第5回
世界の都市総合力ランキング(GPCI—2017)の結果について[3/3]

ロンドン 10年間での分野別スコアの変化
ロンドン 10年間での分野別スコアの変化

© 2017 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION

 各々の特徴はどうかということです。この10年間でどう変わったかというと、点線が10年前で、実線が今回です。ですからロンドンはスコアを上げています。いわゆるオリンピック効果といわれる典型的なもので、オリンピックで良くなる都市、悪くなる都市の2つあることを私たちは知っていますが、ロンドンは良くなったわけです。
もう1つ良くなったケースがアトランタですけれども、過去例外的にオリンピック開催後に力を上げた都市になります。ロンドンがすごいのは、スコアの上昇をそのまま維持していることです。これは「文化・交流」、「交通・アクセス」が強いことが関係しています。


ニューヨーク 10年間での分野別スコアの変化
ニューヨーク 10年間での分野別スコアの変化

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 ではニューヨークはどうか。ニューヨークは10年前より下がっている分野が3つもあります。
このあたりがニューヨークの低迷の原因で、要するにスコアが浮上するような大きなきっかけや、目新しい政策もそれほどなかったということもあって、結果的に都市力がうまく上がっていないわけです。


東京 10年間での分野別スコアの変化
東京 10年間での分野別スコアの変化

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 次に東京はどうかですけれども、東京にも上がったものと下がったものがあります。上がったものでは、特に左側の「交通アクセス」の部分が上がっています。なぜかというと、「交通アクセス」の評価指標のなかに、“海外に接続している飛行機の数”があって、これが羽田空港の国際化によって着々と増えているので、これが大きく効いています。それから「経済」、「研究・開発」が少し凹んでいる。「経済」が凹んだのは、円安になったことが影響して下がっている状況です。それから「研究・開発」も同様に、研究開発費などは例えばUSドルなどでやり取りしますから、こうした為替変動に影響を受けています。ただ円安というのはプラスの影響もあって、例えば物価についてはドル換算すると円安は良い方向に働きますから、そういうこともあって相殺されるわけですが、結果的に「経済」と「研究・開発」は落ちてしまっています。


パリ 10年間での分野別スコアの変化
パリ 10年間での分野別スコアの変化

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 そしてパリですが、パリはあいにく何も伸びていない。これにはいくつか理由がありますが、1つのバナーつにはやはりパリ市街が持っているあの都市空間の構造があります。
実は世界中どこでも国際化に向けて急激にビジネスセンターを造っていて、東京然り、ロンドン、ニューヨークも同時進行ですけれども、パリ市内では新しい開発が許可されません。また高さも8階建てに抑えられていますから、大きなものはできない。
そういう意味では、国際競争力を得るなかでの動きができていません。これが結果に表れています。


シンガポール 10年間での分野別スコアの変化
シンガポール 10年間での分野別スコアの変化

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 最後にシンガポールは刻々と力を上げています。
東京の場合は、東京が何かしたくても国があって国の政策がどうなのかというところが必ず引っ掛かかってきますが、シンガポールの強さは国と都市が一緒なところです。
ですから戦略が一緒です。このことが、いつも非常にレスポンスが速い都市であることの最大の理由になっています。


プロフィール

日本の人口推移(2005年-2050年)

市川宏雄(いちかわ ひろお)
明治大学名誉教授
帝京大学特任教授、中部大学客員教授

 1947年東京に生まれ育つ。早稲田大学理工学部建築学科、同修士課程、博士課程を経て、カナダ政府留学生として、ウォータールー大学大学院博士課程(専門は都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
 ODAのシンクタンク (財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所主席研究員の後、1997年明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市計画出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では珍しい学際分野の実践者。2004年から2018年3月まで明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長。2008年から2016年まで明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長も務める。現在、日本自治体危機管理学会会長、森記念財団業務担当理事、町田市・未来づくり研究所所長、日本危機管理士機構理事長等、要職多数。Program Committee Member of Innovative City Forum, Steering Board 海外ではCheering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)。

専門とする政策テーマ:
大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク