると、インフレも円安も恐るるに足らずーーといった楽観的な気持ちになってきますが、あくまでこれは、現状のまま進んだ場合のシナリオ。黒田総裁の退任後、次期日銀総裁が利上げに大きく舵を切ったり、台湾情勢の悪化など地政上の問題が勃発した場合、状況は大きく変化する可能性があります。馬渕氏もそうしたリスクに備えて、企業経営者は財務基盤を強化しておくべきだーーと続けます。
「インフレ下では現金預金は目減りしていく一方なので、まずは資産を守るためにポートフォリオを組んでバランスよく投資することが重要になります。インフレに強い資産として株式、投資信託、不動産、金があげられますが、私はインフレには金融業界のインフレと現実社会のインフレのふたつがあると認識しています。株式や投資信託に関しては金融業界のインフレなので、すでにある程度まで行ったと思っていいでしょう。これからは現実社会のインフレがはじまるので、不動産をポートフォリオに組み込むことを考えるべきです」

 不動産投資には、リート(不動産投資信託)と現物投資がありますが、できれば国内の現物不動産を投資に組み込むのがおすすめだといいます。
「なぜ現物不動産を勧めるかというと、日本は超低金利が続いていて、非常に不動産を購入しやすい状況にあるからです。さらに円安によって海外の富裕層は、日本の不動産をこれまでの2割、3割安で買えるようになったため、投資対象としての需要がどんどん高まっています。東京五輪が終わったら値崩れが起こるといわれていましたが、むしろ価格は上がっているし、25年に大阪万博があるというのも投資対象としては非常に魅力的だと思います」

新事業に取り組む際にはファイナンスの知識も必要

 また、今後、企業として長く生き残っていくためには、SDGs関連など、時代に即した新たな事業にチャレンジしていく姿勢も必要で、それは経営を安定させるだけでなく、企業のさまざまな強みにもつながっていくはずだ、と馬渕氏は予想します。
「成功例をひとつあげておきましょう。もともとスポンジタイヤなどの開発製造を行っていた『KOTOBUKIMedical株式会社』さんという町工場が経営的に苦しくなり、それまで培った技術を使って、医師が手術のトレーニングに使うための『模造臓器(こんにゃく臓器)』をつくってみたところ評判となりました。SGDsにもつながる取り組みとしてマスコミに多く取り上げられたことで、発注が順調に増えただけでなく、若い世代の就職希望者がかなり増えたそうです。SGDsに関連した事業を取り入れることが、結果的には人材確保やさまざまな面でも強みになる時代になってきたのです」

 新規事業をはじめる際には、資金調達がネックになりがちですが、多くの人の賛同を得やすい事業や、将来が期待できそうな事業の場合は、銀行融資を受けずとも資金調達できる方法が存在するようです。
「じつは銀行から借り入れができなくても、未上場の企業であっても、資金を集める方法が、今、日本でも一般的になってきています。『エクイティ・ファイナンス』という株式投資型クラウドファンディングがそれです。『KOTOBUKIMedical株式会社』さんもこのファイナンスを活用して8900万円を集めて起業したそうです」

 エクイティ・ファイナンスとは金融機関や投資家からお金を借りるのではなく、株券を発行することで資金を得るもので、原則返済の義務はありません。これまでは地元の富裕層が地域の企業をサポートするために2000万円入れて、その代わり経営に口を出すというパターンが一般的だったようですが、最近はこれとは違った動きもあるようです。
「経営に対して意見を述べるために投資するという形ではなく、これからはじめる事業に期待する純粋なファンが、小口投資家となるパターンが徐々に増えてきているようです。ひとりの投資家が出すのは10万円ぐらいですが、それが200人集まれば2000万円になりますよね。いずれにしても、これからの時代、中小企業が生き残っていくためには国の政策や社会の動きをきちんと把握すると同時に、ファイナンスなどさまざまな情報にも目を向けておくことが大切になってきます。そして新たな事業に取り組んだ際は、しっかりホームページに記載して、プレスリリースを出してください。そうすれば、メディアの方がどこかで見ていてきっと評価してくれます。企業の価値を上げるためには、発信するところまでが経営だというふうに認識しておいてください」

財務戦略・財務強化の一覧に戻る
  • 本記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。掲載されている情報は、予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、資産運用・投資・税制等について期待した効果が得られるかについては、各記事の分野の専門家にお問い合わせください。弊社では、何ら責任を負うものではありません。

関連記事

Recommend