「成功者はなぜ、高いワインを飲むのか?」
~豊かな生き方を叶えるために、価値あるものを見極める~

目次

単なる「飲み物」という存在を超え、ワインは古くから多くの人々を魅了し続けてきました。ステータスシンボルとして、コミュニケーションツールとして、あるいは投資対象として、特に富裕層に愛され続けてきたワイン。話題の著書『成功する人はなぜ、高いワインを飲むのか?』の作者であり、ザ・コンコルド・ワインクラブ主宰、ワイン輸入商社・株式会社グランクリュ・ワインカンパニー代表取締役社長の渋谷康弘氏が、「成功する人」と「ワイン」との不思議な関係性を解説します。

階級意識が育んだワイン文化

1624年にルイ13世の狩猟の館として建設されたヴェルサイユ宮殿には、フランス中から全貴族が強制移住させられていました。「フランス絶対王政の象徴」ともいわれた宮殿で開催される晩餐会では、貴族たちがお気に入りのワインを飲み、華やかな会話を交わします。

もともとフランスの宮廷ではブルゴーニュワインが愛飲されていましたが、ルイ15世の公妾であったポンパドゥール夫人が魅了された『シャトー・ラフィット』、「ワインの女王」と呼ばれたデュ・バリー夫人が愛した『シャトー・マルゴー』、「ぶどう畑のプリンス」と呼ばれたアレクサンドル・ド・セギュール侯爵が好んだ『シャトー・ラトゥール』というように、キーパーソンが愛したワインが人気銘柄となり、高貴な階級の人々のコミュニティに広まりました。

その後、鉄道網の整備や税制の緩和により、フランスのワインは国内全土で消費され、そして全世界へと輸出されていきました。その状況を鑑みたナポレオン3世は、イギリスに輸出されていたボルドーワインを農産部門の目玉として選び、1855年の第1回パリ万国博覧会を契機に、そのブランド化を図るための格付けを命じます。約4,000 あるシャトーから、『シャトー・ラフィット・ロートシルト』『シャトー・マルゴー』、『シャトー・ラトゥール』、『シャトー・オーブリオン』という今日でも有名な4つのシャトーが第1級に選ばれ、ワイン大国・フランスを代表する銘柄として、世界中にその名が知れ渡るきっかけとなりました。

ちなみに1867年に開催された第2回パリ万博では、細菌学者のパストゥールが発表したワインの「低温殺菌法」がグランプリを受賞。酵母が引き起こすアルコール発酵と、細菌が引き起こす有害な発酵を区別し、変質を引き起こす菌を加熱することで殺菌するという技術が世界各国へのワイン輸出を可能にし、フランスワインの名声を広めることに貢献しました。

ステータスシンボルとしてのワイン

第1回パリ万博を機に始まったワインの格付けが浸透すると、富裕層の間で「ステータスシンボル」としてのワインの存在が注目されるようになりました。

第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソンは、駐フランス公使を勤めていた1787年にボルドーのシャトー・オーブリオンを訪れ、ワインを6ケース購入して故郷であるバージニア州へ送りました。これが公式にアメリカ合衆国へ輸出された初めてのワインとなりました。

ロンドン、パリ、フランクフルト、ウィーン、ナポリに銀行を開設した、ロスチャイルド家の一員、ナサニエル・ロスチャイルド男爵は、1853年に『ブラーヌ・ムートン』を落札。『シャトームートン・ロスチャイルド』と改名されたそのワインは、当初の格付けでは第2級に甘んじたものの、118年後の1973年に5番目の第1級となるワインへと昇格を果たしました。

このようにワインは、上層階級のネットワーク形成のためのツールとして、あるいは様々なことに興味を持つエリート階級の欲求を満たす題材として愛されました。彼らは、ただ酔うためだけでなく、年代や気候によって大きく変化する味わいや背景にあるストーリーを深掘りする「不確実性を楽しむ知的行為」に魅了されたのです。

そんなワイン特有の楽しみ方を象徴する、ひとつのエピソードに、1976年に行われた「パリスの審判」があります。パリに住むイギリス人のスティーヴン・スパリュアは、アメリカ合衆国建国200周年と結びつけ、自身のワインショップとワインスクールを宣伝するためのイベントとして「ブラインドテイスティング」を行いました。それはフランス産の超一流ワインとカリフォルニアワインを、銘柄を隠した状態でテイスティングさせ、その味や香りを競おうというもの。審査員はフランスのワイン界を代表する専門家9名ということもあり、当初はフランス産ワインが圧勝するだろうと思われていました。

ところが結果は、白ワインの部で『シャトー・モンテレーナ 1973年』、赤ワインの部で『スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ 1973年』がそれぞれ最多得票となり、ともに、カリフォルニア産のワインが勝利したのです。

「無名のカリフォルニア産ワインが、フランスの超一流ワインに勝った」というニュースは世界中を駆け巡りました。パリ万博から続く「フランス黄金時代」に待ったをかけたこの出来事は、ナパ・ヴァレーをはじめとするカリフォルニアワインの産地が注目されるきっかけになったとともに、『ワインスペクテーター(1976年創刊)』『ワインアドヴォケート(1987年創刊)』といったワイン専門誌の誕生に端を発する「ワインジャーナリズム」と呼ばれるムーブメントを巻き起こすことにもつながりまし。

