都心のオフィスビルの魅力は「希少性」

株式会社ボルテックス 代表取締役社長 兼 CEO 宮沢 文彦氏株式会社ボルテックス
代表取締役社長 兼 CEO 宮沢 文彦氏

宮沢 市川先生が手掛けられている「世界都市総合力ランキング」は大変、興味深いものがあります。

市川 2008年に公表し、ちょうど10年になります。
都市の魅力は総合力にあります。そこで世界で初めて総合力を網羅するランキングを作成し、大きな評価を得ています。
この間、大都市に対する一般の認識も高まり、大都市の成長が国の成長に直結することは、いまや世界の常識になっています。世界の都市の力と国の力が近似していることが分かってきたんですね。
大都市が頑張っている国は成長する。東京もしかりです。

宮沢 東京の不動産の魅力は、その希少性にあります。
集積度が非常に高く代替が難しい東京都心5区の商業ビルの延床面積は1200万坪(約3967万平方㍍)にすぎません。例えれば空き椅子がないような状態と言っていい。
さらに物理的な希少性に加え、そこに立地する会社はリクルーティングやブランディングといった各種の付加価値が連動してくる。
弊社が手掛けている「区分所有オフィス」は、ミドルサイズの商業地の権利を購入できるものですが、そこに開発や商売上の用途が加わることで、所有オフィスの価値は飛躍的に高まります。
こうした希少性を求める動きは投資家の動向にも見て取れます。例えば、先般、都心の超高層マンションの最上階、いわゆるペントハウスがアジアの投資家によって過去最高額の50億円を超える高値で購入されました。
アセットタイプにかかわらず希少性のある物件に緩和マネーが向かっています。

市川 世界の都市総合力ランキングの1位はロンドンです。2位はニューヨークで、東京は3位。
しかし、2~3年後には、東京はロンドン、ニューヨークと肩を並べる可能性もあると見ています。
要因は多岐にわたりますが、土地活用に限っても容積率の緩和など、90年代に規制緩和にいち早く取り組んだ結果、東京の土地、とりわけ商業地の付加価値は非常に高まっています。
それでも東京の不動産価格は、世界からみればまだ割安な水準で、海外の投資家はその将来性に着目しています。

宮沢 確かに、ニューヨークの中心街と東京銀座の坪当たりの単価を比較すれば、まだ東京はニューヨークの3分の1程度でしょうか。

市川 海外の投資家からいえば、東京の不動産は買いたくても買えない。
市場に出回る物件数が非常に少ない状態ですね。

地価の上昇(路線価)

海外の投資家も着目する不動産資産の複利効果

宮沢 現在、世界の投資家が東京の不動産に熱い視線を注いでいます。
例えば昨年、ノルウェーの政府系ファンドが渋谷や港区の商業施設を約1325億円で購入しています。長期投資の政府系ファンドや年金ファンドがなぜこれほど東京の不動産に着目するのか、それは不動産が持つ長期・複利運用の利点にほかなりません。
丸の内エリアはその象徴と言えます。日本を代表するオフィス街丸の内には多数の上場企業が集積し、日本の経済成長を牽引していますが、1890年(明治23年)に三菱グループ二代目社長の岩崎彌之助氏が購入した時の値段は128万円でした。
当時の東京市予算の3倍を超える莫大な金額を投じたわけですが、その現在価値は約8兆2925億円と推定されています。
124年間の複利運用で年率13.48%の利回りを得た計算になります。(※)

市川 バブル経済までは、均衡ある発展の名のもとに大都市への集積が進まないよう政策的に開発を抑え、それが地価を抑制してきた面がありますが、その制約がバブル崩壊を契機に取り払われました。
現在、東京の開発が旺盛である最大のポイントはここにあります。
90年代に劇的な規制緩和が行われ、超高層ビルが数多く建設されました。当初は、供給過多が懸念されていましたが、結局、問題ないことが立証されました。

宮沢 デフォルトしにくいアセットとしてのオフィス不動産は、価値の維持に最も効果的で、地方創生の切り札にもなると考えています。
弊社が提唱する不動産戦略、「100年企業戦略」はまさに地方創生をバックアップする手立てにほかなりません。
地方の企業が都心のプライムエリアの「区分所有オフィス」を購入し、資産として所有することで、東京から地方へと、お金が流れる仕組みを作れるわけです。

市川 地方と東京は一体で、お互いに融通し合えばいい。地方創生との関係でいえば、集積度の高まる大都市の果実を他の地域に還元する施策が有効ではないかと考えています。
こう言うと一極集中の弊害や格差を云々する向きもありますが、海外ではむしろ受け入れられている考え方です。
先般、訪ねたウィーンでも日本同様に一極集中が進んでいるのですが、「国全体元気になればいいのではないか」と一笑に付されました。(笑)

(※)出所:「三菱地所グループ個人投資家向け会社説明資料(2017年9月)」、三菱地所 有価証券報告書のデータを元に弊社作成

地方創生にも有効な「区分所有オフィス」

市川 宏雄氏市川 宏雄氏
[いちかわひろお]都市政策専門家。明治大学名誉教授、日本テレワーク学会長、自治体危機管理学会長などの学術的活動に加え、文京区、中央区都市計画審議会会長、港区、渋谷区基本構想審議会会長はじめ、国土交通省、内閣府等の政府委員を多数歴任。

宮沢 都心プライムエリアの商業地は集積が高い「ダイヤモンド」のような希少性を有しています。
流動性の高い都心の不動産の価格は今後も上昇すると私は考えています。
希少性の高い都心プライムエリアのオフィスビルを企業が持つことで、複利効果によって持続的に価値が増える資産により、経営の持続性を高めることが期待できます。

市川 国際的なイベントの直後に経済が失速する都市や国は多いのですが、例外はアトランタとロンドンで、両都市は無理な投資をせずに弱点を補ったことで、イベント後に経済が大きく伸びました。
世界都市総合力ランキングでロンドンがトップに躍り出た要因もここにあります。
同じように東京も大きなイベントでの無理な投資を控えており、私はイベント後も変わらず成長が持続すると見ています。
多くの開発プロジェクトは2025~26年に完成する見通しで、東京の風景は一変するでしょう。さらに2027年にはリニア中央新幹線の開通が予定されており、東京の「アジアヘッドクオーター特区」構想も動き出している。
東京がどうなるか、次のテーマはリニア中央新幹線を活かし東京と名古屋が一体化する、WIN・WINの関係をどう構築していくかにかかってくる。両都市はそれぞれサービス業と製造業が集積する補完関係にあり、世界の歴史でも例を見ない都市の融合が実現する可能性があり東京の持つポテンシャルの高さがうかがえます。

宮沢 東京へのIT集積も急速に進んでいます。その潮流を生かすべく弊社もCoworkingの研究を行っています。インキュベーターとなりうるオフィスの在り方を模索したいと考えています。
また、最近は海外の投資家は、日本の低金利を生かして調達した資金を元手にレバレッジかけて都心の不動産取得に動いています。
東京の富を海外に持っていかれるのではなく、より多くの日本の中堅企業等に所有してもらいたいですね。例えば、地方の企業が東京に支店を開設する際には、賃貸ではなく区分所有で自社オフィスを持つことで、自社の資産価値を高められる。
検討に値する戦略だと思います。

市川宏雄氏×宮沢文彦