ポジティブ思考でワインを消費する

現代において、ワイン消費の中心は言うまでもなく欧米です。一方、我が国はというと、750mlのボトルで年間約5,800万本のワインが飲まれていますが、日本人1人あたりの消費に換算するとたった4本弱。あまり多いとはいえません。

この理由として考えられるのは、ワインとキリスト教との関係性です。ワインが聖書にたびたび登場することから、キリスト教の布教がワインの普及に大きな影響を及ぼしたといわれています。日本と欧米のキリスト教信仰の度合いの違いが、ワインの消費量の違いにも関連していると考えることもできます。

また食肉文化とワインの消費にも、大きな関係性があります。アルコールはおもに小腸で吸収されますが、油分を多く含むステーキを食べることでそれが胃の出口を塞ぎ、アルコールが小腸に至るまでの時間を引き伸ばすことができるとされています。つまりアルコールの血中濃度を上げないために、胃での消化に時間がかかる肉料理は好都合なのです。

またワインの原料となるぶどうに含まれる有機酸、ポリフェノール、ビタミン、カルシウム、ナトリウムなどのミネラルは健康によいとされ、肉食中心の食生活の場合に心配される心疾患の予防につながるともいわれています。これも食肉文化が強い欧米で、ワイン消費が多い理由のひとつなのでしょう。

分厚いステーキを頬張りながら、気のおけない仲間との会話に花を咲かせる食卓には欠かすことのできないワイン。アルコールの摂取は、健康志向の強い富裕層にとってそれに反する行為と知りながら、「ワインなら健康によいから」という考えで、時間をかけながらグラスを傾けることは、ポジティブ思考で人生を楽しむエリート層にマッチした習慣といえるかもしれません。

最近では先進国の多くで男性と同じように働き、配偶者と同等の資産を保有する女性が増えたことで、女性富裕層がワインの消費を牽引しているといわれています。この先も、上品にワインを嗜みながら、優雅な時間を過ごす女性はますます増えていくことでしょう。

Vineyards in the autumn season, Burgundy, France

資産としてのワイン

ワインはこれまでの歴史上、多くの成功者たちを惹きつけてきました。その大きな理由である、最大の魅力ともいえるのが「香り」です。

人間の脳の中で、匂いに反応する中枢は、記憶をつかさどる海馬に近い位置にあるとされています。ワインには800から1,000もの風味を生み出す揮発成分が含まれており、中にはバラやコーヒーにも共通する、脳に心地よい感覚を与えるものもあるとされています。ワインの香りが脳に残された成功の記憶を呼び覚まし、その時に覚えた幸福な気分をもたらすというのが、富裕層が1本数千万円ものワインをためらいもせずに購入する動機となっているのかもしれません。

そんな高価なワインは、最近では不動産のように、投資対象として注目されてきています。一般的にワインは、木樽で熟成され、出荷されるまでに数年間を要します。その後、輸入業者、卸売業者、小売業者などの流通を経て、消費者の手元に届きます。そのタイムラグと熟成によって決まる値段の変化に着目し、まだ瓶詰めされる前、木樽の中に眠る段階のワインを購入し、瓶詰め後に値が上がった時点で売却する「プリムールワイン投資」が、世界的に流行しています。平均利回りが約17%ともいわれ、日本でもこの投資を取り扱う証券会社も出てきています。

さらにワインには、「持っていれば値段が上がる」という神話があります。例えば世界最高の銘柄ともいわれる『ロマネコンティ』は、2015年から2021年の間にとてつもない価格上昇をみせており、全ビンテージの平均価格が21,000ドルを超えています。

このように投資商品としても魅力があるワイン。これを現金化するには、ワインファンドに投資してプロに任せる方法や、ワインをオークションに出して取引するという方法があり

ます。「オークションでワインを買い、飲まずに売る」というのも非常に興味深いワインの楽しみ方のひとつだと思います。

ブドウ畑に植えられたブドウの実が年に一回収穫され、その果汁からワインが造られ、樽に入れられた時点での価格と、ボトルに詰められ売られた時点での価格との差額が投資の対象にもなる。そのような土地と人が介在して価値が高まるプロセスをみるにつけ「ワインは不動産である」という考え方は、あながち間違いではないと思います。

ワインとは、ブドウ畑という不動産で作られる農業製品であり、発酵というプロセスを経て商品化される商業製品であり、個人の手元に渡った以降では香りや味を楽しむ飲み物であり、大切な人たちとのコミュニケーションを円滑にするツールであり、あらゆる場面で喜ばれる贈答品でもあります。

「ワインを知る」ということは、長い間育まれてきたヨーロッパの富裕層の文化を学ぶということにもつながります。多くの手間や時間を経て、私たちに届けられるワイン。その背景や魅力を深く知ることで、もっともっと興味深い飲み物となるはずです。

監修者

渋谷 康弘 氏

ザ・コンコルド・ワインクラブ主宰 株式会社グランクリュ・ワインカンパニー代表取締役社長

1964年新潟県生まれ。上京後にヨーロッパに渡航。ワインを学びながらホテルやレストランで働く。帰国後にインターコンチネンタルホテルズグループのチーフ・ソムリエとして長年にわたりワインのサービスに携わり、多数のコンクールで入賞。2014年ワイン専門商社ワイン・イン・スタイルの代表取締役社長を経て、2017年ワイン輸入商社株式会社グランクリュ・ワインカンパニーを設立。会員制ワインクラブ「ザ・コンコルド・ワインクラブ」では個人向け小売販売を行う。

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